iOS 9の広告ブロック機能、その影響を海外メディアから探る主戦場が変わったという意見も

» 2015年11月04日 20時30分 公開
[杉本純ITmedia]

 iOS 9のWebブラウザ「Safari」に搭載されて注目を集めた「コンテンツブロッカー」。この機能を利用し、Web上の広告を非表示にするアプリが続々と登場しています。iOS 9のリリースから1月半がたちましたが、その後関連業界ではどのような動きがあったのでしょうか。海外の記事から動向を探りました。

iOS 9にインストールした「コンテンツブロッカー」対応アプリ iOS 9にインストールした「コンテンツブロッカー」対応アプリ

裁判は広告ブロッカーに有利?

 広告業界は広告ブロッカーの流行に歯止めをかけるべく、各国で裁判を起こしています。が、現在のところ業界にとって状況は芳しくないようです。

 広告関連のニュースを専門に扱うAdvertisingAgeによると、欧州の巨大パブリッシャーである独Axel Springerは、コンテンツブロッカーを利用する「AdBlock Plus」アプリの開発元である独Eyeoを、自由競争と著作権に関する法律に違反していると独ケルンの地方裁判所に訴えました。

Legal War on Ad Blocking May Be a Loser, if Recent German Rulings Are Any Guide
While the U.S. Ad Industry Explores Legal Options, German Courts Are Deciding Cases

 しかし、AdBlock Plusの機能もEyeoが提供する「Acceptable Ads」(Eyeoが適切と認めた広告だけ表示する機能)も、競争を阻害したり市場を独占するものではない、として訴えは退けられました。Eyeoが訴えられたのはこれで3度目だそうですが、いずれも原告が敗訴しているそうです。

考えを改め出した広告業界

 オンライン広告の同業者団体であるIAB(Interactive Advertising Bureau)は、「広告ブロッカーは強盗のようなものだ」と当初猛反対していました。が、考えを改めざるをえなくなった模様。AdWeekは10月15日の記事で、IABが方針転換したことを報じています。

The IAB Pivots on Ad Blocking and Issues a Mea Culpa:
'We Messed Up' Debuts program for better digital promos By Christopher Heine

 IABの幹部であるスコット・カニンガム氏が「私たちはやりすぎた」とおわびの意を表し、よりユーザー本位の広告を提供するプログラムを開始したとのこと。軽く、暗号化され、ユーザーの広告選択をサポートし、プライバシーを尊重する広告を広めていくことで、離れてしまったユーザーの理解を得たいとしています。オンライン広告業界を代表する団体が行き過ぎを認めたことは大きな転換点だと思います。

動き出したパブリッシャー、広告主

 しかし、広告収入を得ているパブリッシャーはユーザー意識の変化を待っている猶予はありません。Wall Street Journalは、10月29日の記事でThe New York Timesが既に広告ブロッカー対抗策を練っていると報じています。

New York Times Looks for Ways to Fight Ad Blocking
‘We oppose ad blocking,’ says CEO Mark Thompson

 New York Timesは有料の購読者数が多いこともあり、広告ブロッカーによる損失はそこまで甚大ではないものの、今後の広告ブロッカーの広がりによっては技術的な対応策を講じるとしています。また、広告主側にも変化が起きていると同紙は報じています。

UNICEF Circumvents Ad Blocking With Call to Action
Users with blockers turned on get a message from U.N. organization

 例えば国際連合児童基金、UNICEF(ユニセフ)はオンライン広告で寄付を募っており、広告ブロッカーの登場は喜ばしいことではありません。そこでスウェーデンのUNICEFは広告代理店の協力を得て、ある実験をします。それはニュースサイトに広告ブロッカーを検知する仕組みを設け、検知されたら「子供の権利はブロックされるべきものではありません。子供たちの声を広めるお手伝いをしてください」と、UNICEFからのメッセージを表示するというもの。この実験の結果、通常のバナー広告よりも3倍のクリックレートを得られたそうです。「しかるべき状況で関係性の高いメッセージを提供すれば、人々は興味を持って聞いてくれると証明できたことは興味深い」とUNICEFの担当者は話しています。

主戦場が移っているという話も

広告業界 VS, 読者という切り口で語られることの多いこの問題ですが、その切り口は時代遅れという意見もあります。問題は「誰がコンテンツおよび付随する広告を仕切るか」に移っているようです。

 最たる例は、Facebookが導入を開始した「Instant Articles」でしょう。Instant Articlesの目的は、記事の読み込みを高速化すること。パブリッシャーは自社のサーバでなくFacebookのサーバに記事を置くことで、これまでより速く記事が表示できるようになります。しかしFacebookの真の狙いは、「コンテンツを囲い込み、Googleの手の届かない所に置くこと」でしょう。さらに、Instant Articlesで広告を表示したいパブリッシャーはFacebookが提供する広告配信システムを使用する必要があり、Facebookは広告も牛耳ることができます。Facebookはアプリで見る人が多いため、広告ブロッカーの影響を受けることもありません。

FacebookのInstant Articles Facebookの「Instant Articles」。対応した記事には雷マークが付く

 iPhone、iPadで多くのユーザーを抱えるAppleは、現在、米国、英国、オーストラリアで「News」というiOSアプリを提供しています。これはまさしくApple版のInstant Articlesで、コンテンツと広告を自社で囲い込もうという狙いが見えます。

 Googleもこれらの動きを黙って見ている訳ではありません。Googleは「AMP」(Accelerated Mobile Pages)というオープンソースのプロジェクトで、賛同者誰もが最適なモバイルエクスペリエンスを得られるようHTMLのフレームワークを提供しています。AMPの場合は広告配信はGoogle以外のものも受け付けますが、凝ったJavaScriptを受け入れないため、ユーザー解析の選択肢はGoogle Analyticsなど限定的なものしかありません。

 Fortuneは、10月8日の記事で、AMPプロジェクトはGoogle版Instant Articlesなのか、より公平なものになりうるのか? と関係者の意見を伝えています。その答えは出ていませんが、少なくともパブリッシャーにとって選択肢が増えることは良いことでしょう。

Google's AMP project: Better than Facebook, or just a different walled garden?

 1ユーザーとしては、インターネットがこれからも真にオープンであることを願いたいと思います。

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