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桐谷健太さん主演「ミラクルシティコザ」制作の舞台裏 プロデューサーが見いだした「地方に眠る商機」とは?沖縄を舞台に70年代と現代が交錯(1/4 ページ)

» 2022年01月29日 05時00分 公開
[伏見学ITmedia]

 「理屈ではなく、やりたかった」

 2月4日に全国公開される映画「ミラクルシティコザ」で主演を務める俳優の桐谷健太さんは、かみ締めるように出演理由をこう語る。

俳優の桐谷健太さん(撮影:苅部太郎)

 この映画はコザ(現・沖縄県沖縄市)を舞台に、本土復帰前の1970年代と現在を描いたエンターテインメント作品。コメディーの要素を持ちつつも、当時、米兵たちを熱狂させたロックバンドの視点を通して、沖縄が置かれていた現実を知ることのできる記録映画としても楽しめるように作られている。

 桐谷さんは、中学生のころに家族旅行で宮古島を訪れて以来、何度も離島や本島に足を運ぶほどの沖縄好き。自ら三線を弾きながら歌う「海の声」は、紅白歌合戦に出場したこともあって、幅広い世代に親しまれている。このように人一倍、沖縄に対する思い入れは強いが、コロナ禍で何度も制作スケジュールが変更になっても、桐谷さんがこの映画作品を手放さなかったのは、監督の熱意に心を動かされたことも大きい。

 監督は平一紘氏。桐谷さんのフィードバックに対して、脚本を何度も書き直した。時には一晩で修正することも。その思いが桐谷さんにも響いたようだ。

「ミラクルシティコザ」の平一紘監督

 実は平監督は、本作がメジャーデビュー。その新人監督をバックアップするのが、制作プロダクションのオフィスクレッシェンドだ。同社では、若きクリエイター発掘の場として、2017年から「未完成映画予告編大賞」という映像コンテストを実施。これは、3分以内の映画の予告編を一般から募集するもので、任意の地域を舞台に制作することが基本条件となっている。

 グランプリ受賞者に対して、同社が映画づくりを全面的にサポートするほか、3000万円相当の制作費を提供。もちろん、これだけで全てがまかなえることはないが、資金的に後ろ盾のない新人にとっては大きな助けとなる。

 グランプリの第1回は「高崎グラフィティ。」、第2回は「猿楽町で会いましょう」。そして第3回はこの「ミラクルシティコザ」が獲得した。

 オフィスクレッシェンドはなぜこのようなコンテストを立ち上げたのか。ビジネス的な狙いは何か。その真意を同社の神康幸副社長に聞いた。

地域に埋もれた才能を発掘したい

 オフィスクレッシェンドは1987年に設立。ドラマやバラエティを中心としたテレビ番組や、映画、ミュージックビデオなどを手掛けている。社長で映画プロデューサーの長坂信人氏を筆頭に、映画監督の堤幸彦氏や大根仁氏など、日本を代表するクリエイターが経営陣に名を連ねる。もちろん神氏もその一人として数々の作品をプロデュースしてきた。

神康幸 エグゼクティブプロデューサー、オフィスクレッシェンド取締役副社長COO。「未完成映画予告編大賞〜MI-CAN」事務局リーダー。音楽雑誌の編集者を経 て映像の世界へ。主なプロデュース作品に、映画『包帯クラブ』(2007/堤幸彦監督)『ツナグ』(12/平川雄一朗監督)、『くちづけ』(13/堤幸彦監督)、『悼む人』(15/堤幸彦監督)、テレビドラマとしては、「あぽやん〜走る 国際空港」(13)、「スターマン・この星の恋」(13)、「視覚探偵 日暮旅人」(17)など

 そんな同社が未完成映画予告編大賞の企画を進めた理由の一つに、「地域」とのつながりがある。

 「地方には魅力的な場所がたくさんありますが、何度も同じところでロケをするかどうかは分かりません。だったら、地方の人が企画をつくって、僕らがそこから可能性を探るほうが、広がりが生まれるのではないかと常々考えていました。単純に3分以内で予告編をつくってもらうだけでも良かったのですが、日本中の知らなかった風景が見られるのは面白いのではとなったわけです」

 また、地域を絞ったほうが作品の独自色を打ち出せることもあった。例えば、オフィスクレッシェンドが過去に関わったテレビドラマ「池袋ウエストゲートパーク」や「木更津キャッツアイ」「下北サンデーズ」などからも証明されている。

 加えて、全国に点在する優れたクリエイターを見つけ出すという思惑もある。

 「僕らはどうしても東京中心に動いているので、地方のクリエイターと出会う機会が少ない。でも、北海道や九州にも埋もれた才能がいるに違いないという確信めいたものがありました」

映画「ミラクルシティコザ」の一コマ(©2021オフィスクレッシェンド)
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