だが実は、MVNOがコンシューマー向けの格安モバイル通信を提供する上では現在の枠組みでも十分なことが多く、VMNOの仕組みはオーバースペックともいえる。にもかかわらず、MVNO側がVMNOの枠組みを設けて自由度を大幅に高めようとしているのには、ビジネス領域をコンシューマー向けから、法人向けの高付加価値サービスへと広げたい狙いがあるからだ。
5Gではモバイル通信の法人活用が進むといわれているが、スマートフォンが主体のコンシューマー向けサービスとは異なり、法人向けはIoTや遠隔操作、映像伝送など求められるニーズの幅が広く、用途に応じカスタマイズしたネットワークを要求する企業が増えると考えられる。それゆえMVNOが法人向けのビジネスを開拓する上では、従来のフルMVNOよりいっそう高い自由度を必要としており、そのためには自ら仮想のコアネットワークを持ち、カスタマイズできる余地を広げる必要があったわけだ。
だがVMNOの実現には課題も少なからずある。中でも大きな課題の1つは、キャリア側がVMNOの実現に抵抗を示す可能性があることだ。無線設備を持つキャリアからしてみれば、VMNOの仕組みは、膨大なコストをかけて整備した自社の無線設備を、仮想コアネットワークだけを用意する他社に安価に利用されてしまう、いわば“いいとこ取り”の仕組みともいえるからだ。
しかもキャリアは、一時期MVNOのサービスに多くの顧客を奪われた経験を持つだけに、ライバルが増えることにつながる他社のコアネットワーク接続には否定的な考えを示す可能性が少なからずあるだろう。MVNOのレイヤー2接続に関しても、2007年に日本通信がNTTドコモとの交渉が不調に終わったことで当時の総務大臣の裁定を仰ぎ、ようやく実現するに至ったという経緯があるだけに、キャリアの抵抗によって実現に時間がかかる可能性があるかもしれない。
そしてもう1つは、この枠組みが実現したとしても、実際にどれだけの企業が参入できるのか未知数だということ。VMNOとなるには自ら仮想コアネットワークを構築・運用するための投資コストが必要なので、企業体力の弱いMVNOからしてみれば参入ハードルはかなり高いものになると予想されるからだ。
実際、MVNOの自由度が高まるとして大きな期待が持たれていたフルMVNOも、高額な設備投資に参入をためらうMVNOが相次ぎ、参入を実現したのはIIJのほか、丸紅とNTTコミュニケーションズくらいという状況だ。枠組みを作っても参入企業が増えなければ意味がないだけに、フルMVNOの反省を生かし参入ハードルを下げ利用を促進する取り組みも同時に求められることになるだろう。
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