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レッドハット:第2世代に入ったLinux (2/2)

オープンソースのビジネスモデルを明確に

ZDNet 最近では、ハードウェアメーカーがサーバにプリインストールされているLinuxもサポートするという動向があります。このような流れは、ディストリビュータとして歓迎すべきものでしょうか。

平野 ハードウェアメーカーとはうまく協業していけると考えています。例えば、マイクロソフトが目指しているビジネスモデルは、OSをベースとして周りを取り込んでいくものです。しかし、Linuxには初めからそのようなビジネスモデルがありません。

 具体例としては、リレーショナルデータベースソフトでの問題を挙げると分かりやすいです。この分野で世界的にデファクトとなっているのはオラクルであり、オラクル抜きに現在のITを語ることはできません。オープンソースの「PostgreSQL」は、普及しているもののオラクルのように大規模でのトランザクション処理に向いているとは言い切れません。それにもかかわらず、オラクルと対抗するためにPostgreSQLをぶつけるという発想は、技術的、ビジネス的にも無茶な考えです。

 オープンソースの世界では、マイクロソフトのようにオラクルと対抗するためにSQLサーバーを取りこむといった姿勢ではなく、現在ではオラクルを利用すれば実績からも合理的といわれています。Linuxディストリビュータとしてのレッドハットは、基本的なOSとしてのプラットフォームだけの部分をしっかりと保証し、データベース面ではオラクルと協業しようと考えています。搭載されるハードはハードウェアメーカーと協業すればよく、データベース以外のソフトやミドルウェア、アプリケーションの提供、さらにシステム構築面などは、基本的に他社のビジネスチャンスとして広がっていけばよいと思います。これがオープンソース流の考え方です。

ZDNet Linuxディストリビューションが多数混在する現在、これからの優位性はどのような点にあるのでしょうか。

平野 Linuxディストリビュータとしての使命の1つは、オープンソースからいろいろなパッケージを厳選し、インストール後すぐに利用できるようカスタマイズを行うということです。例えばRed Hat Linuxの場合では、1500ほどのパッケージを集めインストール後すぐにでも利用できる状態にチューニングし、初期設定などを行っています。これは、オープンソースの性質上その気になれば誰もがパッケージできることも意味するのですが、どこまでの保証を提供するのかという質的な違いがディストリビュータの優劣を決定します。簡単なようでこれがなかなかたいへんであり、レッドハットをこの優位性を維持するために日々改良を重ねています。

「Linux利用の多様化はとてもうれしいことですね」と語るレッドハット代表取締役・平野正信 氏

 ディストリビューションは、アジア圏を西に行くほど多様化し、混沌としています。日本はまだ種類が少ない方であり、韓国などでは派生ディストリビューションがあふれています。いかにプラットフォームとして整備されたものを提供できるかが見せ所でしょう。ちょっとしたパッチの追加やその場限りの工夫で、ディストリビューションを改良した、と言うようでは製品保証にはなりません。むしろ、良かれと思ってあてたパッチが、長期に見ると足かせとなってしまうことも多いのです。

気になるサンとの協業は

ZDNet 2003年のLinuxデスクトップ展開はどのように考えていますか。

平野 機能的な面でもLinuxは第2世代に入りました。カーネル2.4の登場とともに、コンパイラやライブラリも一新されています。カーネル2.4がベースとなったことで、デスクトップの機能や、GUI上での設定ツールにも目を向けるなどの拡充が行われているのです。Red HatLinux 8.0では、GNOMEとKDEを統合したデスクトップテーマが採用されており、アイコンを統一的にデザインし直すという試みも行いました。さらにオフィススイート「OpenOffice.org」を標準採用したのもこの流れです。

ZDNet SUN LinuxはRed Hat Linux 7.2がベースとなっていますが、サン・マイクロシステムズが2003年に発表されるデスクトップ構想について、現時点で何かやり取りされているのでしょうか。

平野 これについては、レッドハットがコメントすることではなく、サンがどのようなアプローチをするのかがカギとなっています。私自身、2002年8月に開催されたLinuxWorldの会場でサンのLinuxを見ましたが、PCの起動時にレッドハットロゴが目に入りました。米レッドハット社員の中には、「記念に」デジタルカメラで撮影した者がいたほどです。個人的には、サンのLinuxサポートをレッドハットがやってあげたいですね。

ZDNet 低迷する日本経済ですが、どのように取り組めば乗り越えられるとお考えでしょうか。

平野 低迷とはいえ、企業各社はITへの投資予算を比較的持っています。欧米では、ITに投資する権限をCIOが握っています。CIOは、システムの導入コストだけを短期的に考えるのではなく、5年先程度までの運用面管理手法や、コストを徹底的に分析しています。

 CIOには幅広い知識が必要であるわけですが、ハードウェアについては世の中全体の流れを見ながら、自社でのSPARCサーバをどの程度IAサーバに移行させるべきか、といった先見性も必要なわけです。IAサーバを検討すると、導入だけでなく運用、管理など、運用管理要員のスキルアップも考慮する必要がありますが、結果的にLinux採用を決めるというパターンが定着しつつあります。日本でもすでにこの流れが見られ、2001年後半からは問い合わせの質が変わってきています。欧米のCIO的発想でアプローチされることが多くなっています。2003年はとても楽しみですね。

2003年、今年のお正月は?
「ゆっくり休もうかなと考えています。レッドハットは決算期が2月末なのですが、12月は四半期の1か月目にあたり、それほど締めもきびしくないのです。クリスマス休暇など年末はゆっくり休みたいと思いますね」。「その代わり、欧米では1月2日から業務がスタートするため、私もEメールのチェックはしないといけません。これはIT業界で働く者の宿命でしょう」。

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[聞き手:木田佳克,ITmedia]


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