実は現在、5Gが大きな注目を集めているのはスマートフォンなどコンシューマー向けの分野ではないと言っても過言ではない。5Gに最も熱い視線を送っているのは企業や自治体なのだ。
その理由はIoT(Intenet of Things、モノのインターネット)にある。5Gの標準化がなされていたのは、実はあらゆるモノがインターネットにつながるというIoTの概念が大きな注目を集めていたタイミングでもあり、それが5Gに多数同時接続などの特徴を盛り込む要因にもなっている。
当初は個人向けのスマート家電に関する取り組みが盛り上がったIoTだが、その後、農業などの第1次産業や、工場などの第2次産業など、従来デジタル化が難しかった産業のデジタルトランスフォーメーションを推し進める存在として、企業などから大きな関心を集める技術となっていった。
そしてそのIoTを支えるネットワークの本命として注目されるようになったのが、5Gだ。なぜなら5Gは産業のデジタル化に欠かせない、多数のセンサー機器を同時に接続する多数同時接続だけでなく、4K・8Kの高精細映像の伝送などに活用できる高速大容量通信、そしてずれのない遠隔操作の実現に役立つ超低遅延といった特徴を、1つのネットワークで同時に実現できるからだ。
そうしたことから、5Gは都市や産業を支え、新たなビジネス機会を創出する、国家にとっても重要なネットワークであるという認識が広まり、5Gの早期実現を求める国が増えた。それゆえ、もともと2019年の商用サービス開始を予定していた韓国だけでなく、多くの国が前倒しで5Gの商用サービスを要望するようになったことで、2019年に5Gを開始する国が急増したわけだ。
一方、日本は東京五輪という大義名分があり、5Gの商用化に向けた準備もそれに合わせて進めてきたことから、2020年の商用サービス開始という方針を変更しなかったことから、諸外国より遅れる結果となったのである。だがもう1つ、日本が5Gの商用サービスを急がなかった要因には、5Gのキラーとなる、つまり普及を大幅に促進するデバイスやサービスがまだ見つかっていないことも挙げられる。
4Gの時代は、スマートフォンというキラーデバイスが先に存在し、スマートフォンの通信速度を速くしたいニーズが強かったからこそ急速に普及が進んだ。だが3Gの時代を振り返ると、逆にキラーが存在しなかったことからなかなか普及が進まず、携帯電話会社が利用促進に苦労したという経緯がある。
そして5Gの動向を見ていると、新しい技術やサービスの実現に向けた取り組みのアピールは多くなされているものの、スマートフォンのように爆発的に普及する可能性があるものはまだ見られず、ある意味「夢と希望が膨らんでいる」状況にも見える。明確なキラーが見つからず、理想が大きく膨らんでいた3Gのサービス開始前と非常に近いのだ。
つまり日本では5Gのネットワーク整備を急ぐよりも、5Gの普及につながるであろうデバイスやサービス、ソリューションの開発に注力することを選択したといえる。国内の携帯電話各社の動向を振り返ると、NTTドコモは2017年に「5Gトライアルサイト」、2018年からは「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」を展開。同年にはKDDIも5G・IoT時代のビジネス開発拠点として「KDDI DIGITAL GATE」を開設するなど、さまざまなパートナー企業と5Gのサービス創出に向けた取り組みを推し進めていることが分かる。
無論、商用サービスの遅れはインフラ整備の遅れ、ひいては5Gを活用したサービス提供の遅れにもつながってくる。そこで、日本政府は5Gのネットワーク整備に関する税制優遇措置を検討している他、場所を限定した5Gネットワークを構築できる「ローカル5G」に関しては、他国に先駆けて2019年12月より電波免許割り当てを進めるなど、後れを挽回するための取り組みも怠っていないようだ。
現時点で、インフラ整備の出遅れが日本の5Gにおける国際競争力の遅れに直結するかは、まだ見極められない。ただし競争力を落とさないためには、国と携帯電話会社、そして5Gに関連するさまざまな企業が、積極的に関心を持って取り組みを継続することが欠かせないということだけは、確かだといえる。
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