ファンタジーよりもリアルが大切――森本氏が込めた「sorato」「ヒトカ」への想いau design projectのコンセプトモデル(2/2 ページ)

» 2007年08月09日 22時42分 公開
[田中聡(至楽社),ITmedia]
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カウンセリングのように引き出しを開けていく作業

 森本美絵氏と坂本氏は、今回のsoratoの作品作りに参加したことについて、また森本千絵氏に対して、どのような感想を抱いたのだろうか。

 「最初はモックもなくて、『とりあえずこれを持って帰って』ともらった手紙を何度も読んで、千絵さんの考えやシビアさが分かってきました。次の打ち合わせに映像を持参してどんどん詰めていって、じゃあ旅に行こうと。仕事は初めてだけど千絵さんらしいと思いました。エネルギーを高めて作るのは、すごく楽しかったですね」(森本美絵氏)

 「千絵さんは頭の中で完結しない、体の人なんです。体を動かして決めていくというのは、曲作りとすごく似ている。自分を取り巻く雰囲気や空気を常に体で感じている人だから、空に会いに行くというのは自然なことだと思いました。時間もギリギリで旅に出ると言い出したので、周りの人はハラハラしたんじゃないかと思いますけど(笑)」(坂本氏)

 また、森本美絵氏と坂本氏は「千絵さんのコンセプトに乗るのが楽しい」と口をそろえる。

 「撮影のときに『何でもあり』ってよく言われるけど、本当は何でもありじゃない。でも千絵さんの何でもありは本当に何でもあり。やっていいと広げてもらえるのはすごい楽でしたね」(森本美絵氏)

 「私は頭で考えて格好つけちゃうタイプだから、こういう作り方は勇気があると思います。今回の千絵さんとのお仕事は、カウンセリングのような感覚でした。自分のポケットにある、隠さなければいけないと思っていたものをポンと出したら、『それすごくいい!』と言ってもらえて。どんどん引き出しを開けてもらえましたね」(坂本氏)

3人がケータイし忘れたものとは?

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 今回の展示会のテーマは「ケータイがケータイし忘れていたもの」。トークイベントでは、3人にとってケータイし忘れていたものとは何かという話題にも及んだ。

 「電車に乗っているとき、ケータイがなかったころは外の夕日を見ていたりしたけど、ケータイがあるとずっとメールとかをやっていて外を見なくなってしまった……。だからなるべく電車に乗っているときは、ケータイを出さないようにしています」(森本美絵氏)

 「ケータイがあると、知りたくないことをいっぱい知ってしまう(こともある)ので、つながらないほうがいいときもあります。家の電話しかなかったころは“あの人は夜何をしているんだろう”と想像したり……」(坂本氏)

 「私は“随時変わっていく感情”。人と人との関係も含めてそれがデザインだし、抽象的な言葉だけではなく、それを形にして提案できればいいですね」(森本千絵氏)

 森本千絵氏がデザインを手掛けるうえで念頭に置いているのが「1人よりも2人」だという。「プロダクトデザインは自分で感じるものだけど、やっぱり人に見せるためにあるものだと思います。自分1人だったら洋服を気にしないように、1人だと何も新しいことに向かわない気がします。でも、デザインを考えるときに一緒に共有する仲間がいれば、その人たちとどういう関係を作っていきたいか――そこにデザイン(の本質)があるのかなと。1人だけの中にデザインはなくて、それは絵画やアートの世界になってしまいます。人がそこにいるからデザインができるんじゃないかと思います」と解説した。

 これに対して森本美絵氏は「私はあまり人のことを考えて撮ってしまうといいものができない。自分がいいと思ったものは、1人くらいはいいと思う人がいるだろうくらいの気持ちで臨んでいます」とコメント。坂本氏は「歌うことは呼吸だと思っています。声は息ですから。語弊はありますが、夢を持とうとかいうメッセージはわりとどうでもいい。私自身がどういう人間かも、けっこうどうでもいい部類に入ります。そこ(歌)に必要なのは、願いや気持ちいいかどうか、ということだけです」と話した。

 これまでの作業を振り返って、森本千絵氏は「リアルだった」と締めくくった。

 「ある人に、『このケータイで大事にしたいのは、リアルとファンタジーどちらですか?』という質問をされて、私は『リアルのほうを大切にしたい』と答えました。とはいえ、目に見えているリアル(本来あるべき空の色)よりは、どこかファンタジーの要素があってもいいんじゃないかと思います。空を飛びたいと思って飛行機が発明されたように、何かを信じてデザインしていくことでリアルが生まれる。soratoとヒトカのデザインに携わり、物を作る考えが変わった数カ月でした」(森本千絵氏)

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