割賦制度の導入による買い替えサイクルの長期化、販売奨励金の廃止で従来より高くなった端末価格、コンシューマー市場の飽和――。日本の携帯端末の出荷台数は、市場の急激な変化の影響を受けて伸び悩んでいる。
こうした中、端末メーカーはシェア拡大に向けて、どんな戦略を打ち出そうとしているのか。ワイヤレスジャパン2008の基調講演に登場したシャープの松本雅史副社長は、“コンバージェンス”と“海外進出”を切り札に、国内外のシェア拡大を目指すとした。
これから携帯電話がどのような方向に向かうのかを考えるとき、ポイントの1つは“デジタルコンバージェンス”だと、松本氏。通信インフラが進化する中、“携帯電話と他の機器との連携が重要になる”という考えだ。
「テレビとDVDレコーダー、テレビとホームシアターがつながるのと同じように、携帯電話ともつながるようになる。1つのコア技術として携帯電話が大きな要素になり、さまざまな機器と連携して機能を取り込み、いろいろな使われ方をするようになる」(松本氏)。
これは、シャープが総合家電メーカーであり、連携の強みを最大限に発揮できるからこその戦略だ。同社では、自社のデバイス部門をはじめ、テレビや通信、情報などの企画部門を連携させ、新たな価値の創造に取り組んでいるという。そして、そこから生まれたのが、同社の液晶テレビ“AQUOS”とのインターネット連携を実現した「AQUOSケータイ 923SH」であり、ウォーターオーブン「ヘルシオ」のメニューと連携した「SH706iw」というわけだ。SH706iwではさらに、体重計や体脂肪計と赤外線による連携が可能になるなど、シャープでは社内にとどまらない連携にも積極的に取り組むとしている。
「家電から(オフィス機器の)複写機まで、幅広いソリューションを手がけている“シャープならでは”のデジタルコンバージェンスで、ホーム、モバイル、オフィスをシームレスに接続する。携帯電話という小さな市場の中だけではなく、他の事業や産業との融合も重要であり、ここで新たな価値を創造することで、真のユビキタス社会の実現を目指す」(松本氏)
講演の中で松本氏は、近日中にも提供予定の自社サービスを紹介した。「メッセージゲート」というこのサービスは、携帯の中にデータを残すことなく、会社のメールを送受信したり、オフィス文書を閲覧可能にするものだ。
「メッセージゲートは、PCを持ち出さずにメールやファイルを閲覧でき、流出の心配もない便利なサービス。情報の流出リスクを軽減する新しい仕組みを携帯向けに提供する」(松本氏)
もう1つのシェア拡大として挙げるのは“海外進出”。松本氏は、世界のケータイシェアで日本メーカーが「全部集まっても5%くらいのシェアしかない」ことを挙げ、ここを広げていきたいと話す。すでにシャープは日本で人気の高いAQUOSケータイを台湾と香港の通信キャリアに提供しており、6月21日からは中国でも販売を開始。いずれの地域でも販売は好調で、上海を中心とした大都市で発売した中国では売り切れる店も出たという。
「日本の市場は減速しているが、中国は2億台の市場。300万台、500万台という単位で出て行く可能性があるということで注力しており、第2弾、第3弾と力を入れて取り組んでいく」(松本氏)
国内の携帯電話の出荷台数は縮小傾向にあり、この4月から6月の出荷台数は1年前に比べて74%も減少している。携帯電話の周辺にはコンテンツやソリューション、デバイスなど28兆円規模の市場があることから松本氏は、端末市場の縮小が周辺産業にも影響を与え、それが技術革新の停滞にもつながりかねないと懸念する。
「こうした事態を打開し、世界の携帯文化を牽引するためにも、移動体通信の再活性化が必要」(松本氏)
そのためにも、「世界市場への進出や新たな産業との融合が重要」というのが松本氏の考えだ。また、今後はモバイルの概念を再構築し「今までのモバイルから、動くものや身につけるものすべてへと、モバイルの概念を変えていく」ことも重要だと話す。「あらゆる機器との連携、さまざまな業界との融合でモバイルの可能性は無限大に広がる。知恵を出し合って、携帯電話の通信事業を日本から世界に発信していきたい」(松本氏)
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