テレビ朝日とKDDI、スマホ向け動画配信で戦略的業務提携 AKB48グループ出演の共同制作番組もよりユーザーに近いコンテンツ作りを目指す

» 2015年08月20日 22時30分 公開
[井上翔ITmedia]

 テレビ朝日とKDDIは8月20日、スマートフォン向け動画配信事業における戦略的業務提携を締結したことを発表した。KDDI(au)の「ビデオパス」や「au ID」などから得られたビッグデータを活用した地上波連動番組を共同制作するほか、テレビ朝日が放送している番組や、番組と連動したインターネットオリジナル動画を「ビデオパス」会員限定で見放題独占配信する。

 本業務提携にあたり、テレビ朝日とKDDIは合同記者会見を開催した。テレビ朝日からは常務取締役の角南源五氏、KDDIからは代表取締役執行役員専務の高橋誠氏がそれぞれ登壇し、今回の業務提携の狙いを説明した。

テレビ朝日:ネット動画の「プラットフォーマー」としてのプレゼンスを確保

photo テレビ朝日の角南氏

 テレビ朝日の現行の経営計画「デジタル5ビジョン2ndステージ」では、開局60周年に当たる2018年度までに「日本でトップグループのコンテンツ総合企業」になるという目標を掲げている。「どのような事業環境の変化があっても、必ず勝ち残れる企業になる」という角南氏の言葉のとおり、テレビ局を取り巻く経営環境は、ここ数年で非常に大きな変化の波にさらされている。

 スマートフォン・タブレットが普及し、スマートテレビも出現したことで、視聴形態や地上波放送の位置付けが変化する一方、コンサートやライブといったリアル体験へのニーズが高まっている。その現状を受け、テレビ朝日ではインターネット事業とメディアシティ事業(※)を、視聴者との接点を増やすための「成長事業」と位置付け、さまざまな施策を実行している。

※「メディアシティ事業」は、テレビ朝日本社とその周辺の施設でイベントを開催し、それを通して収益をあげる事業。

photophoto 視聴方法やコンテンツの多様化やリアル体験へのニーズの高まり(写真=左)を受けて、「中核事業」である放送事業(地上波・BS・CS)の競争力を維持・向上しつつ、インターネットとメディアシティ事業を「成長事業」と位置付け、視聴者との接点を増やす(写真=右)

 今まで、視聴者のテレビに良質なコンテンツを“直接”に届けてきたテレビ局。一方で、デバイスの高機能化と通信の高速化によって急速に支持を広めつつあるインターネット動画配信サービス。そのような状況だからこそ、「動画配信への対応は急務」(角南氏)であり、だからこそ経営計画でも成長事業として位置付けている。

 しかし、テレビ局がネット動画配信に取り組もうとすると、テレビ放送と異なる性質が障壁となりうる。テレビ放送では、番組(コンテンツ)の企画・制作と、その配信・収益化を垂直統合モデルで行っている。それに対して、ネット動画配信には、すでに多くのプラットフォーマー(配信事業者)が存在し、テレビ放送のような垂直統合モデルを取ることが容易ではない状況となっている。コンテンツプロバイダーとしてだけではなく、「(配信の)プラットフォーマーとしても、一定のポジションを確保し、ネット上でのプレゼンス(存在感)を示すこと」(角南氏)が課題となのだ。

photophoto テレビ放送では、垂直統合モデルを取っている(写真=左)。しかし、ネット動画配信ではプラットフォーマーが多数存在することから、それが困難。そこで、まずはプラットフォーマーとしての地位を確保することが課題(写真=右)

 そこで、テレビ朝日はKDDIと協業することを選択した。その理由として角南氏は、強固な顧客基盤を持つこと、グループ企業として有線放送事業者のJ:COM(ジュピターテレコム)を持つこと、ネットサービスに関する深い知見の蓄積があること、ビッグデータの利活用に積極的であることの4つを上げた。そこに、テレビ朝日のコンテンツと、その制作能力を組み合わせることで、「ビデオパス」をより大きなプラットフォームに成長させ、ネット動画配信におけるテレビ朝日のプレゼンス向上を目指す。

 テレビ朝日とKDDIでは、ビデオパスの会員の増加を動画配信プラットフォームの成長と位置付け、その成果を共有できるようなビジネスモデルを構築する。

photophoto テレビ朝日のコンテンツとその制作能力を、KDDIの「ビデオパス」と組み合わせることで、プレゼンス向上を図る(写真=左)。ビデオパスの会員増は、両社共通のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)として取り扱う(写真=右)

KDDI:ビデオパスのユーザーに合ったコンテンツ提供を促す

photo KDDIの高橋氏

 一方、KDDIではマルチユース(ネットワークやデバイスを問わないサービスの提供)・マルチネットワーク(複数のネットワークでシームレスに通信できる環境の提供)・マルチデバイス(複数端末の利用)を軸とした「3M戦略」を国内事業のビジョンとして掲げている。この戦略を力強く支えているのが、「スマートパス」や「ビデオパス」といった、auの「〜パス」の付く各種サービスだ。

 テレビ朝日の角南氏も語っていたとおり、ビデオパスを含めたネット動画配信サービスは競合が多い。高橋氏は「これまであまり話してこなかった」とした上で、ビデオパスの差別化要素として、国内タイトル数が競合よりも多いこと、先行独占配信に力を入れていること、会員向けの映画館での鑑賞特典を用意していることを挙げたが、それを「次のステージへ上げる」(高橋氏)ための手段として、テレビ朝日との提携を選択したのだ。

photophoto 「お客様にご利用いただきたいサービス」と位置付けているビデオパス(写真=左)。競合が増えていくなかでも差別化を図ってきたが(写真=右)、その次のステップが、テレビ朝日との提携

 KDDIにとって、テレビ朝日のコンテンツの見放題独占配信(詳しくは後述)以上に大きな意味を持つのが、ビッグデータを生かしたコンテンツの共同制作だ。「コンテンツの作り手とお客さまのキャッチボール」(高橋氏)と例えられたこの取り組みでは、KDDIが持つ顧客データと行動データにソケッツ(協力会社)が持つ2000種類のメタデータを組み合わせたものを、テレビ朝日のコンテンツ制作担当者に伝える。

 こう聞くと、「見る側がこういう趣味や行動をしているから、それにピッタリ合うようなものを作れ!」とKDDI側が暗に命令しているような印象を受けてしまうが、そうではない。渡されるデータの例としては、途中で視聴をやめた時点の統計を取ってデータ化した「離脱率」が挙げられる。離脱率を見たコンテンツの作り手は、コンテンツの尺(長さ)や盛り上がりどころを決める際に参考にする程度で良いのだ。作り手の「作りたい!」という気持ちと、ユーザーの「見たい!」という気持ちのマッチングを通して、よりユーザーに近いコンテンツの制作を助ける、という位置付けだ。

photophoto 制作者とビデオパスユーザーをつなぐために、KDDIが持つ顧客データと行動データにメタデータを加えたものをテレビ朝日の制作者に提供する
photophoto 提供されたビッグデータは、制作者のコンテンツ作りの参考となる

ビッグデータを使ったAKB48グループ出演の番組を共同制作

 ビッグデータを活用した番組の第1弾は、AKB48グループ(AKB48、SKE48、NMB48、HKT48)が主演を務めるエンタテインメントドラマで、企画はAKB48グループのプロデューサーである秋元康氏が行う。

 番組は2015年10月から放送・配信を開始する。ビデオパス会員限定で、テレビ放映と同じクオリティのオリジナルエピソードも配信する。番組の詳細については、9月16日に開催されるAKBイベントで発表される。

photo テレビ朝日とKDDIの共同制作番組第1弾は、AKB48グループメンバー主演のドラマ

 テレビ朝日の番組や、それと連動したコンテンツのビデオパス会員向け見放題独占配信も行う。まず、8月22日からテレビドラマ「民王」が見放題になる。放映済みの第1話〜第3話は22日の午前2時から、第4話以降は放送翌日の午前7時から配信となる。

 また、バラエティ番組「お願い!ランキング」の第1部にある「お願い!ビジコンサロン〜ホリエモンも驚く画期的ビジネスが続々登場〜」も、8月24日の放送分以降、翌朝7時から見放題となる。こちらは、放送分の動画に加えて、堀江軍団のコメントを収録したオリジナル動画も配信する。

 なお、これらの見放題独占配信コンテンツには、別途視聴終了日が設定されているので注意したい。

photophoto テレビドラマやバラエティ番組の見逃し独占配信も行う

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