このように、ポジティブな話がある反面、ミドルレンジスマホを巡るネガティブな話もあります。
スマホの販売価格が高騰する中、通信料金を安くできるMVNOサービス(いわゆる「格安SIM」)の認知が進み、販売価格の安いミドルレンジスマホと組み合わせて「格安スマホ」として訴求する場面も増えています。
しかし、こんな話もあります。
「どうしてもiPhoneがいい。けれど高いから今は買わない」というお客さまも一定数います。
「なぜiPhoneじゃなければダメなのですか?」と尋ねてみると、「Androidはすぐに調子が悪くなる。安い機種ならなおさら信用できない」という答えが返ってくることが多いです。
あと、iPhoneを長く使っているユーザーが多すぎる、という問題もあります。アプリへの課金を始めとして、iPhoneやAppleに囲い込まれているユーザーに対して、Androidスマホを今更お勧めしても、機能や価格に納得できても買い替えは難しい面もあります。
簡単にいうと、Androidスマホに良い思い出がない、あるいはApple(iPhone)のエコシステムにがんじがらめになっているという理由で、どうしてもミドルレンジスマホを勧められないというケースもあるのです。
筆者自身も店員時代、国産Androidスマホの黎明(れいめい)期にお客さまから“不満”をぶつけられたことがあります。
「防水」「おサイフケータイ」といったiPhoneにはない機能を搭載し、鳴り物入りで登場した国産Androidスマホ。それに引かれて購入したお客さまも少なからずいます。しかし、メーカーがスマホ開発に不慣れだったせいか、少なからず不具合も見受けられました。
買って使ってみたら調子が悪い、何度も修理に出す羽目になった――こんなクレームを日々受けていたのです。
初期のAndroidスマホの不具合に悩まされたお客さまの多くは、次の買い替えにiPhoneを選んでいきました。ある意味でAndroidスマホが「自爆」したことによって、「iPhone指名買い」が増えたのです。
指名買いでiPhoneばかりが売れていくようになった結果、販売スタッフも当然iPhoneに“特化”する人が出てきます。結果としてAndroidスマホに対する知識の浅いスタッフが少なからず出てきました。
Androidスマホに対する知識も深いスタッフであれば、機種代金や月額料金(維持費)といった金銭面だけではなく、機能面でも不安要素はないことを漏らすことなく伝えられます。さまざまなな面でiPhoneにこだわるお客さまにも、お得さや安心感を伝えられるだけの“一押し”もできます。
しかし、その前提となる知識がないとなると、改正省令の施行後に端末販売台数を維持することが困難になる可能性もあります。ある販売店のスタッフは「豊富な知識を持つスタッフ育成が大きな課題になっている」といいます。
このような状況であることから、販売スタッフからはこんな声が聞かれます。
安価に販売できるiPhoneが出てくればいいのですが、それがなければ販売が落ち込んでいく気がして不安です……。
そろそろ2年落ちになる「iPhone 8」が売れ続けていることからも分かる通り、「iPhoneでないと嫌!」というお客さまは多いです。少し型落ちでも、安ければiPhoneを選ぶという人がまだまだ大多数だと思います。
iPhone一辺倒の販売が長く続いた結果、安価なスマホを販売の軸に据えることに対し、不安の声は少なからずあり、その不安を払拭(ふっしょく)する手段として安価なiPhoneを望む声は大きいです。
新しい省令が施行されてからしばらくの間は、売る側(店舗スタッフ)と買う側(来店客)との間で希望と現実がマッチしない日々が続くものと思われます。
キャリアショップも家電量販店も併売店も経験した元ケータイショップ店員。携帯電話が好き過ぎた結果、10年近く売り続けていましたが、今はライター業とWeb製作をやっています。
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