iモードは“黒船”が追いつけない領域に進化している――ドコモの阿佐美氏ワイヤレスジャパン2009 キーパーソンインタビュー(2/4 ページ)

» 2009年07月17日 17時25分 公開
[神尾寿,ITmedia]

プルからプッシュ、そしてパーソナライズへ

ITmedia お客様との距離感を近くする――というのは、最近のドコモに共通するスタンスですね。プル型のサービスだけではなく、プッシュ型サービスで利用層を拡大する、という方向性です。

阿佐美 これまでの10年間は、とにかくメニューを増やして“お客様からのアクセスを待っている”という形でしたが、今後は“お客様にいかに歩み寄るか”が重要になるでしょう。

ITmedia iモードに対するドコモの考え方が変わってきたと感じたのがiチャネルの登場時で、ここからユーザーへの歩み寄りというものが始まったのだと思います。今回のBeeTVも、単にすごい動画コンテンツを視聴できるというだけではなく、視聴者の裾野を広げ、多くの人々にたくさんのコンテンツを観てもらいたいという思いが根底にある。

阿佐美 難しいことをやって、社内的に「すごい」と思うようなサービスは、なかなかお客様には伝わらないですね。iチャネルは、お客様の目線で「使える」ものにするためにどうすればいいかというアプローチから生まれた最初のサービスといえるでしょう。

 ケータイを持っていることや、iモードを利用していることがステータス――というところからスタートしたiモードサービスですが、(契約数が)5000万近い成熟した市場では、“ごく普通の人”がユーザーとして重要になります。こうした人たちに(技術的・サービス的に)「すごいだろう」というメッセージはなかなか伝わらなくて、「結局、それで何を視聴できるのか」という話になってしまう。琴線に触れるところまで歩み寄らないと、サービスはなかなか使っていただけないですね。

ITmedia 昔のiモードはプル型で、まさしくインターネット的な世界を携帯電話に合わせて作ったゲートウェイビジネスでした。これがユーザー層の広がりに伴って、ケータイならではのプッシュ+プルのような形に進化してきています。

阿佐美 それは(モバイルにおける)コンテンツのあり方の進化ともいえます。我々はプルで情報を取得する領域を「図書館型」、プッシュで配信する方式を「フロー型」と呼んでいますが、まさしく日常生活で必要となる情報は、(iチャンネルのような)フロー型の方が、モバイルでは使い勝手がいいのです。

ITmedia ケータイを1つのメディアとして考えると、当初(iモード)はPCインターネットに近いプル型の世界からスタートし、その後、テレビやラジオの世界に近いプッシュ型のコンテンツ提供モデルが補完的に登場して、利用者層の裾野が拡大しているわけです。そして、2008年からドコモが取り組んでいる「iコンシェル」のようなパーソナライズ型サービスは、既存のメディアがアプローチしにくかった“携帯電話ならでは”の世界と言えますね。

阿佐美 世の中には、“ある人には必要でも、ある人には不要”といった情報がたくさんあります。それをプルで待っていても誰も取りにこないし、プッシュで押し付けると「いらない、邪魔だ」とゴミになってしまう。こうした情報を、いかにお客様の嗜好に合わせてうまく配信するかが、iコンシェルの担うファンクションです。ここ(iコンシェル)は、これからもっともっと進化していく領域だと思います。

ITmedia ひとことで「10年目のiモード」といっても、1999年から見ればもはや3世代分の大きな進化をとげているわけですね。

阿佐美 (携帯電話は)電話やメールといったファンクションから始まり、次にインターネットにアクセスできるファンクションが重要になりました。その後、おサイフケータイなどの生活を便利にするサービスが登場し、今はiコンシェルでお客様の日々の生活や行動をどれだけフォローできるかに注力している段階ですね。まさにパーソナル化の方向へ進んでおり、3〜4年前あたりから生活支援や行動支援を軸にしているわけです。

Photo プル型サービスとしてスタートしたiモードは、より個人に最適化した情報をプッシュ配信する方向に進化(左)。今後は行動支援サービスに力を入れる(右)

ITmedia 今後のモバイルビジネスにおいて、いま一番の注目はiコンシェルだと思うのですが、手応えはいかがでしょうか。

阿佐美 契約数は160万を突破しました。だいたい100万契約を超えたあたりから対応コンテンツも増加し始め、当初170社ほどだったコンテンツプロバイダが、今では倍の330〜340社になりました。

ITmedia iコンシェルは「トルカ」配信などの機能もありますが、ドコモにとってユーザーとお店をマッチングするというのも、新しい事業になりそうですね。

阿佐美 そこがまさに我々の考えているところです。今は(ユーザーが)100万強しかいないので運用も実験的なものですが、これが1000万単位になれば、企業に対する1つのCRMサービスとして成立するでしょう。

ITmedia 企業のマーケティング活動をドコモが受託するという可能性は十分ありますね。今年のiコンシェルのユーザー規模というのはかなり大きくなりそうですか。

阿佐美 すでに今回の決算で、2009年度の目標を380万契約と発表しているんですよ。重いノルマになっています(笑)。

Photo ドコモが2008年11月からサービスを開始したエージェントサービス「iコンシェル」

iエリア+iコンシェルの可能性

ITmedia 2009年の後半には“iコンシェルのiエリア連動”が控えていますが、これは具体的にどのような使い方になるのでしょう。

阿佐美 お客様が自ら自分の位置を知らせるという設定をすると、お客様の居場所に最適化したインフォメーションを提供するというものです。位置情報と連動することで、あるエリアにいる方に対してそのエリアの情報のみを提供できるようになります。

 例えば私が大阪出張に行ったら、大阪の情報が得られる。普通だとなかなかこうした設定はできません。住んでいる場所の設定はありますが、それは東京になっているわけです。それが、この位置情報と連動すると、その人がどこにいるかによって、そこに合わせた情報を送りこめる。

 これもお客様にどこまでメリットがあるのか、色々な点でチャレンジなのですが、モバイルの特性を活かした使い方にできればいいと思っています。

ITmedia 範囲はどの程度細かく設定できるものなのでしょうか。

阿佐美 GPSを使っているので、いい時は5メートル、悪くても300メートル程度でしょうか。プッシュしたコンテンツが、お客様にとって徒歩圏だと“ちょうどよい”わけで、このくらいの精度があれば十分でしょう。

ITmedia iエリア連動がはじまると、iモードで扱われるコンテンツの内容も変わっていきそうですね。

阿佐美 ローカル性の高いものが増えるでしょう。

 今まで弊社は(東京にある)ドコモ本社が中心となってiモードを開発し、全国規模のコンテンツを開拓してきましたが、iコンシェルが本格稼働するようになると状況が変わります。お客様に使いやすくするため、地場のコンテンツを各地域支社が開拓する――といった活動が重要になります。

ITmedia 各地域支社の人たちは、ようやく自分たちの時代が来たかと思っているかもしれませんね。ドコモの地域支社は、各地域経済との関わりが深いですし、信頼されています。(他キャリアよりも)ローカルコンテンツを集めやすいという優位性がある。

阿佐美 iコンシェルのコンテンツは、各地の企業との連携がとても重要になります。例えば、スーパーマーケットでiコンシェルとトルカを活用しようということになると、地場企業との連携が必要になる。こうした各地域社会との連携が取りやすいというのは、(iコンシェル時代における)各地域支社の重要な役割になるでしょう。

ITmedia iコンシェルのメディア機能が高まった時には、ドコモが(直接)モバイル広告のビジネスを行うようになるのでしょうか。それとも、KDDIがmedibaを立ち上げたように新会社を作ることも考えているのでしょうか。

阿佐美 そこまでの可能性が出てくればすごいことですが、まだそこまでやるかどうかを決める段階でもないです。パートナー企業と我々との関わりについても、通話とメールを中心としたサービスでは、“お客様とドコモ”という構図になりますが、iモードでは携帯関連のコンテンツホルダーとの関わりが出てきます。おサイフ機能などでは、一般企業とも関わることになります。行動支援は地域に密着したサービスを目指しており、パートナー企業との関わりもかなり広がることになるでしょう。非常に良いチャネルを持つことができたと思います。

ITmedia エコシステムの範囲が広がっているということですね。今、振り返ると、ドコモがおサイフケータイに力を入れたのは正解でしたね。(おサイフケータイで)生活支援分野に注力してきたからこそ、(iコンシェルなど)行動支援分野にリーチできたと。

阿佐美 そうですね。段階を踏んでやってきたからできたことです。いきなり(行動支援の段階に)飛び越すことはできません。そういう意味では、10年かけて築いてきたベースがあるからiコンシェルの展開ができたのだろうと思いますね。

ITmedia ステップ・バイ・ステップできっちりと計画されてきたということですね。

阿佐美 結果を戦略的に言うのは簡単ですが……かっこよくいえば「そうだ」と(笑)。しかし本当にこれは積み重ねの結果です。

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