ソラコムがコンシューマー向けeSIMサービスを提供する狙いは? 玉川社長に聞くMVNOに聞く(1/3 ページ)

» 2020年04月03日 11時15分 公開
[石野純也ITmedia]

 AmazonのクラウドサービスであるAWSをコアネットワークに使い、IoT向けの通信を提供してきたソラコムが、コンシューマー向けにeSIMのサービスを開始した。サービス名称は「Soracom Mobile」で、eSIMは、海外渡航者向けのもの。もともと同社が展開していたグローバル向けの「SORACOM IoT SIM」をベースにしつつ、まずは欧州や米国などの地域で利用できる通信サービスを提供する。iPhone用にアプリを提供しており、プランの購入からプロファイルの発行までを、端末内で完結できるのが、このサービスの特徴だ。

 料金は渡航する地域によって異なるが、最安の欧州の場合、1GBで6.99ドル(約778円)。有効期間が30日間で、長期の旅行や出張にも利用できるのが特徴だ。大手キャリアの国際ローミング費用も値下がりしているため、一概には安いといえなくなってきてはいるものの、現地のSIMカードを購入するまでの“つなぎ”として使って節約は可能。原則としてデータローミングができないMVNOのユーザーにとっても、いいサービスといえる。

Soracom Mobile 海外で利用できるeSIMサービス「Soracom Mobile」

 ソラコムにとって、コンシューマー向けのサービスを提供するのが、これが初となる。では、IoT向けの回線を提供してきた同社が、なぜこのタイミングでコンシューマー向けのサービスを提供するのか。その狙いやサービスの具体的な特徴を、同社の玉川憲社長が語った。

Soracom Mobile ソラコムの玉川憲社長

決してコンシューマー向けだけをやりたいわけではない

―― 最初に、コンシューマー向けのeSIMサービスをソラコムが始めた理由を教えてください。

玉川氏 もともと、われわれはIoTのプラットフォーマーとしてここまでやってきました。SIMカードという観点では、2015年9月に、ドコモのMVNOとしてスタートしています。同時に2015年から、グローバルのコネクティビティについても動いていて、2016年にはSIMカードを発売しています。2017年には広義のeSIMということで、チップ型のSIMカードを出しています。基板の中に埋め込んで製造業に納めると、回線契約をどの時点でするのかという問題が起きます。エンドユーザーが買った瞬間からオンにするテクノロジーが、どうしても必要でした。

 2017年にeSIMを出してからは、翻訳機の「POCKETALK(ポケトーク)」や家族型ロボットの「LOVOT(ラボット)」、通信できる電球の「ハローライト」などに採用されています。産業系だと、工場のラインを管理しているアスコという会社が、液晶管理のために後付けで遠隔監視できる機器に(ソラコムの)eSIMを採用しています。産業用としてのeSIMは、かなり前からやっていたんですね。出荷しているSIMはeSIMの方が多いぐらいになっています。

 そういったバックグラウンドがあった中で、昨年(2019年)の「SORACOM Discovery」(ソラコムが開催するパートナー向けのイベント)で、eSIMのプロファイルをコンシューマー向けの端末に書き込む技術を発表しました。QRコードはすぐに出すことができたので、iPhoneに入れられるということで、テクノロジープレビューという形でデモを行っています。その流れが、今回につながっています。

 位置付けという意味で言うと、コンシューマー向けは確かに初めてですが、決してコンシューマーだけをやりたいわけではありませんし、われわれ自身がコンシューマー向けを独占したいとも思っていません。eSIMのマーケットは、今後広がることが見えています。2025年には20億台という数値を発表している調査会社もありますが、これからは、チップ型のSIMのみならず、SoCに統合されたiSIMのようなものも出てきます。マーケットがどんどん広がっていくときに、率先して先行事例を作っておくと、それを見たお客さまが「うちならこんなことができる」となり、ワクワク感が伝わります。プラットフォームを進化させ、いろいろな連携を取りたいと考えています。

―― その先にB2B2Cのビジネスがあるということですね。どのような業種が考えられるのでしょうか。

玉川氏 例えば、MaaSのアプリやエアラインのアプリを持っているところと連携すると、いろいろな展開が考えられます。コンシューマー向けは初めてのチャレンジですが、アーリーアダプターやトラベラーというのは、ソラコムの既存の顧客層とも一致しているため、B2B的なアプローチとも相性がいいと思います。実際に、ニュースが出てから、こういうことができないかというお問合せもいただいています。

KDDIグループ全体でeSIMには興味がある

―― タイミング的に、新型コロナウイルスの影響もあったかと思いますが、反響はいかがでしたか。

玉川氏 タイミングとして、確かに影響はあったと思いますが、ファーストペンギンとして、ユーザーエクスペリエンス(UX)をどのぐらい洗練させることができるのかを見せたかったので、その目的は達成しています。新型コロナウイルスがなぜこんなに広がっているかというと、グローバルで人の動きが激しいからで、(裏を返せばニーズはあるので)Soracom Mobile自体は粛々とUXを洗練させていきたいと考えています。

 今はApple IDやApple Payと連携していますが、対応するクレジットカードも増やしていきますし、今は米国、欧州、オセアニアだけですが、国、地域も拡大していきます。日本でも使いたいという声も挙がっています。まだオリンピックがどうなるかは分かりませんが、優先順位を付けながらやっていきます(※インタビューは、東京オリンピック・パラリンピックの延期発表前に実施された)。

―― 日本というのは、インバウンド向けということですか。

玉川氏 はい。声としていただいているので、検討はしたいと考えています。

―― “ギガ不足”になった日本のユーザーが使えてもいいと思います。

玉川氏 やってもいいとは思っています。ただ、ソラコムはコンシューマー向けに、いわゆる格安SIMを出す事業者ではありません。そこが得意かといわれると、必ずしもそうではない。ユーザーからも、サポートなど、われわれが得意としないところが求められる可能性があります。われわれ自身でやるのか、パートナーとやるのかはよく検討していきます。

―― なるほど。パートナーでサポートに強いという点では、親会社(KDDI)が向いている気もしますが(笑)。

玉川氏 もちろん、親会社なので、発表前に協議はさせていただきました。eSIMには、KDDIグループ全体として興味があります。その中でも、ソラコムはテクノロジーの最先端を走る会社なので、まずやってみようということで始めています。今後は、KDDIやKDDIのグループ会社と話をして、いろいろなアプローチが取れると考えています。

 とはいえ、今のマーケットは、石野さんが言われるように“おじさん”ばかりなので……。

―― いわゆる“eSIMおじさん”ですね。

玉川氏 はい。主回線は主回線として持ちつつ、さらに何らかの形で副回線を入れ、“板”もいっぱい持っている(笑)。そんな人が使っています。これをマジョリティーにどう広げていくかも重要です。そのためには、まず端末が増えなければなりません。廉価版の端末でどうサポートするのかという話もありますし、Androidでどこまで対応していくのかもまだまだ見えていません。先ほどのお話ししたように、eSIM端末が増えていくのは確かなのですが、どのぐらいの勢いで増えるのかは注視しながらになると思います。

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