auの「無期限くりこし」とは、基本使用料に含まれる無料通話分を無期限に繰り越すことができるというサービスである。月によっては、思ったよりも通話をしていなかったといった場合に重宝するプランだろう。もちろん、ドコモやボーダフォンにも繰り越しサービスは存在する。ドコモの場合は「2ヶ月くりこし」、ボーダフォンの場合は「自動くりこし」と呼んでおり、前者は2カ月、後者は1カ月分の無料通話を繰り越すことができる。しかし、同じ繰り越しでもその中身は微妙に異なっている。まずは以下の図を見てほしい。
ドコモの2ヶ月くりこしは無料通話分をパケット通信料にも使え、さらに使い切れなかった繰り越し分は家族と分け合うことができる。ただし、繰り越せるのは2カ月までだ。これに対し、auの無期限くりこしは期限は長いものの、家族と分け合うか無料通話を繰り越すかのどちらか一方しか選ぶことができない。また、パケット通信料の割引サービスを利用している場合、無料通話分をパケット通信に充当できないのも不便だ。
一方、ボーダフォンの自動くりこしは、パケット通信料に充当できるが家族と分け合えない。繰り越せるのも1カ月と3社の中でもっとも短い。このように各社の繰り越しにはメリット、デメリットがある。
例えば1回線しか契約しておらず、パケット定額制に加入している場合は、auの無期限くりこしは非常に便利だ。しかし、家族で無料通話を分け合いたい場合はドコモが、パケットはそこそこしか使わず通話と合わせて無料通話分の範囲内で収まるという場合はドコモやボーダフォンの繰り越しの方が使い勝手がよい。
ドコモとボーダフォンで比べた場合は、同じようにパケット通信料に使えるうえ2カ月繰り越せて、さらに家族と分け合えるドコモの2カ月くりこしの方が明らかに充実している。この点は、ボーダフォンが早急に改善すべき部分だろう。
お得に見える繰り越しサービスだが、むやみに繰り越すのも考えものだ。毎月必ず繰り越しているようなら、それは利用中のプランが自分に合っていないということを意味する。金額がもっとも低いプランを使っていて無料通話分を使いきれないなら、それより下がないので仕方のないところ。しかし、それ意外のプランを使っていながら、上限ギリギリまで繰り越しているのは明らかに損をしている。無駄な繰り越しをするよりも、プランを1つ下げた方がよほど賢明な選択といえるだろう。
以下の表は、毎月180分間通話すると仮定して、NTTドコモの料金プラン「タイプM」「タイプL」でシミュレーションを行った結果だ。確かに、プランLだと毎月無料通話の範囲に収まっており繰り越しも発生しているが、トータルでは若干無料通話分をオーバーしているプランMの方が安上がりだ。
1カ月目 | 2カ月目 | 3カ月目 | |||
---|---|---|---|---|---|
タイプM | 基本使用料 | 6930円 | 6930円 | 6930円 | |
通話料 | 5292円(180分) | 5292円(180分) | 5292円(180分) | ||
無料通話分 | -4200円 | -4200円 | -4200円 | 3カ月合計 | |
合計 | 8022円(0円繰り越し) | 8022円(0円繰り越し) | 8022円(0円繰り越し) | 2万4066円 | |
タイプL | 基本使用料 | 1万0080円 | 1万0080円 | 1万0080円 | |
通話料 | 3780円(180分) | 3780円(180分) | 3780円(180分) | ||
無料通話分 | -6300円 | -8820円 | -1万1340円 | 3カ月合計 | |
合計 | 1万0080円(2520円繰り越し) | 1万0080円(5040円繰り越し) | 1万0080円(7560円繰り越し) | 3万0240円 | |
次に、3カ月に一度、繁忙期が訪れるため通話時間が極端に上昇するケースの場合はどうだろう。こちらは、1カ月目、2カ月目は180分、3カ月目のみ360分通話する計算でシミュレーションを行った。結果は以下のとおり。わずかであるが、やはりプランMの合計金額が安くなった。
1カ月目 | 2カ月目 | 3カ月目 | |||
---|---|---|---|---|---|
タイプM | 基本使用料 | 6930円 | 6930円 | 6930円 | |
通話料 | 5292円(180分) | 5292円(180分) | 1万0584(360分) | ||
無料通話分 | -4200円 | -4200円 | -4200円 | 3カ月合計 | |
合計 | 8022円(0円繰り越し) | 8022円(0円繰り越し) | 1万3314(0円繰り越し) | 2万9358円 | |
タイプL | 基本使用料 | 1万0080円 | 1万0080円 | 1万0080円 | |
通話料 | 3780円(180分) | 3780円(180分) | 7560円(360分) | ||
無料通話分 | -6300円 | -8820円 | -1万1340円 | 3カ月合計 | |
合計 | 1万0080円(2520円繰り越し) | 1万0080円(5040円繰り越し) | 1万0080円(3780円繰り越し) | 3万0240円 | |
つまり、毎月の通話料にかなり激しいばらつきがない限り、最適なプランを選んでいれば無料通話分は繰り越す必要がないということになる。今回のシミュレーションはドコモで行ったが、au、ボーダフォンでも基本は同じ。残るかどうか分からない繰り越しを当てにするよりは、毎月無料通話分にピッタリ料金が納まることが理想だといえる。繰り越しは、無料通話分が余った場合に、取り戻せる可能性のある掛け捨ての「保険」のようなものと考えておくべきなのだ。
また、無期限くりこしの“無期限”という言葉自体にも注意が必要だ。プランごとに繰り越せる金額に上限が設けられているため、よく考えると無期限に繰り越すことはできないことが分かる。各プランの上限金額は以下のとおり。
繰り越された料金は、より前の月のもの(古いもの)から使われていく。とすると、もっとも長く繰り越すためには、最初に繰り越した無料通話を限界まで長く使い続ける必要がある。auの場合、プランSSの無料通話分は月額1050円。これを丸々残した場合、次の月から210円ずつ使っていっても、5カ月目の月初には無料通話分の合計が4410円になってしまう。すると6カ月目には上限の5250円をオーバー。これで繰り越しは終了だ。今回はプランSSで計算したが、プランが高額になるほど、無料通話分に対して繰り越せる料金の上限が少なくなる。例えば、プランLLの場合、無料通話分が1万2600円なのに対し繰り越せる料金は3万7800円と、3カ月程度しか繰り越せないようになっている。
繰り越し回数 | 無料通話分 | 繰り越された無料通話 | 使った無料通話 | 繰り越す無料通話 | |
---|---|---|---|---|---|
0回 | 1050円 | 0円 | 0円 | 1050円 | |
1回 | 1050円 | 1050円 | 210円 | 1890円 | |
2回 | 1050円 | 1890円 | 210円 | 2730円 | |
3回 | 1050円 | 2730円 | 210円 | 3570円 | |
4回 | 1050円 | 3570円 | 210円 | 4410円 | |
5回 | 1050円 | 4410円 | 210円 | 5250円 | ←最初の月の無料通話を使い切った |
6回 | 1050円 | 5250円 | 210円 | 5250円 | ←次の月の無料通話も消滅 |
結局、無期限くりこしは、今までよりも少しだけ繰り越しの期限を延ばすだけなのだ。すでに説明したように、繰り越しはあくまでも無料通話分を使い切れなかった場合の保険のようなものである。「繰り越しできるからいいや」という軽い気持ちでプランを選ばないことが賢明だ。
以上のことからも分かるように、上限がない“真の無期限くりこし”が登場するまでは、繰り越しだけでキャリアを選ぶべきではない。繰り越し期限が2カ月のドコモ、1カ月のボーダフォンユーザーはもちろん、auユーザーであっても慎重にプランを選択する必要があるだろう。
最適な料金プランが分からないという場合は、各社のWebサイトをチェックするといい。ドコモ、au、ボーダフォン共に、現状の利用状況に合った最適な料金プランを計算し、アドバイスしてくれるツールを提供している。これを使えば、無駄な繰り越しもしなくて済むだろう。
※本原稿は執筆時点(2006年8月22日)のデータを基にしています。また、料金プランは原則、NTTドコモは関東・甲信越地方、auは関東、ボーダフォンは関東・甲信地方のものに準拠しています。地域によってサービス開始時期や名称、料金などが異なる場合があります。
※料金の試算は概算です。実際に計算した料金にならない場合もあるので参考としてご利用ください。
※各社の基本使用料、無料通話、契約解除料などはすべて税込み表記です。
※各社のサイトやパンフレットで最新の情報を必ず確認してください。
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