5Gが創出する新ビジネス

5Gのキラーアプリを考えても意味がない? 企業は5Gとどう向き合うべきか5Gビジネスの神髄に迫る(1/2 ページ)

» 2020年01月17日 06時00分 公開
[田中聡ITmedia]

 2020年春に日本で「5G」の商用サービスが開始するが、「結局5Gで何が変わるのか」「5Gをどうビジネスに生かすのか」といった、漠然とした疑問や不安を抱いている人も多いだろう。そのヒントを探るべく、2019年12月23日に企(くわだて)が主催したイベント「5Gでビジネスはどう変わるのか」に潜入してきた。

5Gと4Gは別物

クロサカタツヤ クロサカタツヤ氏

 企の代表であるクロサカタツヤ氏は、情報通信事業のコンサルタントや総務省の政策委員を務めており、通信業界に造詣が深い。直近では、イベントと同名タイトルの著書「5Gでビジネスはどう変わるのか」を執筆しており、5Gが普及、発展していく見通しを、4つの時期に分けて解説している。

 クロサカ氏は、著書で「4Gと5Gは別物である」ことが、最も伝えたかったことだという。「テレコム業界の人は『4Gと5Gは続いているんでしょ』と思いがちで、ワナに陥ることがある。3GPPで標準化されている規格そのものは、4Gの検討で煮詰められて、その延長線上に5Gがある部分もある。NSA(ノンスタンドアロン)では、4Gネットワークの上に5Gをかぶせる形で作るので、4Gと5Gは近いと考える人もいると思う」と同氏。しかし将来的には5Gのみでネットワークを構築するSA(スタンドアロン)に移行し、そうなると、4Gとは全く別物になる。

 最も違うのが周波数で、日本で5Gサービス開始当初は、Sub-6(6GHz未満)と呼ばれる3.7GHz帯と4.5GHz帯、ミリ波の28GHz帯を使う。周波数帯が高くなるほど電波の直進性も高くなって回り込みにくくなることから、「ものすごく使い勝手が悪い」「基地局の打ち方を変えていかないといけない」とクロサカ氏は言う。

5G クロサカ氏の著書「5Gでビジネスはどう変わるか」
5G 5Gは4Gの延長線上にある部分もあるが、本質は別物だという

5Gは“指圧”なのかもしれない

 また、「5Gのビジネスはスマートフォンの利用を必ずしも意識しておらず、車やセンサーなども意識している。スマホを前提とした通信産業の話で5Gを読み解こうとしてもあまり意味がないと感じている」とクロサカ氏は話す。

 著書で次に言いたかったこととして、クロサカ氏は「5Gは指圧なのかもしれないという結論に至った」と独特の表現をする。

5G 「5G指圧論」を提唱するクロサカ氏。ユーザーが求める用途にデータを活用できるかが重要になるというわけだ

 「5Gの本質はデータビジネスだと思っている。アナログとして存在している自分がデータに変換されて、デジタル空間の中で何らかの価値を生んだり還元されたりする。デジタルとアナログの境目がなくなるという世界に近づいていく。デジタルテクノロジーでセンシングするというのは何か気持ち悪いが、『健康を守ってくれる』という文脈を捉え直すとウエルカムになる」

 クロサカ氏はこの状況を指圧に例える。「指圧で、つぼを不規則にデタラメに押すと痛い。肩が凝っているのは首じゃないですか? という具合に、最適な部位をほぐしてくれると非常にありがたく、幸せな気持ちになる。この気持ち良さが重要だ」という。つまり、いたずらにデータを使うのではなく、ユーザーが求める用途に使うことで、メリットを享受できるというわけだ。

 気持ちいいサービスほど必要とされるのは明白だが、その必要とされる単位が、ユーザーから、家個人やスマートサプライチェーンと大規模になるのも5Gの特徴だ。しかしこの気持ちいいサービスを作る環境は、「従来のMNOのパラダイムだけでは足りなくなる」とクロサカ氏はみる。既存のインフラ目線のロジックからは離れないといけない。キャリアも総務省もこのままでは何もしてくれない。社会から受け入れられるかを考えるという、哲学的な部分が極めて重要だ」と訴えた。

競合がいないからといって悪いUIを放置するのはダメ

 イベントの第2部では、「ソフトウェア・ファースト あらゆるビジネスを一変させる最強戦略」の著者である、Tably代表取締役 Technology Enablerの及川卓也氏がゲストとして登場し、「ソフトウェア」の観点からクロサカ氏と5G時代のプロダクト開発について議論した。

及川卓也 及川卓也氏

 「UXデザインの視点で、日本企業のプロダクト開発に足りないところ」というテーマについては、クロサカ氏が、イベントの開催場所であるヤフーのコワーキングスペース「LODGE(ロッジ)」の登録方法が4ステップほどあり、使いにくいとばっさり。「ヤフーも発展途上で、どう改善していけばいいかという最中だと思うが、自分が体験して、こう改善できるのでは、と思い巡らせてブラッシュアップしていく基礎体力とサイクルが不足している」と指摘する。

 及川氏は「日本は変なところで寛容度が高い」と言う。iOSからAndroidに乗り換えたという及川氏は、とある交通系サービスのAndroidアプリを使ったところ、UI(ユーザーインタフェース)のひどさに驚いたという。

 「僕以外の人はあまり文句を言っていないが、ダメだと言わないといけない。社会の目線を上げて、社会全体のレベルを変えていかないといけない。企業は使えているからよしと考えてはいけない」と提言する。なぜ使い勝手が悪いまま放置されているのか? 「言っては悪いけど、競合がいないので、イヤでも使わないといけないと、体験をよくしなくてもいい、となる。社会、国で大きな機会損失が起きて、日本のマーケット自身の魅力を失わせている」と危機感を募らせた。

体験する側は「5Gかどうか」は気にしない

 「5Gでフルコネクテッドの時代が到来したとき、UX設計で重要になることは」というテーマでは「全部やること」とクロサカ氏は言う。その一例として、米国のホテルチェーンが、ホテルの外でのエンタメサービス提供に乗り出すこと、MVNOとして通信サービスを始めることに言及。「1社だけではできないかもしれないが、エコシステムやアライアンスによってサービスを提供できる。横串に刺して囲い込んでいくという時代じゃない」と同氏。

 及川氏は、テクノロジーがなくても、工夫次第で、体験価値を向上させることができるという。その一例としてお化け屋敷を挙げる。お化け屋敷の入口は、出口の近くにあることが多いが、これは、お化け屋敷から出てきた人たちが泣き叫ぶ姿を見て、これから入る人たちにドキドキしてもらうという狙いがある。

 5Gサービスが始まったからといって、体験する側は「5Gかどうか」は気にしない。5Gありきで考えるのは本末転倒で、「何を体験したいかが先にないといけない」と及川氏は言う。

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