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サーバの生死確認やジョブ管理から始まった統合運用管理ソフトウェアに求められる内容はどんどん高度化し、ビジネスや業態、ポリシーといった高いレイヤでの対応が求められつつある。その中で日立製作所は、「Harmonious Computing」を提唱し、JP1にさらに大きな役割を課している。

 企業にとって生命線ともいえる情報システム。その健全な運用には、適切な統合運用管理ソフトウェアが欠かせない。1994年に初めて市場に投入された「JP1」でこの市場を引っ張ってきた日立製作所は、さらに「ポリシーベースの自律運用管理」を目指していくという。その具体的な姿を、ソフトウェア事業部長を務める小塚潔氏に聞いた。

ZDNet 今年はJP1 Version 6i Advanced Editionが登場したり、ストレージ関連の新コンセプトを発表したりと、さまざまなアナウンスがありました。この1年の歩みを振り返っていかがですか?

小塚 JP1では、メインフレームでのノウハウを引き継いだジョブ管理機能やマルチプラットフォームへの対応、研究開発および販売面での有力ベンダーとのアライアンスといった施策によって、順調に実績を重ねてきました。国内では6600社の実績があり、パートナー満足度調査でも高い評価をいただいています。また2001年までの数字ですが、5年連続で、統合運用管理ソフトウェアの市場でトップシェアを獲得してきました。

 現在、国内でのシェアは約26パーセントで、ほぼデファクトスタンダードに近いと思います。これを継続的に推進していくとともに、JP1を北米や欧州などワールドワイドに展開し、ゆくゆくはグローバルに通用する国産ミドルウェアを作り出していきたいと考えています。

ZDNet 運用管理という面で、顧客が求めるニーズに変化はありましたか?

小塚 これまでは、どちらかといえばサーバリソースの管理が主な仕事でした。しかし徐々に、ストレージの構成が複雑化してきたことから、サーバと同じようにしてストレージについても管理したいというニーズが非常に高まっています。

ZDNet それに対する解決策が、5月に発表したストレージソリューションコンセプトの「True North」ですね。

小塚 ええ。JP1ファミリのストレージ管理ソフトウェア「JP1/HiCommandシリーズ」と、ストレージ機器の「SANRISEシリーズ」を組み合わせたものです。ストレージ構成が複雑化してきたため、管理用ソフトウェアをともに提供することで、顧客満足度の向上を目指します。これもワールドワイドに展開していきます。当面の目標は、IBMやEMCを凌駕することです。

ZDNet この場合、サーバリソース管理とストレージ管理のインタフェースは同一なのでしょうか?

小塚 管理対象が違いますから、出てくる情報は当然違いますが、オペレータは同一のJP1のインタフェース画面で確認することができます。

ZDNet 2003年の展開はどういった形になりますか?

小塚 直近ではJP1 Version 6i Advanced Editionをリリースし、特にセキュリティやストレージ管理の部分を強化してきました。2003年には、まだ正式名称は決まっていませんが「次期JP1」(コードネーム:プルートー)を投入していきます。この次期JP1では、最近流行のWebサービスに対応していきます。J2EE対応のアプリケーションサーバ「Cosminexus」とかなり緊密に連携できるように機能を強化するほか、他社のJ2EE対応アプリケーションサーバへも対応していきます。また、Javaと同時に.NETも無視することはできません。当然これも、フレームワークに入れていきます。

ZDNet 技術的なタームから言えば、当面の重点分野がストレージで、次はWebサービスですね?

小塚 ストレージに関しては、Ture Northに基づいた製品の出荷を2002年10月から開始しており、ワールドワイドで展開しています。既にスタートは切っており、2003年前半が正念場になるでしょう。このTrue Nortでは、ヘテロジニアスなストレージ機器の間をWebサービスの技術を用いてつなぎ、一括監視することによって、コスト削減、コストの最適化につなげていくことができます。

ZDNet セキュリティ管理についてはどうでしょうか?

小塚 セキュリティ製品にもいろいろありますが、われわれは、「会社全体をこういう形で守るんだ」という思想、つまり顧客のポリシーに基づいてセキュリティを実現する枠組みを考えています。

 既に、さまざまなセキュリティ製品の状態を監視したり、ログを収集・分析したりといったところまでは実現できています。今後は、顧客が定めたポリシーに沿って、各製品の設定に落とし込んでいくような仕組みを考えています。また、各社が提供するセキュリティ製品を一元的に管理し、セキュリティポリシーに基づいて自動的に動作させるような仕組みも提供していく計画です。

ZDNet 適切な運用管理を、それもビジネスやサービスの視点から実現するには、顧客それぞれの業態やビジネスに合わせていくためのインテグレーションやコンサルティングが不可欠ですね。

小塚 元々システムインテグレーションをメインとしてきたこともあり、ソフトウェア事業部内に専門部隊を置いて、そこが各顧客に対しワンストップでサービスを提供しています。また特化した技術、たとえばセキュリティに関してはセキュリティソリューション推進本部と、また海外向けストレージは日立データシステムズ(HDS)と、国内向けストレージではSANソリューション事業部とそれぞれ連携しながら展開しています。

ZDNet 業界全体の問題点として、情報システムがあまりに複雑化しすぎ、もはや人の手におえないレベルに来ていることが挙げられます。これに対する解決策は?

「JP1をグローバルに通用するミドルウェアに育て上げていく」という小塚氏

小塚 そうした状況を解決し、顧客が本来のコアビジネスに専念し、さらに投資効果を最大に引き上げることを目的として提唱したのが、「Harmonious Computing」というコンセプトです。現在、情報はコンシューマーにとっても、また企業にとっても不可欠なものになっています。情報がうまく流れなければ、社会そのものがうまく回らない。つまり水道や電気などと同じように、なくてはならないものだという認識で、これを「情報ライフライン」というキーワードで表現しています。

 これを実現するには、いろいろなコンポーネントが必要になります。そこで、ハードウェアやシステムミドルなどからなるファウンデーション層と、私どものオープンミドル層を密に連携させることによって、「発展」「共創」「信頼」という価値を提供するのが、Harmonious Computingというわけです。そして、ミッションクリティカルなWebサービスやe-ビジネス基盤に対応するための橋渡しとして、「ポリシーベース自律運用管理」を実現していきます。その主力となるのがJP1というわけです。

ZDNet 「ポリシーベース」、あるいは「自律」という言葉は、他社からもしばしば耳にします。

小塚 確かに最近のキーワードです。ですが自律といっても、システムや製品が勝手に動くということではありません。顧客がいったいどうしたいのか、そのポリシーや業態に基づいて動き、快適で安全な運用管理を実現していくということです。

ZDNet ところで、日本のシステム管理者の層はまだ薄いのではありませんか?

小塚 IT技術に詳しいお客が少ないとは思いません。もともとミッションクリティカルなシステムを多く手がけていたこともあり、要求レベルはかなり高いものがあります。

 ただ一方で、顧客の側がそれぞれのIT技術対し専門家を置くというやり方は、社会全体を考えるとどうかな、という部分はあります。「餅は餅屋」という構造、つまり流行の言葉でいえばアウトソーシングに向かうのではないでしょうか。もちろん一口にアウトソーシングといってもさまざまなレベルがありますから、その中で、顧客が最適なコストは何なのかを判断していくという形になると思います。

ZDNet かつては、まずシステムを導入することに重きが置かれる傾向がありました。ですが最近では、初期投資に対する運用コストの比率が変わり、運用がより重視されるようになったのではないでしょうか?

小塚 私もそう思います。運用コストというよりも、維持コスト・保守コストというほうが正確ですが、それをどうするか。バランスを考えながら、トータルコストをどう最適化していくのか。このあたりの考え方は、明らかに変化してきたと思います。そうすると、独自にエンジニアを育成してすべて自社内でやるのか、あるいはアウトソーシングを志向するか、いろいろな方法があるでしょう。それは顧客それぞれのビジネスモデルに合致したコストのかけ方に依存してくると思います。正解は1つではないでしょう。

2003年、今年のお正月は?
年末年始は「子供と遊びます」という小塚氏。JP1だけでなく、J2EE準拠のWebアプリケーションサーバ「Cosminexus」や「Groupmax」などのミドルウェアなど、一連のソフトウェアを統括する立場として普段多忙な日々を送っている分、この休みは家族サービスに徹するという。むしろそれが楽しみといった印象で、「子供が待っていますので」と頬が少し緩んだ。

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▼日立製作所

[聞き手:高橋睦美,ITmedia]


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