もっともFCNTにとって、ローカル5Gのデバイスは参入の足掛かりにすぎず、最終的なゴールはデバイスだけでなく、ネットワークの構築やソリューションも含めワンストップで提供することだという。同社は富士通の携帯電話事業が独立した企業であり、デバイスの技術は持ち合わせているが、基地局の整備や企業向けソリューションなどの開発・提供実績があるわけではない。なぜ、デバイス以外の領域にも進出しようとしているのだろうか。
山田氏は「今の時点ではエッジデバイスの数が少ないので、ビジネスがそれなりに成立するが、市場が立ち上がるとコンシューマー市場と同様、エッジデバイスの数が増え価格も下落すると思う」と話す。コンシューマー向けのスマートフォン市場は既にレッドオーシャン化して価格競争も激しい状況にあり、FCNTもそうした市場環境に苦しんできた。それだけにローカル5Gでは、あくまでデバイスを起点としながらも、ソリューション提供まで一貫して提供できる体制を用意することで、より安定したビジネスに育てたいと考えがあるようだ。
そこで強みになるのは「無線のエンジニアが多数在籍し、彼らのノウハウや知見が生かせる」ことだと山田氏は話す。同社ではエッジデバイスの無線技術に実績を持つことを生かし、ネットワーク整備時にもその安定性や品質の確保ができる信頼性を強みとして、サービス提供を進めていきたいという。
ただ一方で、同社はネットワーク機器などを手掛けているわけではないので、そうした部分はパートナー企業との連携で環境整備を進めたいと山田氏は話す。実際、FCNTは2020年12月8日、そうしたパートナー企業の1つであるネットワーク機器メーカーのAPRESIA Systemsのローカル5Gネットワークと、ローカル5G対応スマートデバイス間の相互接続に成功したと発表。同社の機器を活用した環境整備も視野に入れている。
ローカル5Gのソリューションをワンストップで提供するという企業は、同社と関係が深い富士通をはじめとして、多くの企業が目指しているものであり、今後急速な競争激化が予想される。FCNTは富士通のローカル5Gパートナーシッププログラムに名前を連ねている他、「もともとグループ会社であり、開発や営業などの部門で密接な連携ができる状態にある」(山田氏)など、密な連携をしている。しかしワンストップのソリューション提供という部分だけを見れば、ライバルにもなりかねない。
それゆえ山田氏は、富士通などの大手企業とは「ある程度ターゲットとする顧客をずらしていくことが必要」と回答。ローカル5Gに参入する企業は大企業や自治体にフォーカスするところが多いが、同社ではリーズナブルな価格でのサービス提供で、中小企業向けの市場開拓に注力することを考えているようだ。
現在は実証実験段階ということもあって、ローカル5Gへの取り組みを進める企業は大企業がほとんどだが、山田氏は実際の商用利用が進むタイミングは2023年となり、同社のソリューションビジネスが本格化するのもその頃からとみているという。ただ、それでも中小企業の市場開拓に向けては、大企業ではなくてもローカル5Gを活用できる何らかのアピールが必要と考えているようだ。
そのために同社が推し進めているのが、同社のスマートフォンを製造しているジャパン・イー・エム・ソリューションズの工場内にローカル5G環境を構築すること。同社では他社のように5Gのオープンラボを設立する予定はないそうだが、同工場でのローカル5Gの活用で実績を作ることで、そのアピールにつなげていきたい考えのようだ。
一方で、先に触れた富士通との関係と同じように、エッジデバイスを提供するベンダーの1つとして、他社と連携することにも力を入れていきたいと山田氏は話す。特定のビジネスに執着するのではなく、同社が持つ資産を生かしてローカル5G市場の中で幅広い領域に対応していくというのが、FCNTのローカル5G戦略の幹といえそうだ。
FCNTはスマートフォンメーカーからローカル5Gに参入するという、ある意味で異色の立ち位置を持つ企業でもある。それだけに、数の少なさが指摘されてきたローカル5Gのエッジデバイスをいち早く提供するなど、その立ち位置をうまく活用することで独自性を発揮し、幅広い企業と提携することで、市場での存在感を高められる可能性は十分ある。
ただ黎明(れいめい)期が過ぎ、ローカル5Gの市場が本格的に立ち上がった後は、やはりワンストップソリューションという部分ではより大きな強みを持つ通信事業者や大手SIerとの競争にさらされることが懸念材料にもなる。そうした時期までに、デバイスを主体としながらもいかに市場での明確なポジショニングができるかが、成功には求められるといえそうだ。
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