店舗を変えるモバイル決済

中小店舗が抱えるキャッシュレス決済の課題 “手数料問題”は解決できるか?モバイル決済で店舗改革(1/2 ページ)

» 2021年03月23日 06時00分 公開
[小山安博ITmedia]

 SquareとMMD研究所が共同でキャッシュレス決済の消費者調査を2回に渡って実施。その結果からは、中小や個人店舗が抱えるキャッシュレス化の課題が浮き彫りになっている。調査を実施したSquareに、その詳細を聞いた。

 この調査は、2020年11月に消費者向け、2021年1月に実店舗オーナー向けに実施されたもので、キャッシュレス決済の利用動向を聞くとともに、実店舗オーナーにはキャッシュレス決済導入意向などを尋ねていた。

 消費者向けの調査では、現金の利用は86.2%と多いものの、キャッシュレス決済もクレジットカードが65.6%、コード決済が32.9%などとなっており、消費者の体感でもキャッシュレス決済が普及しているとの声が増えている。キャッシュレス決済を利用している人の場合、「支払いが現金のみ」という理由でその店舗への来店を取りやめた経験がある、と答えた人が3割を超えた。

キャッシュレス決済 利用している支払い方法。直近3カ月で利用した支払い手段の1位は現金で、2位はクレジットカードの65.6%

 これに対して、店舗オーナーでもキャッシュレス決済利用は77%に達していたが、 「支払いが現金のみという理由で来店を取りやめたことがある」が20.4%など、キャッシュレス決済非対応に対する消費者との認識にやや差があった。

キャッシュレス決済 現金のみの店で来店を諦めたことがあるかどうかの設問に対する、一般消費者と店舗オーナーの比較

 キャッシュレス決済を利用しているオーナーの店舗でのキャッシュレス決済導入率は、クレジットカードが47.8%と最も多く、次いでコード決済が39.8%、電子マネーが39.2%となっていた。キャッシュレス決済未利用者の店舗の場合、コード決済が9.3%と最も高く、次いでクレジットカードが9.0%にとどまっていた。

 キャッシュレス決済を使わないオーナーほど、自分の店舗でクレジットカードの導入はせずに、「取りあえず決済手数料が無料(もしくは低額な)コード決済を導入してみた」という店が多そうだ。実際、キャッシュレス決済未導入の店舗オーナーの44.4%が、初期導入費用や手数料が高いという理由で導入を見送っていた。

キャッシュレス決済 キャッシュレス決済を利用しているオーナーの店舗の方がクレジットカードの導入率が高い
キャッシュレス決済 普段キャッシュレス決済を利用していないオーナーの店舗の場合、カード決済の導入率が低く、コード決済がわずかに多い

「手数料問題」がキャッシュレス決済の障壁に

 こうした「手数料問題」がキャッシュレス決済の障壁になっており、Squareは「日本の手数料は欧米やオーストラリアと比べて高い」と指摘する。Squareの決済手数料は日本では3.25%だが、オーストラリアや英国では2%以下だという。この手数料の違いは、カード発行会社(イシュア)に支払うインターチェンジフィーなどが影響しており、日本は海外に比べても高額という点がある。

 加えて決済手数料では、業種業態や規模ごとに決済手数料が異なるという不透明な面もある。今回の店舗オーナーへの調査でも、決済手数料の高さに加えて、決済手数料の仕組みが複雑、分かりにくいといった声も多かった。

 クレジットカードの場合、決済手数料を決める際に導入店舗の回収リスクも考慮する例があり、規模が小さいほどリスクが高く見積もられることもある。SquareのようなmPOSと呼ばれるソリューションでは、通常は業種業態などを問わず一律の手数料となっており、その点での透明性は高い。Squareの場合、加盟店審査に加えて普段の取引を一定のアルゴリズムでモニタリングし、リスクを分析して低減。加盟店開拓も積極的に店舗を訪問する、といった方式ではなく、オンラインで登録してもらうことでコストを削減している。

 ただ、手数料が一定のSquareでも、その手数料の中身に関しては分かりづらい点もあったとして、Squareでは2020年1月からグローバルで順次決済手数料の内訳を説明するサイトを立ち上げている。

キャッシュレス決済 Squareが公開している手数料の内訳。多くをインターチェンジフィーや国際ブランドのライセンスフィーが占めている

 Squareでは、仮に5000円の商品がクレジットカードで支払われた場合、手数料は3.25%で163円になり、その多くはインターチェンジフィー(カード発行会社のイシュアに支払う手数料)や国際ブランド向けのネットワークフィーとなる。詳細な数字は明らかにされていないが、経済産業省が「一定の仮定に基づくモデルケース」をもとに分析した結果(※PDF)では、インターチェンジフィーは手数料3.25%のうちの2.3%であり、手数料の中で約71%を占めることになる。これはSquareのインターチェンジフィーが71%という意味ではなく、あくまで仮定に基づくモデルケースだが、Squareの提示した図表を見てもそれに近しい割合ではありそうだ。

キャッシュレス決済 経済産業省が推計した加盟店手数料の内訳。2.3%がインターチェンジフィーとなっているが、それ以外にもさまざまなコストが発生している

日本の特殊事情も影響している

 こうしたインターチェンジフィーの数字は、日本の特殊事情も影響しているだろう。比較的リボ払いなどの手数料収入が大きい欧米に比べて、日本ではそうした分割払いが避けられる傾向が強い。それに反して消費者からはポイント付与が求められる傾向が強く、イシュアにとっては収入が低い割に費用が高いという状況で、コスト全体をカバーするためにはインターチェンジフィーが下げられない、という一面がある。

 イシュアへのインターチェンジフィーに加え、加盟店業務のアクワイアラにとっては1回の決済ごとに発生する銀行振込の手数料負担もばかにならない。イシュアもアクワイアラもCAFISなどの決済ネットワーク利用料も発生する。

 他にもイシュアとアクワイアラが一体化したオンアス取引が多い、イシュアと銀行が異なるといった点も、比較的海外とは異なる日本の特徴だ。そうしたもろもろの特徴が、日本の決済手数料の高止まりにつながっている可能性は長く指摘されており、構造的に解決が難しい問題ではある。その中で、銀行間ネットワークの全銀システムの手数料やCAFISの値下げの動きもあって、手数料低減に向けた取り組みも進んできている。

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