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ブロードバンドの進展も一助となり、企業の研修をインターネットを通じて行うe-ラーニングが注目されている。2003年以降この傾向はしばらく続きそうだ。米国では第4世代、日本では第3世代を迎えたともいわれるe-ラーニングは、企業の戦略的な情報ツールに変貌を遂げようとしている。業界最大手のドーセントジャパン、村上憲郎社長に2003年の取り組みを聞いた。

 2002年は、e-ラーニングという言葉が日本でも本格的に定着し始めた年となった。集合研修とは異なり、インターネットを利用して、学習者1人ひとりが都合のいい時間にスキルアップを図ることが基本的な特徴だ。しかし、米国で普及している「第3世代」あるいは「第4世代」のe-ラーニングは、人事システムを含めたERPや、CRM、SCMとも連携しており、企業の研修がより戦略的なものになろうとしている。この流れは2003年にさらに明確な形で日本に押し寄せてくる。米ドーセントは業界最大手のe-ラーニングプラットフォームベンダー。日本法人のドーセントジャパンで社長を務める村上憲郎氏に、2003年の取り組みを聞いた。

ZDNet 2002年の日本および米国の景気動向について印象は?

村上 身を縮めながら前に進むといった年でした。不透明感も強く、少なくとも、予定を予定通りに執行できるような年ではありませんでした。米国については、「抜け出したのではないか?」という印象を持っています。同業他社の業績が振るわない中で、米ドーセント株は上り基調で推移しています。これは、e-ラーニング市場が、単純なものから次世代のモデルへと成長しているプロセスであり、淘汰が始まっていることを示しています。

ZDNet ドーセントジャパンとしてはどうでしょう。

村上 2001年11月に日本法人を設立し、NECやアクセンチュア、CSK、シービヨンドなどと提携してパートナー関係を築きました。5月には「Docent Enterprise 6.0」を日本市場向けに発表し、デビューを果たしました。米ドーセントとの技術的パイプを基に、パートナーと協業するというフォーメーションができたことで、存在感を確立したのが2002年の前半でした。

シスコシステムズやEMC、ジョンソン・エンド・ジョンソンといった大手のグローバル企業への導入も進み、後半は(収穫として)刈り取りを行うこともできました。

ZDNet 2003年の戦略は?

村上 2003年は今の勢いを持続させたい。ERPやCRMと連携する第3世代e-ラーニングを展開することで、企業の人事管理システムは変わろうとしています。既に日本の大手グローバル企業もドーセントのe-ラーニングプラットフォームを選択し、近いうちにシステムが稼働する予定です。また、米国では、e-ラーニングの効果が実際の現場でどう発揮されているかを示す「Business Performance」という基準を持つ第4世代へと移ろうとしています。

「大手のグローバル企業にとって、リストラ後に残った人材をどう育てるかがテーマになっている」と話す村上社長

また、コンテンツの開発や管理、配信を行う統合環境「LCMS」をコンテンツプロバイダー向けに提供することも考えています。このLCMSと、LMS、Exchangeの3製品が、2003年の柱となっていきます。e-ラーニングでは、いわゆる企業内に眠っている暗黙知をシェアするという取り組みにも注目が集まっています。

ZDNet e-ラーニングプラットフォームの進化により、管理者は従業員のスキルを網羅的に把握することが可能になります。さらに、ERPやSCM、CRM、そしてBusiness IntelligenceなどのITツールは、製品在庫の水準や詳細な営業情報、従業員ごとのパフォーマンスの推移など、経営者に自社のあらゆる情報を提供してくれます。そのため、今後は例えば、膨大な量のデータを読み抜いて、戦略を構築する力が経営者に今よりもっと要求されるのではないでしょうか。停滞する日本経済に回復の兆しが見えない状況ですが、立て直しを図るために、日本の経営者はどんなことを「学習」するべきですか。

村上 確かに、ITを利用することで、見ようとすれば経営者はさまざまな情報を手にすることができます。まずは、ITによってあらゆる社内データを一元的に利用できる仕組みが構築可能であることを経営者が認識し、実際に体験して味わうことが重要です。客観的なデータに基づいて努力を評価する人事制度を構築して、「そういう会社を経営している」という意識を持ってほしい。

客観的な人事制度により、「情」ではなく、業務実績への評価を冷徹に行う仕組みを構築できます。そうすることで、差別などが無く、人間としての価値と仕事の評価を別々に考えるような、アッケラカンとしてクールな会社にすることができるのです。

ZDNet 課題はあるでしょうか?

村上 まず、日本における課題としては、コンテンツのそれぞれの学習内容について知識を持っている人と、コンテンツの画面などのデザインをする人との間をつなぐ「Instructional Design」の専門家がいないことです。つまり、学ぶプロセスをいかに効率的にするかを考える役割に関して、プロフェッショナルがいないのです。米国では、心理学系の学問経験者などを中心に、専門家を育てる体制ができていますが、日本では、兼務の形で行われています。

また、これは課題かどうかは分かりませんが、e-ラーニングは進化するにつれて、ERPとカバー領域が重なり始めています。ERPベンダーは過去に、CRMの市場をシーベルシステムズに奪われた経緯があります。その轍は踏まないとばかりに、e-ラーニング市場を飲み込もうという勢いを感じています。もちろん、ERPベンダーに負けないように努力するつもりですが、飲み込まれる可能性はあります。製品の質を高めるよう努力した結果として、ERPベンダーに「買われる」ことへの覚悟はあります。

2003年、今年のお正月は?
「正月はどこか遠くへ行ったりはしない」と話す村上氏。紅白歌合戦ももはや馴染みのある歌手も少なくなり、昔の顔を見つけたときだけ見る程度という。ただ、年の瀬から正月にかけての雰囲気は好きとのこと。「街を歩いていると山下達郎の“クリスマス・イブ”が流れてくるような(笑)」。初詣は決まって近所の神社へ行って、甘酒を飲むという同氏の祈願は毎年同じ。「家内安全、商売繁盛」。

[聞き手:怒賀新也,ITmedia]


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