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サーバにストレージを直結させる構成に比べ、SANではストレージリソース全体を有効に活用できるし、アプリケーションパフォーマンスの向上にもつながる。しかしそのメリットが、まだ十分に理解されているとは言いがたいというのは、ブロケード日本法人の社長を務める松島努氏だ。

 SAN(Storage Area Network)スイッチの市場で確固たるシェアを築いているブロケードコミュニケーションズシステムズ(ブロケード)。2002年は、NTTコミュニケーションズをはじめ、数多くの企業とパートナーシップを結び、市場へのプレゼンスをさらに広めてきた。同社社長の松島努氏に話を聞いた。

ZDNet 2002年1月7日に日本法人社長に就任してからまもなく1年となります。長い1年でしたか?

松島 非常に激動の年だったと思っています。日本法人が設立されたのは2001年4月ですが、2002年はいくつか新しい施策を取りました。まず、SAN本来の役割である資産の有効活用やTCO削減、ディザスタリカバリ(災害対策)といった役割を実現するソリューションの提供を目的に、「ファブリック・インテグレータ制度」という新しいビジネスシステムを取り入れました。また人員を10名体制から40名体制に増強したほか、レンタルオフィスから新オフィスへの移動、資本金を一気に10倍の2億円へ増資するといったことも行いました。ドットコムバブル崩壊後はIT業界もシビアな時期を迎えることになりましたが、その中でSAN関連は順調です。ブロケードの売上は倍以上に伸びています。こうしてみると、激動の年であり、それゆえあっという間の年だったというのが実感です。

ZDNet ストレージ市場は、全般に比較的明るいといえそうですか?

松島 IDCの調査によると、2001年には、全世界で36ぺタバイトのストレージが利用されているそうです。これが2005年には338ペタバイトへと、4年間で10倍弱のペースで成長するという予測があります。また2000年以降、ブロードバンドサービスが普及し、2003年にはe-ガバメント構想が立ち上がるなど、デジタルコンテンツを使うプロジェクトが目白押しです。データで見ても、プロジェクトベースから見ても、ストレージ業界の基調は非常によく、今後市場は大きく伸びていくでしょう。

ZDNet 日本では2、3年前まであまり知られていなかったSANですが、ようやくその有効性が認知されてきたのでしょうか?

松島 米国や中国では、今、一種のSANブームが起きています。ストレージを有効に活用でき、セキュリティも向上するといった、幾つものメリットを享受できることが理解されてきたからです。ですが日本は、まだそこまでは到達していないと思います。サーバに直結するDAS(Direct Attached Storage)を売りやすいう独自の背景があることも理由でしょう。ですが今、企業にとってのポイントは、いかに少ない投資で高い効果をあげるか、つまりTCOの削減とROIの向上です。そうなるとSANを抜きにしては考えられないはずです。

ZDNet 日本企業のIT部門は、まだ戦略的にインフラを構築していないということでしょうか?

松島 確かに、日本企業のIT部門はもっと強くなっていかなければならないと思います。今のIT部門は、インフラからアプリケーションまで、あらゆるものを担当していますが、エンドユーザーからの問い合わせとなると、アプリケーションに関するものが多く、インフラについて聞かれることはほとんどないといいます。ですが、インフラがしっかりしていなければ、SAP R/3をはじめとする基幹アプリケーションはしっかり動きません。シンガポールのサイアムセメントでは、SANの導入によって、数分間単位だったSAPのパフォーマンスが、2〜6秒単位へと劇的に改善されたという例があります。インフラはアプリケーションパフォーマンスの改善にも寄与するのです。このことはあまり知られていないため、パートナーとともに浸透させていきたいと考えています。

ZDNet SANとくれば、かつては相互接続性の問題がしばしば指摘されましたが。

松島 確かに最初の頃はそうした指摘がありましたが、今ではだいぶ向上しました。ブロケードとしても、米国本社が約50億円を投資して、サンノゼにインターオペラビリティラボを設置し、相互接続性向上のための検証を行っています。日本でも、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)の「DeCafe」やNECの「オープン・ミッションクリティカル・センター」のように、いくつかインターオペラビリティラボが設置され始めており、われわれのシステムもその中に入っています。こうした取り組みの結果、相互接続性の基礎の部分はほぼOKだといえるでしょう。

ZDNet 他に、SANの浸透に必要な事柄はありますか?

松島 ストレージがサーバに1対1で直結される形に比べ、SANではストレージリソース全体を有効に活用でき、使用率の高いディスクを慌ててアップグレードする必要もなく、コストメリットが得られるのだということが理解されてきました。ただ、ストレージ全体が安価になってきているため、相対的にSANの価格が目立つようになっています。ここは企業努力を重ねて、さらにSANを安価にしていきたいと思います。

ZDNet 今後はどういった技術が重要になりますか?

松島 これからの動向においては、「バーチャライゼーション」が非常に重要になると思います。SANはストレージとサーバをつなぐインフラですが、そのインフラを活用し、より効率的な管理を実現する「SAM(Storage Area Management)」が大事になってくるでしょう。バーチャライゼーションはその概念のうちの1つであり、さまざまなストレージを1つの仮想ディスクとしてみなすための技術です。ブロケードとしては、2003年1月に統合作業が完了する予定の、ラプソディ・ネットワークスのテクノロジを取り入れることにより、この新しいマーケットに取り組んでいきます。

ZDNet ストレージ市場に参入している企業の多くがバーチャライゼーションをうたっていますが、その内容は微妙に異なっています。

松島 そのとおりです。バーチャライゼーションが必要だということは分かっていても、それをどのように実現するかとなると、まだ明確なスペックは決まっておらず、模索している段階です。ブロケードとしては、コラボレーションが可能なところとともに取り組んでいこうと考えています。

ZDNet 2003年、他にどのような動きがあると予測しますか?

「就任してから、まだ1カ月程度しか経っていないような感覚です」と笑う松島氏

松島 2003年の取り組みとしては、バーチャルスイッチの「Vスイッチ」とIPスイッチの「Iスイッチ」という概念が出てくるでしょう。こういうものが登場してくれば、ディザスタリカバリやリモートにおけるSAN活用、運用が可能になってきます。取り組み方はいくつかあると思います。2002年12月に、日立製作所や日本SGIとともに発表したソリューションもその1つで、SGI CXFSを用いて、リモートかつマルチベンダー環境のSAN構築に取り組んでいます。

 IT業界全体としては、ストレージのほかに、セキュリティも重要なキーワードです。リッチコンテンツが増えれば必要なストレージ容量は増えますし、また万人が使う住基システムのようなものが出てくると、セキュリティは不可欠です。ストレージとセキュリティの2本柱が重要です。

ZDNet ではその中で、ブロケードはどのような戦略をとりますか? SilkWorkシリーズのさらなる強化でしょうか?

松島 これまでは部門ごとに、別々のベンダーの機器を用いてスモールSANが構築されてきました。ですがSANの本当のメリットは、全体最適化にあります。部門ごとにストレージを最適化するよりも、企業全体のストレージ最適化のほうがメリットは大きくなります。CIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)のリーダーシップが必要でしょうが、企業全体のストレージ最適化を踏まえた提案をしていきたいと思います。小さな島に分かれていたSANをつなぎ、既存の資産を有効活用しながら、われわれが「コア-エッジSAN」と表現しているものを実現していきたいと思います。重要なメッセージとして、「SANはネットワークである」ということを強調したいと思います。ストレージのためのネットワークというよりも、SAN自身がネットワークであるという考え方です。

ZDNet ネットワークというならば、既に安価でしかも広く普及しているIPネットワークがあります。

松島 SANとIPネットワークは競合するものではなく、補い合う関係にあると思います。SAN over IPのような形で、それぞれの強みを生かすことで、離れた場所でのディザスタリカバリなどが実現できます。われわれもSAN over IPは2003年のロードマップに載せており、DeCafeにおけるNTT Comとの実験、米ニシャンの製品との連携といった形で取り組んでいます。

ZDNet 企業全体のストレージ最適化を考えるとなると、いっそう顧客に密着したコンサルテーションや提案が欠かせなくなります。

松島 営業を2つの部隊に分け、うち1つを「ネームドアカウント」という顧客を担当する部門にしています。ある業界全体にインパクトを与えるようなトップ企業をセレクトし、その顧客に営業が密着して全体最適化の提案を行い、その成功例を水平展開していく形にしたいと考えています。

ZDNet それにしてもこれだけ不景気が続くと、ITへの投資が果たして見合うものになるのか、疑問になってきます。

松島 好景気、不景気は必ず繰り返すものです。確かに今は、厳しい状況です。ですが、チャンスは必ずあります。やや精神論的ですが、ポジティブシンキングで、そのチャンスを逃さないようにやっていくことが大事ではないでしょうか。

 もう1つ、この業界は猛烈なスピードで変化しており、先を見通すことは非常に難しくなっています。このように不透明な時代だからこそ、インフラは必要です。未来に備えてインフラに投資しておけば、後々きっと役に立つと思います。

2003年、今年のお正月は?
年末年始は「家族からは不評なので、テレカンにでないよう電話を切って、メールも極力見ないようにして静かに過ごしたいと思っています」という松島氏だが、「それでも、一種の病気でしょうね。きっと1日1回は見てしまうと思います」という。空いた時間は、2002年のビジネス書のベストセラー「Good to Great」やIT関連の書籍を読み漁るのに当てる予定だ。

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[聞き手:高橋睦美,ITmedia]


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