説明を行ったKDDI常勤顧問の渡辺文雄氏は、スマートフォンの急速な普及とともに、モバイルデータトラフィックが2016年度には2011年度の16倍にまで増加するという見通しを示して、マクロ的な視点におけるトラフィック急増への対応を訴えるが、その解決策の本質は「マクロ的な視点では見えない」と主張する。
KDDIが行った100メートル四方メッシュで区切った首都圏のモバイルデータトラフィックの時系列変化を調べたところ、ごく限られた局所的短時間でトラフィックが急増することが分かり、単なるデータ転送速度の高速化と広帯域化だけでなく、局所的に高密度なトラフィックに対応できる新技術が必要と渡辺氏は説明している。
KDDIでは、以前から次世代通信技術としてLTE-Advancedの導入に向けた開発を進めており、すでに運用している帯域と、今後取得を目指す3.5GHz帯でも導入して、高速なデータ通信速度と広帯域の需要に応えて、マクロ視点のトラフィック増加に対応するとともに、小セル化や多アンテナ化によって局所的超高密度トラフィックの増加にも対処していくという。
そのために必要となるのが3.5GHz帯を有効に活用する調査と新技術の開発だ。3.5GHz帯はKDDIがプラチナバンドと呼んでいる800MHzと比べて広い帯域幅を確保して高速データ通信が可能な一方で、直進性が強く遠くに届きにくく建物の中にも入っていかないという使いにくい性質を持つ。しかし、渡辺氏は、その性質が基地局同士の干渉を減らし高い転送速度を確保できるほか、アンテナサイズや出力を抑えられることで小さな基地局を多数配置する小セル展開に向いていて、局所的高密度トラフィックに対応に適している説明した。
KDDIでは、日本の実人口カバー率99%に達した800MHz帯対応LTE(プラチナバンド)に、3.5GHz帯小セルエリア(渡辺氏はこれを“ダイヤモンドバンド”と呼んでいた)を組み合わせることで、局所的超高密度トラフィックにも対応する高速データ通信網を提供する考えを示している。
渡辺氏は、既存帯域で導入する予定のLTE-Advancedと、3.5GHz帯のLTE-Advancedの組み合わせでは、電波の性質が大きく異なる3.5GHz帯で細かいエリア設計と新しい技術的工夫が必要と述べている。そのために、KDDIでは、「電波の見える化」ツールを開発して、3.5GHz帯の電波が実際の街でどのように進むのかを詳細に把握し、そのデータを基にして細かいエリア設計を行う「エリア設計ソフトウェアシミュレータ」も開発している。
さらに、広域の既存帯域エリアに小セルの3.5GHz帯エリアが点在するため、移動に伴うハンドオーバーが多発することになる。このとき瞬断や転送速度の低下が発生するが、これは、通常はユーザーデータ(User plane)と制御信号(Control plane)は、同じ基地局と端末で送受信しており、ハンドオーバーが発生するたびに、両方の信号を新しく接続した基地局と接続しなおさなければならないためだ。
この問題に対応するため、切り替えに時間のかかるControl planeを広域エリアの基地局と送受信することでハンドオーバーの発生を減らす「C/U分離技術」の開発を進めている。KDDIでは、C/U分離技術の実証実験を行う車両を用意して、小山ネットワークセンターの敷地内に仮設した1.5GHz帯広域エリアと3.5GHz帯小セルにおいてハンドオーバーによって転送レートが大きく低下しないことを実際に示した。
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