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マイクロソフト:世界最大のソフトウェア企業が見せた責任とプライド (2/2)

ZDNet 売上の面では2002年もPC業界は苦戦しました。やはりブレークスルーとなるようなものがなかったからでしょうか。

阿多 業界全体として、PCの使い方の提案ができていなかったのが大きな反省点だと思います。何のためにPCを使えば良いのか、この点を伝えられませんでした。例えば、5年前のPCと現在のPCを比較すると、パフォーマンスは10倍になったと言われます。しかし、これはいったい何のために10倍になったのでしょうか?

「2002年はセキュリティ対策面など多くの成果を示すことができました。これらは2003年への大きな収穫です」と阿多氏

 こういった点をうまくPRすることができなかったため、TV放送を録画するハードディスクレコーダーが登場し、売れる商品になっています。TV録画は以前からPCで出来たことです。新しくもない技術でこのような状況が生まれたということは、「何のために使うのか」というベーシックな部分を忘れてしまったからではないでしょうか。

 Windows 95の上でOffice 97を使うのと、Windows XPの上でOffice XPを使うことの違いが理解されていないとすれば、それは私たち提供者側の啓蒙が足りていないということです。Wordをエディタのように使い、Excelで縦横集計をするだけであれば、OfficeなりWindowsをバージョンアップさせる必要はないともいえます。しかし、Officeはスタンドアロンで使用し個人の生産性を上げるところから、ネットワークを通じてグループの生産性を上げる方向へ強化してきました。もし、95年当時のPCと同じ使い方をしているとしたら、それは機能やハードウェアのパワーが無駄になってしまいます。もっと効率の良い、生産性を上げる使い方を提示していく必要があります。

 マイクロソフトでは、2002年7月からビジネスプロダクティビティソリューション本部を立ち上げて、Officeの使い方のコンサルティングを始めました。Officeを実際にどのように利用しているのかをビデオ撮影し状況分析をして、より生産性を高めるための使い方を提案しています。

 また教育も大切な要素です。PCを使った事務処理や共同研究などの具体的な方法を教えていく必要もあります。既に大学、専門学校、高校では、Officeを利用した授業やMOUS(Microsoft Office User Specialist)を取得するための授業を行っているところもあります。それから、マネジメント層のリテラシー教育も必要です。「社員全員にPCは配ってある、WordもExcelも入っている、それを活用しろ」としか考えていないようでは意味がありません。彼らはより生産性を向上するためのリテラシーを高めていかなければなりません。

ZDNet それは、ROIを中心にした効果測定を行うということですね。

阿多 その通りです。マイクロソフトのビジネスとしてみれば、ROIの向上のためにバージョンアップをしてくださいということになりますが、本質的な問題はいまのまま停滞していけば諸外国に遅れをとってしまうということです。これからの日本は、武器として知的財産権を活用したビジネスを行っていかなければなりません。新たな技術を生み出して、新たなバリューを生み出す。そして、さらにまた新たなバリューを生み出していく……。このサイクルを早めて、生産性を向上させていくしかありません。

 日本企業にとって、PCの減価償却と法定耐用年数も問題です。日本は法律上、ハードウェアが4年ないし5年、ソフトウェアは5年となっています。また、企業におけるPCの平均使用期間は51カ月です。これに対し、米国では29カ月、英国では27カ月と、約3年間で償却しています。今後もPCがムーアの法則に従い10年で100倍にパフォーマンスを向上していくとしたら、3年で1回替える場合と5年で1回替える場合とでは大きな開きが出てきてしまいます。

 OSにまだWindows 95を使用しているとすれば、起動までに数分ほどかかります。一方、Windows XPを使用すれば30秒ほどです。この数分のロスを1年に換算すれば、多大な生産性のロスとして跳ね返ってきます。法律だからと言う前に、ハードウェアやソフトウェアはいったい何のためにあるのかという点に戻る必要があります。

ZDNet それでは日本企業が活力を取り戻すには、どうしたらよいでしょう。

阿多 マイクロソフトでは、中小企業の経営者に向けたセミナーを開催しています。IT化されていない中小企業がITを活用することで、自社の優れたリソースをシステマチックに活用し、知的財産を蓄えていくことを提案しています。大企業は大企業で競争を勝ち抜かなければいけないという問題を抱えていますが、日本企業の大部分は中小企業です。ITによって、中小企業の底上げを図っていく必要があるでしょう。日本の景気を復活させるのは、私にとって大命題でもあります。

2003年、今年のお正月は?
「唯一の親孝行が、1年に1回、神戸の母親に顔を見せることです」と阿多社長。例年は神戸で過ごすことが多いが、今年は母親を東京に呼んで「近郊の温泉に行きたい」という。だが、「立場上、やっぱりPCは持っていくことになるのでしょうね」とのこと。

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[聞き手:柿沼雄一郎、堀 哲也,ITmedia]


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