“3Gと小型デバイスの融合”がモバイル市場に変革をもたらす――クアルコム ジャパン 山田純氏ワイヤレスジャパン2008 キーパーソンインタビュー(2/2 ページ)

» 2008年06月23日 07時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]
前のページへ 1|2       

OS/プラットフォームの今後とクアルコムの姿勢

Photo

ITmedia インフラやハードウェア以外の部分に目を向けますと、今年はOSやアプリケーションプラットフォームに関連した話題も多いですね。

山田氏 そうですね。すでに携帯電話向けのプラットフォームとしては、LinuxSymbian OSをベースにしたものが広く普及していますし、Googleの「Android」も出てきました。我々としても、コスト競争力のあるハードウェアの上で、これらのOSやプラットフォームを稼働させていきます。

 また、それ以外にも、クアルコムとしての取り組みとして、Adobeと提携してAIRベースのプラットフォームを構築します。これは近い将来、大きな位置づけを担うものと自負しています。

ITmedia Adobeとの提携は、BREWモバイルプラットフォームと統合し、新たなアプリケーションプラットフォームを構築するというものですよね。

山田氏 ええ。AdobeのFlashやAIRの技術と融合することで、プラットフォームの充実を図ります。AdobeのFlashはインターネットの世界で長い歴史がありますし、開発者の数は200万人以上といわれています。このAdobe Flashの世界がモバイルにシームレスに統合されるメリットは、LinuxやSymbian OS、Androidに引けを取るものではないでしょう。

 クアルコムはこれまでBREWをベースにした独自のプラットフォーム戦略をとってきましたが、今後はそれ(BREW)が下支えとなって、アプリケーションの開発者にはAIRがプラットフォームとして見えるようになってくる。そういう方向に舵を切っていきます。

ITmedia サンディエゴで行われたプレス向けの技術紹介では、Adobeとの提携が発表されたほか、クアルコムのさまざまなチップセット製品の上で、AndroidやWindows Mobileを動かすデモンストレーションを積極的に行っていました。クアルコム全体として見ると、今後はAIRベースのものを軸におきながらも、複数のOSやプラットフォームをサポートしていくという方針ということでしょうか。

山田氏 そのとおりです。どのようなデベロッパーであろうと、彼らが注力する(グローバルな)プラットフォームをクアルコムがサポートしているという環境を作っていきます。これが我々の大きな強みになります。

マイクロセル化の方向に、ポスト3Gの進化がある

Photo

ITmedia クアルコムは端末向けチップセットだけでなく、インフラの技術革新にも深く関わっています。その立場から見て、3G普及後のインフラ進化はどのようになると見ていますか。

山田氏 インフラ技術の革新は、クアルコムの存在理由ともいうべきところです。その上で、今後をどう見ているかといいますと、まず変復調方式で(HSPAの系譜で進化する)CDMAか、(LTEで用いられる)OFDMAかという議論はありますけれど、我々が見るかぎり、変復調方式やアンテナ方式の改良のみで周波数の利用効率を劇的に向上できる技術はまだ出てきていないと思っています。

 ですから、今後のモバイルブロードバンドの実現においては、Wi-Fi(無線LAN)との連携やフェムトセルの導入のように、「アンテナがユーザーの近くに置かれる」ネットワーク構成そのものの見直しが必要になっていくでしょう。

ITmedia 今の(基地局)ネットワーク構成のままでは、ユーザーが空気のようにデータ通信インフラを使うという環境構築は難しい、ということですか。

山田氏 そのとおりです。今の基地局インフラの構成をそのままで、現在よりも周波数効率が何倍も優れる電波を吹くことはできそうにありません。基地局の数を増やし、ユーザーの近くにたくさんのアンテナがある環境を作らないといけない。

 ウィルコムが「我々はマイクロセルネットワークなので収容力が高い。実効速度では3Gに負けない』とおっしゃっていますが、あれはある意味ではとても正しい。今後の3Gではウィルコムのようなネットワーク構成を(最新の通信技術とあわせて)作っていくことで、ウィルコムよりも何倍もよい通信インフラを構築できるのです。

ITmedia 今後のキャリアの「インフラ力」をみる上では、“最新の通信技術を導入しているか”だけでなく、“どれだけ多くの基地局を持っているのか”、さらにはマイクロセル化やフェムトセルの導入、Wi-Fi連携など、“ネットワーク構成そのもののありかたが、高速・大容量化において最適か”まで含めて見ていかなければならないわけですね。

山田氏 そのとおりです。さらには、そういったマイクロセルネットワークを効率的かつ低コストで実現できることが重要になります。こういった新たな時代に向けて、クアルコムでは技術開発を進めています。近々、標準化団体への提案も含めてアクションを起こしていくことになるでしょう。

グローバル化は、日本企業にとってチャンスでもある

ITmedia 2008年は、日本のモバイル関連企業が「グローバル化」を突きつけられた年でもあります。「iPhone」のような魅力的なプロダクトも登場し、サービス面ではGoogleが勢力を増してきています。日本のモバイル産業に連なるすべての企業が、グローバルを意識していかざるを得ない時期にあるのかな、と思います。

 この点において、クアルコムは当初からグローバル企業であったわけですけれども、日本企業に対する提言やアドバイスのようなものはありますか。

山田氏 欧米をはじめ、日本以外の先進国市場を見ますと、iPhoneやBlackBerryWindows Mobileなどスマートフォンが増えてきています。スマートフォンの市場占有率が着実に大きくなっていくのは間違いありません。

Photo 左からiPhone 3G、ドコモが法人向けに販売している「BlackBerry 8707h」、ウィルコムのWindows Mobile端末「WILLCOM 03」

 こういったスマートフォンは画面サイズが大きく、データ通信が使いやすいことが重要になるので、そういった観点からみれば「日本メーカーが得意とする携帯電話市場」に海外も追いついてきたともいえるのです。3Gインフラの整備も進んでいますし、市場環境の点でいえば、日本メーカーにとって海外に進出しやすい時期にきたという見方もできるのです。

ITmedia 確かに搭載デバイスやインフラ対応では、3Gで先行した日本メーカーの力を生かしやすい市場環境にはなってきていますね。

山田氏 メーカーが主義主張をしっかり持ち、腰を据えて取り組めば、海外でも日本メーカーが受け入れられるマーケットはできてきています。ただ、この際の打ち出し方は単なる携帯電話ではなく、データ通信に特化した端末として打ち出す方がいいのではないかと思います。

 この10年の(日本の)キャリアの垂直統合モデルは、よい面と悪い面のどちらもありましたが、このモデルがこのままずっと続いていくとは考えにくい。メーカーやコンテンツサービス事業者が自らの力で挑戦していけば、海外市場には出て行きやすくなったと言えますね。

ITmedia そういう意味では、メーカーやコンテンツプロバイダーが、キャリアや日本市場のエコシステムという「揺りかご」から出て行く1つの転機かもしれませんね。もちろん、日本市場は大切ですが、キャリアとの関係を見直し、グローバル市場を前提にしていく。グローバル市場の中に日本市場があるという発想で、積極的にリスクを取ってチャレンジしていく姿勢が、これからは大切なのかもしれません。

日本市場のルールは変えられる

ITmedia 2008年から2010年というのは、モバイル市場にとって大きな変革期かと思うのですけれど、そこにおいて、このモバイル市場に携わるビジネスパーソンにとって必要なマインドというのはどういったものになるのでしょうか。

山田氏 今後を見据えて重要なのは、通信キャリアが作り上げた垂直統合型のビジネスモデルや、エコシステムが明らかに変わろうとしているということです。今までの日本のモバイルビジネスでは、キャリアとの関係で実現は不可能だと思われたことが、これからは“実現できるようになっていく”と考えるべきではないでしょうか。通信インフラの容量が増大し、キャリア側もさまざまなビジネスやプレーヤーを受け入れられるようになってくるでしょう。キャリアの意向を無視して、「新しいサービスやビジネスを作るんだ」ということが、実際に可能になろうとしているのです。

ITmedia 2005年前後に、日本の携帯電話業界の構造が固まって閉塞感も感じられましたが、実は2008年から先で見れば、モバイル産業全体の構造や在り方が変えられる、ということですね。

山田氏 そうです。(日本市場の)ルールは変えられます。キャリア自身も、キャリア自らが作ったルールを変えていくことをいとわなくなっていて、むしろ新たなビジネスを作り出したいと考えています。今こそ、新しいチャレンジをする時期だと思います。

ITmedia 日本の携帯電話業界には、暗黙の了解といいますか、キャリアとの関係をはじめとしてルールやタブーのようなものがありました。しかし、そういうものが壊せる・変えられるというところからグローバルを見据えていけば、もう一度新たな成長のチャンスが生まれそうですね。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年