では実際のところ、どのような企業からの引き合いが多いのだろうか。吉田氏はローカル5Gに関する問い合わせが多い業種として、1つにはスマートファクトリーに関連する製造業、そしてもう1つに自治体を挙げている。
そうした企業や自治体などは、5Gのネットワークを自社でコントロールできることや、セキュリティ、安定性、パフォーマンスなどへの期待からローカル5Gに高い期待を寄せているという。だが一方で、ローカル5Gのネットワークがその企業のネットワークインフラやシステムなどと融合させなければ有効活用はできない。
例えば企業が従来用いている社員のIDと、ローカル5Gで使用するIDを別々に運用していては効率が悪く、「ローカル5Gを構築したからといって、接続できれば終わりというわけではない」と吉田氏は話す。そこで企業のインフラとローカル5Gをいかに接続し、連携するかという部分を重視する企業がシスコシステムズに問い合わせをしてくることが多く、ローカル5Gそのものではなく、その使い方やWi-Fiとのすみ分けなどに関するソリューションへの問い合わせも多いとのことだ。
シスコシステムズが5Gショーケースやそれに類する取り組みを展開するのは、世界では日本が初めてとのことで、海外からも高い関心が寄せられているという。国内での5Gに関する取り組みといえば、「世界から大きく遅れている」という話ばかり聞こえてくるが、山田氏は「ビジネスユーザー向けであれば、みなユースケースを探している状況は同じ」と話し、コンシューマー向けはともかく、ビジネス向け5G活用のスタートラインは大きく変わらない状況にあると話す。
吉田氏も5Gのビジネス活用が「日本ほど盛り上がっている国はないのではないか」と話し、製造業を中心に5Gのビジネス活用に対する興味関心が非常に強く、5Gが力を発揮したときのビジネスの期待値が大きいと話す。同社は通信事業者向けのネットワーク機器で高いシェアを持つという確固たる事業基盤を生かし、5Gの取り組みを支援することが、日本の産業支援につながるとともに、同社の事業領域を拡大できることにもつながると考える。そこで、5Gショーケースを日本で最初に展開するという判断に至ったようだ。
5Gショーケースやそれに類する取り組みは、欧米やアジアなどでもニーズがあることから今後他の国にも展開していく予定だという。だが吉田氏は日本のICTインフラを「世界に先駆けて最も高度で先進的なインフラに変えたいという思いが非常に強い」と話し、5Gショーケースの活用によって日本から世界にイノベーションを発信していきたいと強い意欲を示している。
シスコシステムズは、ネットワークインフラに強みを持つ一方、無線通信技術を直接持っているわけではない。だが、裏を返せばそのことがオープンな立ち位置を確保でき、ローカル5Gやキャリアの5Gを問わず提案や技術開発が進められることから大きな強みにもなりそうだ。
5Gは無線通信の部分に関心が寄せられがちだが、ビジネス活用で重要なのは5Gの特性をうまく活用した実際のソリューションだ。そうした意味でも通信事業者や企業システムなどに強みを持つシスコシステムズの立ち位置と、5Gショーケースの方向性は多くの企業に“刺さる”といえそうだ。吉田氏は2021年の春頃に第2弾の次のステップとなる発表も考えていると話しているだけに、今後の内容拡充も期待される。
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