ITmedia Mobile 20周年特集

帯域はどこにある?〜新規参入「狂騒曲」2004年を振り返る(1/2 ページ)

» 2004年12月27日 19時18分 公開
[杉浦正武ITmedia]

 2004年の重要なトピックといえば、携帯電話の新規参入だった。ソフトバンクやイー・アクセスなど固定系の通信事業者が、モバイル・ブロードバンドの新サービス提供を表明した。特にソフトバンクは、既存事業者が持つ帯域を新規参入事業者へ配分し直すよう要求し、携帯業界全体を巻き込んだ論争の主役になった。


 2004年が明けたとき、話題になっていたのは「ADSL事業者はいつTD-CDMAサービスを始めるのか」だった。2003年末にソフトバンク、イー・アクセス、IPモバイルが相次いで「TD-CDMA」方式の実験局免許を取得、あるいは申請しており(2003年12月4日の記事参照)、今後の展開が注目されていた。

 TD-CDMAとは、“TDD”つまり「時分割複信」を行うことで周波数帯を有効に利用しようとする技術(2月10日の記事参照)。総務省でも2010〜2025MHz帯をTD-CDMA方式に割り当てることが検討されており、「新しい帯域に新しい方式で」新規事業者が参入するものと見られていた。

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 いち早くサービス像を“公言”したのはイー・アクセスだった。同社はTDD方式のCDMA技術の1つである「TD-SCDMA(MC)」方式の採用を発表。同時に、定額IPモバイル電話に意欲のあるところを見せた(2月5日の記事参照)

 一方で、ソフトバンクはなかなか態度を明かさないまま。同社の孫正義社長は、イー・アクセスの発表から1週間後の会見で「なんらかのテクノロジーで、なんらかの周波数帯を利用し、いつか必ず(モバイルブロードバンドサービスを)やる」と話すばかりで、手の内を見せなかった(2月12日の記事参照)。その後、ソフトバンクが全国で1万3000カ所の携帯電話基地局用地を確保したことが明らかになったが(8月4日の記事参照)、やはり詳細ははっきりしなかった。

 当時取りざたされていたのは、3社も新規参入するようでは2GHz帯の帯域が不十分なのではという点。「帯域を3等分するのか」「いや、各社のインフラを共通化して皆で利用すべきだ」と議論は迷走し、ブロードバンド業界の新たな火種になるかと心配された(3月19日の記事参照)

 だが、ある日を境に局面は一変する。9月4日、ソフトバンクが全国のユーザーに向けて「総務省に意見を」と異例の呼びかけを行ったのだ(9月4日の記事参照)

ソフトバンクからユーザーに送付されたメール(クリックで拡大)

一転、FDD方式での新規参入へ

 ソフトバンクがYahoo!BBユーザー、およびODNユーザーにメールの一斉配信を行ったのが4日の土曜日。週明けの6日月曜には記者会見が開かれ、同社の真意が明かされた。

 それによると、ソフトバンクはTD-CDMAではなくW-CDMAやCDMA2000などの「FDD方式のCDMA」で新規参入を目指す。同時に、総務省が公表した「800MHz帯におけるIMT-2000周波数の割当方針案」に強く反対し、800MHz帯を新規に割り当てるよう求めていく――。そんな方針が打ち出された(9月6日の記事参照)

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 800MHz帯とは、現在ドコモとKDDIが割り当てられており、当初の総務省案に従えばそのまま継続して割当を受けるとされていた帯域。しかし、孫社長は800MHz帯が事業者に有利な周波数帯である(9月5日の記事参照)ことを指摘し、「新規にこそ一番いい帯域を渡すべき」と主張した。

 総務省の対応が注目されたが、同省は9月末に早速新たな動きを見せた。1.7GHz帯を、携帯向けとして検討していることを発表したことがそれだ(9月30日の記事参照)

 しかし、ソフトバンクはあくまで800MHz帯にこだわる姿勢を継続。孫社長は総務省の対応を「新規参入事業者に1.7GHz帯など不利な帯域を割り当てる」つもりかと斬り捨て、800MHz帯を求めて行政訴訟に踏み切った(10月13日の記事参照)

 仮に1.7GHz帯の割当方針発表が、総務省の「ソフトバンクに提示する妥協案」だったとしたら、この案は完全につっぱねられたかたちになった。

 一方で抜け目なく、機敏な対応を見せたのがイー・アクセスだった。同社は1.7GHz帯の割当検討が発表されたその日に総務省に出向き、新規参入の意思を表明した(10月14日の記事参照)

 それまでTD-SCDMA(MC)方式の研究を重ねていたにも関わらず、あっさりとFDD方式での参入に軸足を移すことを明言(11月4日の記事参照)。同社幹部は非公式の場で「我々は“もっときれいな女性”(=帯域)がいたら、すぐにそっちにいく。……こういうことを言うと、女性幹部に怒られるが」と笑っていたが、IT業界の雄らしい鮮やかな変わり身の早さだった。

なぜTD-CDMAでなかったのか?

 なぜ、ソフトバンクはFDD方式での参入に切り替えたのか。後に総務省の会合などで孫氏が話した内容から、その答えは浮かび上がってくる。

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