“女”防水ワンセグの中身はこうなっている──機構設計担当者が解説する「W53SA」(前編)

» 2007年07月27日 03時01分 公開
[青山祐介,ITmedia]
Photo マトラッセ風デザインを取り入れた防水ワンセグケータイ「W53SA」

 auの2007年夏モデルとして登場した鳥取三洋電機の「W53SA」は、防水仕様にワンセグ機能を組み合わせ、さらにFeliCaを搭載したWIN端末。コアターゲットとする女性ユーザーの使いやすさを考慮し、幅50ミリ、厚さ20ミリというコンパクトなサイズに仕上げた渾身作だ。

 防水+ワンセグ、スリム、コンパクトという企画サイドの難しいリクエストを受けた機構設計チームは、どんな難関を乗り越えて端末を完成させたのか。鳥取三洋電機のマルチメディア事業部 技術統括部 モバイル通信企画部 モバイル商品企画課の徳原康隆氏と、マルチメディア事業部 モバイル機構技術課の主任技術員、上山知毅氏に聞いた。

“防水Xacti”チームと協力、社内で「防水プロジェクト」を立ち上げ

Photo W53SAの機構設計を担当した、鳥取三洋電機マルチメディア事業部 モバイル機構技術課の主任技術員、上山知毅氏。薄くて頑丈なデザインケータイ「A5405SA」の機構設計も手がけた

 W53SAは、鳥取三洋電機製端末としては初となるIPX5/IPX7対応の防水携帯。開発にあたっては、2つの開発体制上の取り組みを行ったと上山氏は説明する。

 「まずは三洋電機がリリースしている“防水Xacti”開発チームに技術面の協力を仰ぐため、鳥取三洋電機と三洋電機の取締役を結びつけるところから始めました。上と上をつなげてしまえば、あとは担当者同士で遠慮なくやりとりができます。その後は、『嫌われるのではないか』と思うくらい何度も大阪に通って防水技術のアドバイスをもらいました。逆に鳥取三洋電機の生産現場を見てもらったりもしましたよ」(上山氏)

 もう1つが鳥取三洋電機の中に「防水プロジェクト」を立ち上げたことだ。“防水”という未知の課題に取り組むため、製造技術から生産技術、設計、品質保証、部品保証、資材、生産計画まで、W53SAの生産プロセスに関わるすべての部署から専任者を出してチームを結成。毎週のようにミーティングを行い、問題点を洗い出した。課題はそれぞれが各部署に持ち帰ってすぐに検討。それを繰り返しながら開発を進めた。

 「防水プロジェクトは、設計、生産などすべての部署が1つの敷地の中に一気通貫でそろっている鳥取三洋電機だからこそできたことです。距離を越えて各部門が密接に関わり、スピーディに開発を進められました。この防水プロジェクトがなかったらW53SAは成立しなかったでしょう」(上山氏)

全端末を防水検査できる生産ラインを設計

Photo 鳥取三洋電機のマルチメディア事業部 技術統括部 モバイル通信企画部 モバイル商品企画課の徳原康隆氏

 携帯電話は、出荷前の端末に対してぬきうちで検査を行うのが一般的だが、防水仕様のW53SAでは、すべての端末について防水検査を行っている。気圧の高い空気室の中に端末を置き、その圧力の高い空気が端末の内部に漏れる度合いを、水漏れと相関させた値によって測定する。こうした生産ラインの設計は、製造技術、生産技術といった部門が担うのが普通だが、今回は防水プロジェクトという組織で作り上げた。

 「試作の時点で防水仕様になっていても、量産の時点で誰が組み立てても絶対に水が入らないようにするのは難しいところです。寸法公差といった部品レベル、組み立てレベル、そして組みあがったものを実際に使用する段階で、キーを押す、ねじるといった使用環境によるレベルと、3つの不安定要素に防水性能を担保できるように設計するのが大変なのです」(上山氏)

 「それを実現するのが『防水プロジェクト』なんです。高い技術力と製造力、そして、それらがすべて同じ敷地内にある。これが他社にマネのできない鳥取三洋電機の強みです。こうした高い“製造力”によって生み出されたのが今回のW53SAなのです」(徳原氏)

 端末の開発過程では次々と新しい課題が持ち上がり、機構設計チームは苦労が絶えなかったと上山氏は振り返る。

 「無限大の組み合わせになる部品レイアウトを何通りも組み合わせながら、その上で各部品にスペースを割り振っていったのですが、やればやるほど後退するような感じで半ば諦めたくような毎日でした。そんなことを3週間も繰り返すうちにようやく光が見えてきたのです」(上山氏)

防水のために剛性を高めた液晶側の筐体

 防水構造を開発するにあたり、最大の難関となったのは液晶側の筐体だった。20ミリという薄さを実現するためには、液晶側筐体も極限まで薄くしなければならない。しかし薄くしたことで筐体の剛性が落ちると、ひねったりしたときにケース内側の周囲に配したパッキンの圧力分布が均一でなくなり、圧力の低いところから浸水してしまう。いかに剛性を上げてパッキンの面圧分布を一定に保つかが大きな課題だった。


 それを解決したのがマグネシウム素材の採用だ。筐体のフレームにマグネシウムを使って厚さわずか0.3ミリの液晶を守るようにした。ケースの素材も一般的な携帯電話に使われるものとは異なる特殊なプラスチックを採用し、ケースそのものの剛性高めた。しかし、この材質は塗装の乗りがよくないため、マトラッセのつややかな質感を出すために下地処理としてプライマーコートをかけ、3層コートの塗装を施すことになった。

 これらのパーツをつなぎとめるためには、10本以上ものネジを使っている。一般的な携帯では4本程度しか使われないが、W53SAは液晶の周囲を取り囲むようにびっしりネジ止めしている。この小さなネジは、しっかりゴムパッキンされた“防水仕様”。こうしたネジ1本1本にも防水のためのこだわりとコストがかけられているのだ。

上下のケースをつなぐケーブルも防水専用設計

 液晶側の筐体は、ケースの表と裏でパッキンを挟み込む「一重構造」になっているが、キーボード側の筐体は、外側のケースの中にシャシーと呼ばれる筐体があり、そのシャシーが形作る部屋への浸水を防ぐ「二重構造」となっている。表面のケースはあくまでも“カバー”であって、筐体そのものはカバーの中にあるシャシーというわけだ。そこに各種インタフェースやアンテナ、そしてバッテリーを取り付けるための“穴”があり、それをキャップのパッキンで塞ぐという構造になっている。

 この一重構造と二重構造では、浸水を防ぐための手法が異なる。そのため、液晶側とキーボード側のキャビネットをつなぐヒンジ部に通っているFPC(フレキシブルプリント基板)の防水にも、上キャビネット、下キャビネットの構造に合わせたパッキンを取り付けている。一重構造の上キャビネット側にはケース全体を縁取るリング状になったパッキンを、二重構造の下キャビネット側にはキャップ状のパッキンを装備。パッキンを一体で成型したこのFPCの製造には、かなりの工程とコストがかかっているのだ。

 後編では、薄型化の工夫やアンテナの防水仕様など、さらに深くW53SAの内部構造に迫る。



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