そろそろアップデートが必要な「問題意識」小寺信良「ケータイの力学」

» 2012年01月30日 15時15分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 子どもが携帯電話を持つことに関して、現在は多くの自治体で「親の判断を重視する」ということになっている。当たり前と言えば当たり前だが、2009年ごろまでは「子どもには携帯を持たせない」という方針が当たり前のようにまかり通っていた。

 2009年1月に文科省が全国の国公立小中学校に向けて、携帯電話の原則持ち込み禁止という通知を出したあたりが、“持たせない”派の勢いが最も強かった頃である。この方針は現在も撤回されておらず、今でも国公立の小中学校は原則持ち込み禁止のはずだ。

 保護者の意識が転換し始めたのは、皮肉にもこの通達が出た時からである。URLフィルタリングで知られるネットスターが同年3月末に保護者を対象とした調査結果によれば、「学校に携帯電話を持ち込ませないという施策では問題は解決しない」と解答した保護者が、8割以上に上っている。学校に携帯を持ち込ませないという方針は、学校にしかメリットがない。つまり学校に面倒を持ち込むなというだけのことで、学校は情報教育から逃げているということに、保護者たちが気づいたのである。

 2010年頃には保護者の方から、子どもが携帯電話を持つのは時間の問題、持たせたら情報教育が必要、という具合に転換した。同年にいくつかの県でPTA大会を取材したが、もう持たせる持たせないの二元論ではなく、子どもも携帯を持ってネット社会に来るという前提で、どうすべきかが議論の中心であった。

ネットは学習のチャンス

 この時の方向性として大勢を占めていたのは、「携帯はただの道具なのだから、正しい使い方を教えるべき」という意見である。利用を前提とした方針に転換したことは正しいと言えるが、筆者はこの意見には少なからず違和感を覚えた。ただ、それがどのような原因で違和感を感じるのか、当時はよく分からなかった。

 この違和感の原因が氷解したのは、スマートフォンの普及が見えてきたときである。確かに端末としての携帯そのものは道具といえば道具かもしれない。だがこのような通信端末の本質は、それが繋がるネットワークにある。

 そのネットワークは何をするかというと、人間の知恵を蓄積して検索できるようにすること、もう一つは向こう側にいる人と繋ぐためにある。携帯を持っているということは、そういうシステムのはじっこを握ってるということなのだ。それに対して、「単なる道具だから」っていう解釈は、本質を半分しか見ていないことに等しい。 

 さらに「ネットのトラブル」と言われること自体も、人と繋がるものであるということを前提に、意識を変える必要が出てきている。例えば「ネットでケンカになったことがある」というような項目は、本当にトラブルと言えるだろうか。

 大の大人でも、意見の対立は至る所で起こる。子どもでも同じだし、逆に子どもだからケンカになるとも言える。その時になぜ、建設的な議論にならなかったのか。投稿システムが議論に向いていないからなのか。ちゃんとした議論になるよう指導する立場の人間が誰も周りにいなかったのか。そういうところを見ず、単にネットのせいとしてはいけない。

 ネットがなければケンカにはならなかった、というのも違う。むしろ学校のように、趣味嗜好関係なくただ同じ年に生まれて近所に住んでいると言うだけの理由で、強制的に集団生活を行なわせる場所のほうが、意見の対立は起こりやすい。対立してもその集団から離脱が不可能だから、大人しく過ごす術を覚えていくだけのことである。

 それならば、ネットを使って議論のしかたを覚えさせた方が、人生にとってプラスなのではないか。ネットは顔が見えないというが、いきなり拳が飛んでこないだけ安全という見方もできる。文字だけの通信というのは、制限でもあるが、同時に一つの利点でもあるわけだ。

 今年4月から、中学校の学習指導要領が変わる。情報教育が高校から中学に降りてくるのだ。一番多感な時期に、学校でコミュニケーションの何を教えることができるのか。指導する先生方は大変だろうと思うが、すでに私立校では取り組みを始めているところも多い。ぜひ国公立の中学でも、ネットがある現実と向き合っていただきたい。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia +Dモバイルでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


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