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ITシステムへの投資額が横ばい、もしくは減少傾向にある中で、数少ない明るい市場がストレージである。その理由は、ストレージを有効に活用することで、情報インフラ管理を統合し、大幅なコスト節約が実現できるからだ。EMCではそのコンセプトを「Automated Network Storage」と言う言葉で説明している。

 ストレージ業界のリーダーシップを取るイーエムシー ジャパン(EMC)だが、2002年には、まるで挑戦者の立場にあるかのように、矢継ぎ早に新製品を繰り出した。もう1つ注目したいのは、ストレージ管理ソフトウェアへのフォーカスである。同社代表取締役社長であり、アジアパフィシック地域の責任者でもあるスティーブン・D・フィッツ氏に話を聞いた。

ZDNet 2002年、ストレージ業界の勢力図には変化がありましたか?

フィッツ 2002年は、変化と統合の年でした。ヒューレット・パッカードとコンパックの合併があり、IBMと日立データシステムズがディスク事業に関して提携するといった具合に、多くの競合企業が統合に直面することになりました。この結果、市場における競合企業やプレイヤーの数は減少しています。

 世界的な不景気の中にあって、2002年は挑戦の年だったと思います。ストレージ業界の視点からは、顧客はコストを削減するための方法、ITインフラにおいて継続的に経費を節約するための方法を捜し求めているということが言えると思います。

ZDNet このようにプレイヤーの統合が進んだ理由は何でしょうか?

フィッツ 不景気は、より多くのチャンスをつかむための戦略的買収、投資にとっては好都合なタイミングだともいえます。株価が値下がりし、市場価格が一時期よりずっと低くなっている以上、今後もしばらくこの動きは続くでしょう。

ZDNet IT投資が全般に横ばい傾向にある中、ストレージは例外だと言われます。

フィッツ ここ数年のIT業界を省みてみると、1998年から1999年にかけては、2000年問題の解決に向けて多くの投資がなされました。また2000年前後には、ドットコム企業のインフラ構築のために投資がなされました。しかしこの1年半、大手キャリアによる3Gインフラの構築を除くと、新たな大規模アプリケーションの展開はありません。やはりITへの投資はスローダウンしていると言えるでしょう。

 ここで重要なのは、先ほど申し上げたとおり、企業がコスト削減を望んでいることに注意することです。ストレージは、データおよび情報インフラ管理を統合し、大幅なコスト節約を実現します。これは日本の企業にとっても、前進するためのいい機会となるはずです。EMCはこの市場を牽引するとともに、どのようにすればコスト削減が可能となるのかを啓蒙・啓発する活動を幅広く行っていきます。

ZDNet では、そのコスト削減は具体的にどのように実現されるのですか?

フィッツ 現在の一般的なシステムでは、データウェアハウスやカスタマーケアといったさまざまなアプリケーションが、色々なベンダーのサーバ上で動作し、それにストレージが直結しています。このモデルはシンプルに見えますが、アプリケーションが増えてきたときのストレージ追加が困難です。また数百台規模のシステムでは、管理やバックアップ作業が大変です。アプリケーションをまたいでの情報共有やリソースの流用ができませんから、故障時やキャパシティ追加時にはシステムを止める必要があります。

 これに対しわれわれは、経費削減のためのソリューションとして「Automated Network Storage」を提供しています。これはSAN(Storage Area Network)、サーバ統合を実現するNAS(Network Attached Storage)、そして管理用のソフトウェアという3つの要素から構成されています。見かけの構成は複雑ですが、ポリシーに沿った管理や効率的なバックアップといったわれわれのソリューションがその複雑さを解決します。これまで20人の管理者を必要としていた作業を、統合された環境で、たった2人で行えるようになるのです。簡素で効率的であり、そのうえアプリケーションのパフォーマンス向上やビジネス継続を実現します。

ZDNet では、そのAutomated Network Storageへの移行は、いったいいつ実現するのでしょう?

フィッツ 今、日本市場でDAS(Direct Attached Storage)が占める割合は、だいたい75〜80パーセントです。ですがトレンドはネットワークストレージに向かっています。おそらく2005年から2006年ごろには、50対50の比率になるでしょう。EMCはこの移行をよりすばやく実現し、企業がいっそう高い価値を享受できるように支援していきます。

ZDNet そのために必要な課題とは何でしょうか?

フィッツ 最大の課題は、市場の教育だと思っています。今、多くの企業でも同じようなことを提唱していますが、実際にそれを実現できるのは、EMCのほかにそうはありません。他社が提供しているのは一部のパーツだけです。これに対しEMCは、ハードウェアから管理用ソフトウェアまでを展開し、さらに経験や戦略的な実行力を備えています。Automated Network Storageを実現するための包括的なストレージ・ソリューションを提供できると思っています。

ZDNet 2002年は、数多くの発表を行いました。

フィッツ まず1月には、日本市場へフォーカスしていくための施策として、新宿にソリューションセンターを開設しました。組織の強化も図っており、2002年は私自身に加え、マネージング・ディレクターを任命したほか、外部からCTO(最高技術責任者)やパートナー&アライアンス担当を招きました。今後も引き続き、日本のチームの強化を図っていきます。

「EMCは唯一のトータル・ストレージ・ソリューション・プロバイダーだ」とたびたび強調したフィッツ氏

 製品に関しても、いくつか新しい発表がありました。ミッドレンジ向け製品を一新し、「CLARiX CXファミリ」を投入したほか、エントリレベルやハイエンド向けの製品も展開しています。また、デルコンピュータとの提携からも、ようやく成果が出てきました。この関係はいっそう魅力的なものになったと思います。さらに「Centera」の投入により、フィックス・コンテンツ専用ストレージという新しいマーケットを開拓しました。この製品に関しては特に反響が大きく、2003年にはいっそう大きな成長が期待できそうです。

 さらに11月には、国内で初めて「EMC FORUM 2002」を開催しました。この場では、EMCが唯一のトータル・ストレージ・ソリューション・プロバイダーであることをアピールできたと思います。

ZDNet なるほど。では2003年はどのような展開を図る予定でしょう?

フィッツ 2003年も引き続き、市場でユニークな位置にありたいと思います。つまり、Automated Network Storageへのフォーカスを強め、トータル・ストレージ・ソリューション・プロバイダーであり続けたいと思います。これまでどおり、ストレージ情報管理に多大な研究開発投資を行いますが、来年は特に、市場の啓発やパートナー・顧客向けのトレーニングに力を入れていきたいと思います。同時に、パートナーとの関係強化にも取り組んでいくつもりです。

ZDNet 具体的な製品の予定は?

フィッツ 低迷する景気の中で、競争は激化し、価格圧力は高まっています。この中でわれわれは、財政面でも健全な企業であろうと努力していきます。ストレージ分野全般に注力していくわけですが、中でも特に、ソフトウェア分野に力を入れていく計画です。具体的なことはまだ言えませんが、第1四半期の発表を皮切りに、プロダクトポートフォリオのさらなる強化を図る予定です。

 またわれわれは、トータル・ストレージ・ソリューション・プロバイダーとして、情報管理のためのハードウェアとソフトウェア、サービスを提供していますが、中でもサービスは著しい成長を見せています。最大限のメリットを享受できる形で、DASからAutomated Network Storageへの移行を支援するという意味で、サービスは今後も成長するでしょう。

ZDNet ストレージ業界全体としては、どのような傾向が見られるでしょうか?

フィッツ おそらく統合とビジネス継続の2つが市場のドライバになるでしょう。この分野を牽引していきたいと考えています。

ZDNet 率直に言って、日本企業の弱点とは何でしょうか?

フィッツ 日本に滞在したのはまだ短い期間ですが、その経験から言えるのは、日本の企業は外部からの新しいアイデアに対して閉鎖的だということです。この文化は変わるべきだと思います。日産自動車や日本テレコムのように、外部の人材を受け入れ、それによって新しいアイデアを受け入れて改善を果たしたケースもあります。答えは単純で、外部に向けて開くという考え方が必要だと思います。

 もう1つ、例えば中国の場合、今後10年間でGDP成長率1位を目指すといった明確な目標があり、国民もそれを理解しています。これに対し日本の場合、今後の10〜20年間でいったいどうしたいのか、明確なメッセージが見えていません。国としてのビジョン、戦略、将来構想をはっきりさせる必要があると思います。

2003年、今年のお正月は?
年明けには家族と旅行に行く予定というフィッツ氏。だがそれよりも話題になったのは、12月中旬のWGC(世界ゴルフ選手権)、「EMCワールドカップ」だ。「丸山、伊沢の日本チームが初優勝し、世界の頂点に立ちましたね。すばらしいことです」(同氏)。

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[聞き手:高橋睦美,ITmedia]


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