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.NET構想の中核製品となるWindows .NET Server 2003の開発作業を停止してまでセキュリティの見直しに取り組んだ2002年のマイクロソフト。そこには、エンタープライズ市場で着実に足場を築き上げようとする強い意思と、世界最大のソフトウェア企業としての責任とプライドがあった。

 マイクロソフトは1995年からインターネットに注力してきた。2000年には「Microsoft .NET」というXMLを中心にしたインターネット標準技術を用いた、システムやデバイスを超える有機的な統合を目指している。その中核製品となるWindows .NET Server 2003では、製品開発を中断してまで自社製品のセキュリティを再検証するという施策を実行した。マイクロソフトの阿多親市社長に2002年を振り返ってもらった。

ZDNet 2002年、エンタープライズ市場へのチャレンジに対する成果はどのようなものでしたか。

阿多 .NET構想を唱え始めて2年半が経ちましたが、さまざまな事例や成功例を作ることができた実証の年になりました。例えばPCサーバに対しては信頼性、また多くの指摘をいただいたセキュリティ面で改善を行ってきました。多くの成功例によって、自信を持って製品を勧められるベースを築くことができました。

 2002年に確かな収穫を得たことで、2003年はさらにレバレッジの効いた年になるでしょう。2003年に登場するWindows .NET Server 2003(.NET Server)には大きなオポチュニティを感じています。

ZDNet .NET構想の中核となる.NET Serverの正式リリースまで、まだ空白期間があります。その間、J2EE陣営がシェアを伸ばすということはありませんか。

阿多 そんなことはありません。現時点でのシステム導入ではWindows 2000 Serverをお勧めします。2000年2月にリリースして以来、3回ほどサービスパックも提供していますし、Windows 2000 Serverで十分にユーザーの要望に応えられる実績を作ってきました。2002年に多くの企業の基幹システムがWindows 2000 Serverになった事例からも、その信頼性は明らかです。

 .NET Serverのリリースに合わせて、新たに「できること」を伝えていく必要はありますが、既存のWindows 2000 Serverユーザーに.NET Serverを導入してもらうバージョンアップという問題は、単に購入の形態でしかありません。エンタープライズアグリーメントの形で購入いただけば、常に最新のバージョンを利用していただけます。

 Windows NT 4.0からWindows 2000 Serverへのマイグレーションは、わが社にとっても大きな変容をもたらしました。NTサーバの良い面を継承し悪い面は打ち消しながら、実績を作ってきたのがWindows 2000 Serverの3年間です。それゆえ、とても自信を持っています。例えばWindows 2000から搭載したActiveDirectoryが、企業の生産性を向上することを100%保証できます。まずは実績のあるWindows 2000 Serverを入れてください。.NET Serverを待つ必要はありません。

ZDNet ビル・ゲイツ氏が、.NET Serverの開発を一時中断してまでセキュリティに取り組んだのはなぜだったのでしょう。

阿多 それには、外的要因と内的要因の2つがありました。外的要因は、2001年にインターネットを通して多くのウイルスが流行したことです。ビル・ゲイツ氏が2001年10月に来日した際、私はウイルスの被害に遭われた企業へ彼を連れて行きました。その実情を見て、彼は何かを感じていたようです。

 マイクロソフトは95年からインターネットに注力してきました。インターネット上に私たちの将来があるとしたら、この事態には非常に不安です。私はよく「インターネットはでこぼこ道で、ガードレールもない」と例えます。そんな道を時速200Kmで走るのは自殺行為といえるでしょう。だからといって、その整備を道路屋の仕事だとか、ガードレール屋の仕事だとか他人任せにしていたら、.NETは絶対に実現できません。

 インターネットなしに企業経済の発展はありません。ですからこの問題を解決するために、私は真剣に取り組みたいとゲイツに伝えました。彼の帰国後、エグゼクティブに対しゲイツから「日本で阿多に学んだ。私の時間の6割〜7割をセキュリティに割く」とメールが届きました。そのようにして1月8日、Trustworthy Computing(信頼できるコンピューティング)が打ち出されたのです。

 一方の内的要因ですが、マイクロソフトは1つのソフトウェアベンダーに過ぎませんが、大きく成長し社会的にも影響を与えるようになりました。例えば、1つのシステムがあるとして、そのソフトウェアに掛かる費用はシステム全体の3〜5%しかないとします。だからといって、その責任も3〜5%、というわけにはいきません。自らの責任は正しく引き受けようという意識の変革がありました。

 ゲイツからのメールのあと、2カ月間すべての開発がとまりました。そのときは本当にどうなるのだろうという状態でした。ただし、セキュリティ対策は終わりのない戦いで、マイクロソフトはそれを自覚しています。ですから、マイクロソフトが行っているセキュリティ対策への努力をフェアな目で評価してください。

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[聞き手:柿沼雄一郎、堀 哲也,ITmedia]


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