業界最安の「月額780円」を実現した理由──イー・モバイルの狙いとは

» 2009年01月28日 20時51分 公開
[園部修,ITmedia]
Photo イー・モバイル 代表取締役会長の千本倖生氏。同氏はこの日、スウェーデン王立工学アカデミー(IVA)外国人会員の認定書をステファン・ノレーン駐日大使から手渡された

 「基本料金を月額780円にしようと考えた原点は、これだけ日本経済が苦しくなっている状況下でも、電話はどうしても必要だというところにある。こういう時代に消費者が望んでいるのは“安くていいもの”。どうしても必要な携帯を、企業努力を通して少しでも安く提供しようと考えた」

 イー・モバイル代表取締役会長の千本倖生男氏は、新料金プラン「がっちりコース ケータイ定額プラン」の発表会見で冒頭のように語った。今年の使命は「日本の消費者に安くていいものを提供していくのが今年のイー・モバイルの使命」だという。

 携帯電話の基本料金といえば、かつては1000円台の後半くらいが最安値だったが、2007年1月5日にソフトバンクモバイルが月額980円の「ホワイトプラン」を発表したことで、その後携帯電話事業者各社が追随し、最低料金は月額980円というラインで足並みがそろった。

 千本氏は「この980円という価格が一般化して、アンタッチャブルになっていた部分があるのではないか。うちはかなりの企業努力をして、基本料金を下げることにした。2割値下げして780円にしてもビジネスとして成立するようなモデルを作った」と胸を張る。

 ただ、実際のところは一生懸命コスト削減をしたりといった“ものすごい企業努力”というわけではないようだ。イー・モバイル代表取締役社長兼COOのエリック・ガン氏は「現状では、Netbookとデータ端末のセット販売が非常に好調で、新規で音声の契約をする人は約1割程度。12月末時点の約112万契約という全体で見ても、音声端末で契約しているユーザーは2割程度と、音声の契約者はそれほど多くない」と話す。

 さらに、データ通信が定額かつ無制限で利用できるイー・モバイルでは、月間平均で1ユーザーあたり約1.9Gバイトのトラフィックをさばいており、「それに比べれば音声のトラフィックは、それほどたいしたことがないことが分かった」と執行役員副社長の阿部基成氏。イー・モバイルのネットワークは、ADSL並みのトラフィックを想定して展開してきたこともあり、データトラフィックが現状の3倍程度になっても対応できるくらいのキャパシティはあるという。「仮に電話を何百分かけられても、(コスト・インフラの両面で)対応できるめどが立っている」(阿部氏)

 ちなみにソフトバンクモバイルの孫正義社長が「ホワイトプランが980円でも利益が出る理由」として、携帯ユーザー全体に占める自社のシェアが小さい分、他社ユーザーに電話をかける(通話料を払う)通話が多い上、他社からの着信も多いことから、着信のたびに接続料が入る、といった事情を話していたことがあるが、イー・モバイルの場合、着信自体はあまりなく、発信がメインになるため、接続料で収入を得るというシナリオはあまり考慮していないという。またイー・モバイルのユーザーはデータ通信と組み合わせて利用している場合がほとんどであり、音声通話しかしない人があまりいないと予想され、ガン氏は「ARPU(1人あたりの月間平均収入)が低下するほどの影響はないだろう」と話した。

 他社が追随してくる可能性についてガン氏は「当然追従した値下げの可能性は想定している。ただ、現状音声のユーザーベースがあまり大きくなく、新しいメニューを出しても財務的にあまりインパクトがない当社に対して、他社は980円のユーザーだけでも相当数いるはず。そこからさらに価格を下げるのはきついのではないか」との見方を示した。

 イー・モバイルが音声ユーザーを獲得しようとしている理由は、最終的には追加周波数の獲得にあるのだろう。ガン氏は「Netbookとのセット販売により、イー・モバイルの知名度が上がっている。その知名度を有効に利用したい」と話した。「音声サービスのユーザーは、1億人もいる。データ通信サービスのユーザーより圧倒的に多い。そうしたユーザーを取り込むことで、早期に250万契約以上の獲得を目指したい」(ガン氏)

 250万契約というのは、イー・モバイルにとって1つの大きな目標となっている。その理由は、同社が1.7GHz帯の5MHz幅の割り当てを受けた際に、「1.7GHz帯又は2GHz帯の周波数を使用する特定基地局の開設に関する指針」により、1MHzあたりの利用者数が50万を超えた場合に、追加の周波数を割り当てると定められているからだ。つまり、契約数が250万を超えれば、追加で1.7GHz帯の周波数を割り当ててもらえる。音声ユーザーを増やすことで、当初の計画よりも早い段階で追加の周波数の割り当てを狙うのだろう。

 発表会で千本氏が「家族間やグループ間の通話を月額780円で実現する携帯として、もう1台持ってみてはいかがですか、という提案をしていきたい」と話したように、イー・モバイルは一般ユーザーにも浸透しつつあるブランドを足がかりに、2台目、あるいは3台目のケータイとして音声契約を獲得していきたい考えだ。この新しい料金プランによって、「音声契約のユーザーが新規契約の20%くらいになればいい」とガン氏は話した。

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