AppleがApp Storeの手数料を“半額”に下げる狙い アプリ開発者に与える影響は?:石野純也のMobile Eye(1/2 ページ)

» 2020年11月21日 06時00分 公開
[石野純也,ITmedia]

 Appleは、11月19日に「App Store Small Business Program」を発表した。2021年1月から、手数料を引いた分の収益が100万ドル(約1億400万円)に満たない小規模なデベロッパーに対し、App Storeでの販売手数料を現行の30%から半減となる15%に引き下げる方針だ。Appleによると、「大多数のデベロッパーが恩恵を受けられる」といい、アプリ業界へのインパクトは大きくなりそうだ。複数のデベロッパーに話を聞きながら、今後の展開を占った。

Apple Appleは、売り上げ規模が小さいデベロッパー向けに、手数料を改定する

小規模デベロッパーの手数料を半額に、実際にどれだけ支払免除になるのか

 App Storeでアプリを販売すると、売り上げの30%を手数料としてAppleに納める必要がある。“Apple税”などとやゆされることもあるが、Appleは、App Storeでのアプリの審査や運営、課金などを肩代わりする対価と位置付けている。この手数料は、App Storeがスタートした2008年に導入され、現在に至っている。当初はアプリ1本を購入して終わりという買い切り型だけしか存在しなかったが、アプリ内課金やサブスクリプションなど、12年の間に、さまざまな仕組みが導入されてきた。

 ちなみに、30%という数値はあくまで有料アプリのみ適用される。また、サブスクリプション型で継続課金している場合、2年目以降の支払いに対しては、手数料が15%になる。今回のApp Store Small Business Programが適用されると、手数料を除いた収益が100万ドル以下のデベロッパーや、新規参入したデベロッパーの手数料が、一律でこの水準まで引き下げられる。

Apple App Store Small Business Programでは、収益が100万ドル以下のデベロッパーの手数料が、15%に引き下げられる

 1年の途中で収益が100万ドルを超えた場合、その時点から手数料が30%に戻り、翌年はApp Store Small Business Programの対象から外れる。例えば、2021年8月に100万ドルを超えた場合は、2021年9月以降と2022年の手数料が30%に引き上げられる。仮に2022年の収益が何らかの事情で100万ドルに達しない場合、2023年は再び15%に戻る格好だ。

 単純計算だと、基準ギリギリとなる100万ドルの収益を出していたデベロッパーの場合、売上高は約143万ドル(約1億4800万円)。これまでは、その内の30%にあたる約43万ドル(約4500万円)を手数料として支払っていたが、App Store Small Business Program適用後は、約22万ドル(約2300万円)の支払いで済む。実に2000万円以上の手数料が節約になるというわけだ。

Apple 詳細は12月上旬に明かされるというが、前年度の収益をベースにしつつ、100万ドルを超えた時点で手数料は30%に戻るという

 実際に、この恩恵を受けられるデベロッパーからは、歓喜の声も聞こえてくる。位置情報のログを可視化するツールの「1 log」のデザイナーを務める掬矢吉水氏は、App Store Small Programの発表を知り、「非常にうれしかった」と語る。1 logはツール系のアプリで、サブスクリプション型の課金を導入しているが、その特性上、広くあまねく使って一気に売り上げを作るようなアプリではない。「爆発的ではなく、息の長いアプリを作っている開発者にとって、非常にいい発表だった」(同)という。

Apple 掬矢氏が開発に携わる「1 log」。位置情報を記録し、そのログを参照できるのが特徴。SF風のデザインで、見た目もスタイリッシュだ

 収益が100万ドルを超え、App Store Small Programの対象にならない会社に所属する別のデベロッパーも、結果として「多様なサービスが増えて、業界全体が活性化するのでは」とAppleの取り組みには期待を寄せる。このデベロッパーの会社には、直接的な恩恵はないものの、「キャッシュが1割以上増えるのは(対象の小規模な会社にとって)大きい」と評価する。

デベロッパーに与える影響は? アプリのトレンドが変化する可能性も

 Appleは、発表で「デジタル商取引とアプリケーションを通じたイノベーションをさらに生み出し、新たな雇用を支援し、小規模でインディーズとして活動するデベロッパーが継続的にAppleユーザーのために素晴らしいソフトウェアを提供していくのを支援します」と語っている。実際に、小規模なデベロッパーの手数料が引き下げられるとどうなるのか。

 先の100万ドルを超える大手に所属するデベロッパーは、「インディやスターアップの活性化につながる」と語る。同氏によると、ベンチャーキャピタルからの期待も大きいというという。一方で、「複数のサービスを抱えていると、年額約1億円は容易に超えてしまうライン」(同)。既存の大手デベロッパー、「特にゲーム系大手には無風」(同)だという。掬矢氏も、「100万ドルだと、最大で10人ぐらいのチームまでで、それを超えるところには影響がないのではないか」と語る。

Apple ゲーム系アプリを開発する大手企業には、影響がなさそうだ

 直接課金に頼らない収益を上げるデベロッパーにも、影響が大きそうだ。100万ドルの基準は、あくまで課金による売り上げだからだ。アプリ内に広告を入れ、主な収益をそちらに依存しつつ、広告を消去する代わりとしてアプリ内課金を導入している場合にも、App Store Small Business Programの恩恵を受けやすい。大手に所属するデベロッパーは、「スマホゲームは最近、大規模なタイトルより、広告モデルのカジュアルゲームが活性化している。その流れを促進する可能性もある」と指摘する。

Apple 広告で収益を稼ぐカジュアルゲームには、プラスになるかもしれない

 既存のアプリに、新機能が追加されるといった効果も期待できる。掬矢氏は「より細かいところまで、手を回すことができる」と語る。「例えば、最近だとウィジェットに対応するだけでも、工数が1つ増えてしまう。1 logも、iPad版やApple Watch版はやれていないが、その可能性も出てくる」(同)という。浮いたコストを開発の投資に回すことで、アプリのクオリティーを上げたり、展開するデバイスを広げたりできるのも、手数料値下げのメリットと言えそうだ。

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