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2003年、日本の企業が復活するために何が必要なのか。米国と日本の両方の視点を持つアクセンチュアの森正勝社長に聞いた。キーワードはテクノロジー。技術ノウハウを守りながら、中国の台頭の流れに上手に乗っていくことも大事な考え方になる。

 ITバブルの崩壊に端を発し、2001年9月の米同時多発テロも追い討ちとなり、世界的にも深刻な不景気が続いた2002年。特に日本は金融機関の不良債権問題などもあいまって苦しい状況だ。2003年以降、日本の経済が再び立ちあがるためには何が必要なのか。コンサルティングファームとして、米国と日本の両軸に足をかけるアクセンチュアの森正勝社長に、同社にとっての2002年および2003年とともに、経済再生のカギについて聞いた。

ZDNet 2002年はどんな年でしたか?

 経済から言うと、米国は不景気ながらも消費はあまり落ちていない。しかし、日本は逆で、消費が上がれば自ずと日本経済も良くなるはずなのに、どうしても上がっていかない。しかも、国民はお金を持っていないわけではないのです。したがって、これは政治が悪いということになる。貯蓄と消費のバランスであるISバランスが崩れているのです。ISバランスを改善することで、需給がプラスに働き、国民は豊かに暮らせるようになります。

マクロ的には、ITバブルが崩壊して米市場にとっても成長が難しく、欧州も遅れてダウンしたという意味では厳しい年でした。特に、半導体業界にとっては大変な一年となりましたが、既にボトムは打ったと考えています。

日本についても厳しかったことには変わりません。しかし、デジタル分野などにおける半導体の先端技術について、ほぼ日本が押さえることができています。その意味で、テクノロジー的には大丈夫です。そして、もう1つは中国の問題です。中国市場に新規投資が無いとも言われていますが、長期的には必ず成長する市場です。日本は中国にいかにカネを持たせるかを考えることが重要です。中国のカネを日本に回すいいサイクルを築いていけばいいのです。

ZDNet アクセンチュアにとっては?

早稲田大学で客員教授も務める森氏。「MBAコースの学生は真面目でいいのだが、学部生は・・・」と言葉を詰まらせた。

 アクセンチュアについては、この状況でも対前年度13%の売り上げ増を記録しました。ITサービスの分野ではほぼ、アクセンチュアとIBMが2大勢力となっています。

顧客企業を業種別に見ると、通信やハイテク業界の仕事が増えてきています。また、電力やガスといったユーティリティ、電子政府構想を受けた自治体のプロジェクトの受注も多い。金融以外は概ね好調です。銀行にも勇気を持って、アクセンチュアのような外部のプロフェッショナルを使ってほしいですね。

現在、アクセンチュアの従業員はおよそ7万5000人に上ります。これからはコンサルティングだけでなく、自らリスクをとってバリューを作り出す形のビジネスも展開していきます。例えば、顧客企業のコアコンピタンスの部分についても、戦略的なアウトソーシングサービスとして引き受けていきます。事例としては、英国2位のスーパーであるセンズベリーや、ブリティッシュテレコム、ケーブル&ワイヤレスなどがあります。

ZDNet 同じ業界のプライスウォーターハウスが、IBMと統合したことについては?

 これはアクセンチュアにとってプラスの効果があります。ハードウェアやネットワーク製品は、ユーザーの観点から見て、はっきり言えば余っているのが現状です。ビジネスとしては、ハードウェアやネットワークには関わらず、サービスやソリューションのサプライヤーとして仕事をした方がずっとメリットは大きいのです。

ZDNet 経営者はITツールによって自社の状況を客観的なデータで把握できるようになっていますが、これからの経営者に求められることは?

 これまでの経営者はあまりアナリティカルではなかった。実際、ある大手スーパーの経営者でも、感覚的に商品を発注し、大量の売れの残りを発生させ、仕方なくバーゲンでさばくといったケースが多かった。しかし、バーゲンで売ったのでは儲からないのです。これからの経営者はデータを重視して、ROIの向上をしっかりと意識しないといけない。

ZDNet 2003年のポイントは?

 日本の企業はIT投資の効果が低いところが多い。2003年は、IT ROIを引き上げるために、もっとIT投資を増やしてもいいのではないか。2003年は業界の再編がまだあるでしょう。日立と三菱電機がシステムLSI事業を統合するなど、半導体業界にも合併が進んでいます。パソコンについても、現在NECや日立、富士通など6社ほどの国内メーカーが生産しています。この市場も統合が進み、デルコンピュータやIBM、ヒューレット・パッカードと競争していくと考えています。

その意味で、アクセンチュアは、「ポストマージインテグレーション」に力を入れます。これは、みずほ銀行でも見られたように、大企業同士が統合する場合、システム統合がカギになるからです。業種的には引き続き、通信、ハイテク、電力およびガス、また各自治体にもフォーカスしています。

ZDNet 社員にはどんなメッセージを送りますか?

 常に自分のマーケットバリューを意識して、スキルを育てるよう努力することが重要だと伝えています。

2003年、今年のお正月は?
「正月は日本でゆっくり過ごす」と話す森氏。過去6年はゴルフのワールドチャンピオンシップの関係で海外で新年を迎えた。2002年のサッカーW杯では、日本対ベルギー戦と、決勝戦の2試合をいずれもVIPルームで観戦したというからうらやましい。夏になると、金曜日の夜に軽井沢の別荘に赴き、土日は山歩きを楽しむ。月曜の朝の新幹線に乗れば、午前9時のミーティングにも間に合うという。ただし、パソコンは常に携帯する。「軽井沢から国際電話でテレカンファレンスなんてこともあるんです」と笑う。

[聞き手:怒賀新也,ITmedia]


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