もう1つの差は、iPhoneならではの技術的な要因が関係する。キャリアは単にiPhoneを販売しているだけのようも見えるが、水面下では、ネットワーク関連でのすり合わせを行っている。自社の持つ周波数への対応はもちろんのこと、緊急速報や完全定額の料金プランに加入しているかどうかでコンテンツを出し分ける5Gエクスペリエンスなど、さまざまな形でキャリアとは密接に連携。iPhone 12シリーズの発表会では、5G対応にあたって協力した、世界各国のキャリア名が明かされている。
iPhoneを直接販売するキャリアと密接に連携すればするほど、そうでないキャリアのネットワークでは不具合も起こる。例えば、現時点ではiPhone 12シリーズに楽天モバイルのSIMカードを挿しても、ネットワーク種別に5Gの選択肢が表示されず、LTE止まりになっている。APNの自動設定ができなかったり、auのローミング網ではSMSが利用できなかったりするのも、楽天モバイルのネットワークにiPhoneが完全準拠していないためだ。
楽天モバイルがiPhoneを販売するにあたり、ネットワーク面での連携を図れば、こうした不便さを解消できる。例えば、iPhone 12シリーズには、楽天モバイル網とau網の自動切り替え機能が実装される他、現状では「利用不可」となっているiPhone XやiPhone 8などの旧モデルも動作するようになる。さらに、APNの設定は自動になり、iPhone 12シリーズでは5G設定が開放される見込みだ。iPhoneを正式に取り扱うことは、販売の強化につながるだけでなく、SIMロックフリーiPhoneや他社で購入したiPhoneの受け入れにも有利になるというわけだ。
このタイミングで楽天モバイルがiPhoneを取り扱えるようになった背景はあずかり知る立場にはないが、契約者数が一定のボリュームを超え、Appleから販売先の1つとして有力視されるようになったことがうかがえる。楽天モバイルの累計契約申し込み数は、4月8日時点で390万を突破。もともと展開していたドコモ網、au網のMVNOを含めると、その数は450万を超える。2月時点で契約者数600万に迫っていたY!mobileが最新のiPhone 12や12 miniを扱っていることを踏まえると、楽天モバイルもiPhoneを扱うのに十分な規模に達したように見える。
Appleにとっても、iPhoneを取り扱うキャリアが増えることは、販売面でプラスになる。急速に契約数を伸ばす楽天モバイルにiPhoneがないことは、機会損失にもつながる。ミドルレンジのAndroidスマートフォンが勢いをつける中、販路を拡大しない手はない。楽天モバイルでのiPhone販売は、両社の思惑が合致した結果といえそうだ。
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