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一般には通信事業者としてのイメージが強いNTTコミュニケーションズ。だが副社長を務める富田修二氏によると、同社は単なる通信サービス事業者ではなく、ネットワークに付加価値を加えて提供するIPソリューション会社だという。

 1997年の設立以来、「グローバルIPカンパニー」を提唱してきたNTTコミュニケーションズ。いまや電話による収入をIPトラフィックによる収入が上回る状態だという。厳しさを増す通信市場の中で、同社が目指す方向性は何か、代表取締役副社長を務める富田修二氏に聞いた。

ZDNet 事業者間の競争の激化や価格圧力の増加など、北米は言うに及ばず、国内においても通信事業者には非常に厳しい状況が続いていますが、2002年の舵取りはいかがでしたか?

富田 2年ほど前から、NTT コミュニケーションズ(NTT Com)は、電話会社から、ITおよびIPソリューション会社へ変貌するということを織り込んでやってきた結果、収入のベースが変わってきました。マイラインによる減収の影響もありますが、売上比率は既に、電話を1とすればIPが1.1〜1.2という状況です。ただ、データ系の競争は激しく、トラフィックは伸びても単価は伸び悩んでいます。それでも2002年度は、減収でも大幅増益を果たす見込みです。100パーセントとはいえませんが、この厳しい情勢の中ではまあまあ満足いくものではないかと思います。

ZDNet その理由はどこにあったと分析しますか?

富田 電話による収入が減る中、状況の変化を想定し、コストコントロールを厳しく行うなどして準備してきたからでしょう。また、これまでいろいろと仕掛けてきた新サービスが、いよいよプロダクトとして使えるようになってきたことも要因の1つだと思います。

ZDNet では、2003年はどういった年になると予測していますか?

富田 NTT Comがさらに発展していく、その元年だととらえています。データ系でも電話系でも「さらなる付加価値の創造」がキーワードです。単なるネットワークを提供する会社ではなく、ネットワークプラス付加価値を提供するソリューション会社として、さらに本格的に展開していきます。また、データ系での競争は非常に激しくなっており、コストはいっそう重要になるでしょう。これも大きな経営課題だと思っています。

ZDNet NTT Comが手がけるサービスは多岐に渡りますが、具体的にはどういった分野に着目していくのでしょう。

富田 1つはIP-VPNです。2003年度はこれが主戦場になるだろうと思います。50〜60パーセントのマーケットシェア獲得を目標とするほか、マルチキャストへの対応、IPv6のサポート、それに日本で広く利用されているルーティングプロトコルであるOSPFのサポートといった新サービスを、「マルチサービスVPN」という名称で提供していきます。

 合わせてIPサービスの強化も図ります。低速系ではセキュリティサービスなどを追加するほか、中高速系ではストレージやディザスタリカバリといった機能を強化します。ネットワークだけではなく、ソリューションを提供していくのだという姿勢に基づいて、ネットワークマネジメント機能も展開していく方針です。顧客のネットワークを統合的にマネジメントし、問題があれば迅速に対応できるようにしたいと思います。

 また、これまであまり着目されていなかったストレージ系は、非常に重要だと思っています。従来のホスティングに、データベースのマネジメントやディザスタリカバリ(災害対策)、ストレージなどを加え、1つにまとめたソリューションサービスとして提供していく方針です。これも大きな柱の1つです。

ZDNet これまでの取り組みとは何が異なるのでしょう?

富田 まず、プロフェッショナルなコンサルティングサービスをさらに強化していきます。顧客のライフサイクルマネジメント、TCO削減という視点に立って、コンサルティングサービスを提供していきます。また、もともとNTT Comはテレコム企業ですから、率直に言えば、例えばSAPやシーベルなどのパッケージソフトを取り扱えるようなプロフェッショナルの投入が遅れている部分もあります。これも増やしていきます。後はアウトソーシングサービスです。ネットワーク、ホスティング、それにマネジメントを組み合わせ、トータルなアウトソーシングを提供できる体制を整えていきます。そのためにはセキュリティが非常に重要ですから、グローバルスタンダードに則ったプロセスや資格を強化し、顧客の評価に耐え得るアウトソーシング提供体制を整えます。

 これまでは顧客の要望に沿っていろいろなものを集めて提供するという形でしたが、今後はもう少し系統だった形で、プロフェッショナリズムのレベルを上げていきたいと思います。また、パートナーとも一歩踏み込んだ形で、それもグローバルに連携し、ITトータルソリューションサービスを提供できるようにしたいですね。

ZDNet 業界全体が同様なアプローチを取る方向にあります。強みは何でしょうか?

富田 これまでのネットワークサービスで培ってきた強大なカスタマーベースが挙げられるでしょう。また、行政関連におけるNTTグループの信頼度は絶大なものがありますし、長期にわたる経営の安定という意味でも、信頼に応えられると思います。ただ、すべてがNTT Comででできるかというと、そんなことはありません。要望に応じてさまざまな企業とパートナーを組んでいきます。

ZDNet インターネットサービスプロバイダー向けの取り組みとしては何がありますか?

「インターネットを利用している顧客の要望、すべてに対応できます」という富田氏

富田 まず、7社協業でVoIPを展開し、さまざまなアプリケーションの開発に取り組んでいます。もう1つ重要なのは、ネットワークに、無線系と固定系のローミング、いわゆるポータビリティを提供することです。オフィスでも家庭でも、あるいはHotSpotでも、シームレスに、ユビキタスに接続できるようなサービスを、セキュリティも含めて2003年春には提供したいと考えています。だいたい、今のインターネットは不便でしょうがないですよね。

ZDNet 802.11を用いる公衆無線LANサービス、いわゆるホットスポットサービスから撤退した事業者もありますが。

富田 公衆無線LANサービス単体ではやっていけないということです。われわれも今はHotSpotだけを提供していますが、ADSLを含めたパッケージ型料金などを考えて、それも、もっと使い勝手のいい形で提供することが重要だと思います。

ZDNet ここまで非常に多くのキーワードが出てきましたが、どのような技術に注目していますか?

富田 技術も重要ですが、大事なことは、いかにその技術を総合的に組み合わせていくかです。使い勝手がよく、しかもサービス性が高いプロダクトを、プロセスも含めて投入していくことです。個々の技術はあっても、それがみんなばらばらでは、顧客にとっては非常に使い勝手が悪い。いまだに、無線LAN用のカードとPHS用のカードを使い分けて、さらにイントラネットへのダイヤルアップ用トークンを持ち歩くというのが現状ではないでしょうか。こうしたものを組み合わせて提供していけば、顧客にとっての使い勝手が向上すると思います。

ZDNet 今後、日本の企業が再び競争力をつけるには、何が重要だと考えますか?

富田 製造業にしてもIT産業にしても同じことで、いかに新しい付加価値を創造できるかが課題だと思います。これは日本全体の課題でしょう。もう1つは、いかに地域を振興していくかです。ソフトもサービスも、いろんな形で、それも東名阪だけでなく地方からも世界に向けて発信できるようにしていくことが重要でしょう。また、子育てが容易な環境も大事ですね。日本の最大の弱点は高齢化です。老齢の人がいかに新しいことにチャレンジできるようにするか、またいかに若い人を育てるかも課題になると思います。

2003年、今年のお正月は?
海外勤務時代が長かった富田氏。9連休となる年末年始は、海外に出かけたい気持ちもあるが、そこを抑えて「日本でゆっくりします」という。「地方文化を知り、日本をよりよく理解するために、国内を2、3日かけて旅行したいですね。そうして、日本経済回復につながるきっかけについて考えてみたいと思います」。

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▼NTTコミュニケーションズ

[聞き手:高橋睦美,ITmedia]


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