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VoIPとワイヤレスが携帯情報端末普及へのキー
2002年の携帯情報端末市場で賑わいを見せた製品の1つが、Linuxを搭載したシャープの製品だった。2003年、携帯情報端末はどのような進化を遂げるのか? シャープ 通信システム事業本部 モバイルシステム事業部長の宇野裕史氏に聞く。

2002年における国内の携帯情報端末市場のトピックは、Palm陣営に対するPocket PC勢の巻き返しと、Linuxを採用したシャープの健闘である。特にPocket PCは海外メーカーの進出により低価格化の動きがあり、2003年も注目しておく必要があるだろう。LinuxベースのOSを採用したPDAはこれまでもわずかながら存在したが、国内で大きなシェアを握るメーカーが自社製OSから載せ換えての採用に業界は騒然とした。そこで、シャープの通信システム事業本部 モバイルシステム事業部長である宇野裕史氏に、携帯情報端末市場の2003年について語ってもらった。

ZDNet 2002年の携帯情報端末(PDA)市場ですが、宇野部長はどのように盛り上がりを感じましたか?

宇野 2002年の国内におけるPDA市場は、およそ100万台オーダという数字でした。これをどのように広げていくかというのが、昨年の各PDAメーカーの役割というか使命だったのではないでしょうか。インテルの新しいプロセッサの発表を受けて、それを搭載した各社のPocket PCが発売されました。また、Palm OS搭載機ではユニークな製品が登場しましたし、価格競争も一段と激化したのも、2002年の特徴だったと思います。

 シャープとしては、2002年はまず海外への進出を第一目標としました。そして、従来のZaurusのプラットフォームから、新たにLinuxベースのOSを採用した製品をリリースしました。バリエーションとしてそれぞれ性格の異なる3モデルを投入したのですが、この新しいモデルによって、PDAが新たなユーザー層へ受け入れてもらえるものになったと考えています。

ZDNet 国内PDA市場は、モノクロよりもカラー液晶が好まれるように高機能が優先される傾向があるなど、ワールドワイドの戦略とは違ったアプローチをしなければならないと思いますが。

宇野 北米はどんな商品でも安いということが特徴です。例えばオーディオCDプレイヤーが19ドルとか、ほとんど信じられない価格です。このためまず価格が非常に重要な要素になります。それから、製品の分かりやすさということも大切です。それによって何ができるか、これをきちんとアピールできるかどうかです。そのため、製品を作るときに、どこにプライオリティを置くかということが非常に難しい問題となってきます。例えば「SL-A300」は、薄さと軽さにこだわった結果です。CFスロットを捨てて通信機能を削り、いかに小さくするかが目標でした。

 国内では、ユーザーは贅沢というか多くのものを求める傾向にあります。というわけで、それを感じ取って使い方に合わせてバリエーションをそろえていくという戦略が大切だと考えています。

ZDNet ということは、現在3ラインのZaurusですが、今後はさらにバリエーションが増えていくのですか?

宇野 いえ、さらに細かなバリエーションができてくる可能性はありますが、今のところ基本的にはこの3つでカバーできると考えています。自分自身がユーザーの立場でどういった製品が欲しいかと考え、出てきた3パターンをすべて製品にしました。

ZDNet 「SL-C700」は横型でも縦型でも利用できるという、その形状がとてもユニークですが、苦労もあったのでは?

宇野 VGAの画面を生かそうと思ったら、フォームファクターは横型ではないか、ということで社内でもかなり議論しました。その回答として、入力時は横、閲覧時は縦というこの形が決まりました。

 苦心した点は、回転機構のヒンジ部分の強度に留意したのはもちろんですが、もう1点、フリップを閉じたときの「音」にも注意を払いました。というのは、わが社は携帯電話のハードも作っており、その現場からフィードバックされたことなんですが、携帯電話のユーザーは、2つ折りに畳んだ時の「カチッ」という音と感触にこだわりを持つ人が多いのです。そのため、ここの作りこみにはかなり気を使いました。それから、キーボードの打ちやすさと薄さを両立させるため、A4サイズの文書をひたすら何百枚も打ち込みながら、より疲れないキーボードを目指した設計が行われました。

ZDNet PDAのOSとして、Linuxを選択するメリットとは何でしょう?

宇野 ライセンスフリーであるということはとても大きな要素ですが、それ以上に、デバイス自体、つまりハードウェアの設計が自由に行える点が最も大きなメリットであると考えます。例えばPocket PCでは、ハードウェアの仕様がある枠内で決められてしまっています。その結果、どのメーカーからも似たようなデバイスが発売されます。ところが、Linuxを採用するのであれば、ユーザーのどのようなニーズにも応えられるハードウェアの設計が可能になるのです。

 さまざまな使い方をユーザーに対して提示していかなければ、PDAの市場はこれからも広がっていきません。自分たちが好きな商品を作れる。これがLinux採用の大きな理由になると思います。

 もう1つ、オープンソースであるためにソフトウェアの開発者が世界中にいる、ということも重要です。例えば従来のZaurus OSで世界に出ていくには、ソフトウェア開発に関するリソースをすべてワールドワイド向けに作成し直さなければなりません。これには莫大な労力が必要となります。その点、Linuxはすでに多くのアプリケーション開発が行われており、フリーのライブラリなども数多く存在します。われわれがそのデバイスに固有となる必要最低限のものさえ用意できれば、すぐにでもアプリケーションを開発できる環境がすでにあるのです。

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[聞き手:柿沼雄一郎,ITmedia]


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