プラスワン・マーケティングのMVNO事業(FREETEL)を楽天が買収し、大手キャリアのサブブランドが勢力を伸ばした影響でMVNOの成長が鈍るなど、MVNOにとって厳しいニュースを耳にする機会が増えた。
そんな中で、着実に契約数を伸ばしているのが、「TONE」を運営するトーンモバイルだ。通信サービス、端末、店舗、サポートを垂直統合で一手に担っているという点でFREETELと似ているが、トーンモバイルの石田宏樹社長によると、「間もなく黒字転換する」という。
薄利で利益を出すのが難しいMVNO業界で、トーンモバイルはなぜ好調を維持できているのか。石田氏にその秘密を聞いた。
―― 楽天のFREETEL買収が大きなニュースになっていますが、率直なご感想をお聞かせください。
石田氏 ISP市場では2000社ぐらいが参入して淘汰(とうた)されましたが、MVNOではMVNEがあって障壁が低いので、もっと参入が増えるんじゃないかと思っていました。一方、継続課金のサービスはコストが掛かるので、それを考慮した構造にならないと利益を上げられません。
特に大きいのがサポートコストと業務コスト。さらに端末×プラン数がサポートコストと運用コストに跳ね返ってくるので、回線コストだけとは全く違う構造になります。そういったところからして、(FREETELの事業は)難しいだろうなとは思っていました。
なぜかというと、弊社も自社で端末を作っているからです。端末を作ってからのメンテナンスやサポート、在庫などを考えると、相当大変だろうなと、同じ業種だからこそ思っていました。
―― トーンモバイルもFREETELと同じように、垂直統合で端末から料金、サポートまで一手に行っていますが、その中で利益を上げる工夫はどこにあるのでしょうか。
石田氏 利益のKPIは2つあります。1つは獲得コスト、もう1つは継続課金の中で事業運営ができるかです。それらがワークしている形になっているので、ある時点できれいな黒字転換をする形になります。今は継続課金だけで全体のコストを賄えるかという状態で、ほぼ黒転が見えています。
新規獲得のために掛かったコストを、24カ月のどこかで回収していくということです。通信業界ではありがちですが、MVNOの中で、月額課金だけで運用費をどこまで出せるかは難しいかもしれませんね
―― MVNOだけで黒字化をしたという話をなかなか聞きません。そのあたりは構造的な問題もあるのでしょうか。
石田氏 そうでしょうね。「何GB」のビジネスをやっても原価は一緒ですから、MVNOはエッジの効いたサービスを作れることが特徴だと思うんですね。エッジが価格だけに寄っている状態だと持たないですよね。
―― とはいえ月額1000円(税別)は安すぎるという印象はあります。端末代は別とはいえ、どうやって利益を上げているのでしょうか?
石田氏 そこは全部を言うわけにはいきませんが(笑)、例えば1000円においても、かなりの粗利率が取れるような構造になっています。IP電話も自社の仕組みを使っていますし、自社の方が安い。TONEではほぼ大半の人がIP電話だけで(通話)サービスを利用していますが、090のサービスを付けるとその原価がドコモさんに発生して、+700円ぐらい違うんです。
―― 他社のIP電話の仕組みを使ったり、端末のバリエーションをさらに増やしたりしてしまうと、余分なコストが発生してしまうと。
石田氏 そうですね。サポートやサービスについても、クラウドか端末で解決するのかが、垂直統合なので自由にできるわけですね。
トーンモバイルは自社でハードウェアを作っているので、独自のアプリマーケットがあるわけです。普通ならGoogle Playからしかインストールできないですが、トーンストアからインストールできるので、非常に細かく、いろいろなことができる構造になっています。
―― 単にASUSやHuaweiなどの端末を扱うだけでは、ここまでのカスタマイズはできないわけですね。
石田氏 できないです。そもそも、端末メーカーがそこまでのコントロールを絶対に許しません。あとはトラフィックのピークコントロールです。速度をシームレスに切り替えることで効率的に利用しています。
―― 端末は年に1機種ぐらいのペースですが、そこは変わらないのでしょうか。
石田氏 そうですね、だいたい年に1回ぐらいかなと思っています。ただ、まだ「TONE m15」も売れているんですよね(最新モデルは「TONE m17」)。
―― サポートも全部無料というのはすごいですよね。通常なら有料でもおかしくないと思いますが、それでも利益を上げられる構造ができていると。
石田氏 逆に、無料にした方がサポートコストは安くなるんですよ。
―― え、それはどういうことですか?
石田氏 例えば、遠隔サポートは通常だと有料じゃないですか。ただ、まず遠隔でサポートをすれば、サポート時間が短くなるんですよ。われわれはお子さんやシニアの方をターゲットにしていますから、電話で話してもどこが悪いのかが分からない。じゃあこちらからリモートで直しますよ、と許可をいただいて対応しています。そうすると、(電話サポートの)3分の1から4分の1の時間で解決できます。サポートセンターも早いですし、お客さんもすぐに直してもらえるので満足度が高い。
―― 店舗に端末を持っていくよりも早い。ある種、逆転の発想ですね。
石田氏 そうですね。他に、「置くだけサポート」だけでも月間4万件(実際に直された回数)が利用されています。ちょっと分からなくなると、皆さんかなり置いているという。そこで直せなかったら、コールセンターにかけられるよう番号を案内しています。
―― 月間4万件はけっこう多いようにも思えるのですが、端末の不具合も含まれるのでしょうか。
石田氏 例えばシニアの方ですと、間違って通知エリアを下げてしまい、データ通信をオフにしてしまうなどの誤操作が多いですね。そういうことが多かったので、置くだけサポートでモバイル通信が切れたことを発見できるようにしました。
―― 遠隔サポートはどれぐらい使われているのでしょうか。
石田氏 遠隔サポートは全体の4割ぐらいで、残り6割の半分くらいが、単純な操作説明です。LINEを入れたいんだけど、とか。主要アプリについてはお手伝いしています。
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