店舗を変えるモバイル決済

ドコモに聞く「d払い」の店舗向け戦略 カギを握る「決済手数料」と「メルペイ」モバイル決済で店舗改革(1/2 ページ)

» 2021年12月09日 06時00分 公開
[小山安博ITmedia]

 QRコード決済で首位を走るPayPayが、それまで期間限定で無料化していた決済手数料の有料化を開始した。有料化に伴って一部の加盟店が解約する動きも出ているが、競合はどう対抗するのか。NTTドコモのd払いの戦略について、同社ウォレットビジネス部長の田原務氏に話を聞いた。

d払い ウォレットビジネス部長の田原務氏(写真は2020年4月撮影)

手数料無料化を終了しても大きな影響はなし

 ドコモは、これまでもd払いにおける加盟店向け施策として手数料無料を実施してきたが、やや変則的だった。加盟時期に応じて無料期間を設けるという方式で、例えば2021年3月までに加盟した場合は同年4月末で無料期間が終了。さらに4月以降に加盟した場合は9月まで決済手数料を無料いう形になっている。d払いでも、PayPayと同じタイミングで決済手数料を恒常的に有料化する方針だったが、その方針を変更し、9月1日以降に加盟した場合は13カ月間、手数料を無料にする施策を打ち出した。

d払い ドコモは、加盟店向けに「d払い(コード決済)」の決済手数料2.6%を無料にするキャンペーンを、2021年9月1日から2022年9月30日まで実施している

 「加盟店のキャッシュレスを推進するという点で判断をした」と田原氏。PayPay対抗というよりは、コロナ禍でキャッシュレス化を図りたいという店舗が増えており、そうした加盟店に対して手数料無料によって支援したいという考えだという。

 d払い導入を検討しつつ手数料などの問題からためらっている店舗に向けた施策ということで、既存加盟店の無料施策を延長することはないという。無料期間の後半に加盟した店舗だと、短期間で有料化してしまうため不公平感があるが、「導入を迷う加盟店をサポートする趣旨」の施策ということで、田原氏は理解を求める。

 d払いの特徴は「dポイントと表裏一体のサービス」(田原氏)という点にある。dポイントは利用が多く、年間2000億ポイント以上と「結構な数がd払いを通じて使われている」(同氏)。これによって客単価や来店頻度が増えるといった効果が出るとして、田原氏は決済手数料が掛かるとしても店舗側にも理解してもらえる範囲だと主張する。

 4月末で手数料無料期間が終了した店舗のうち、加盟店契約を終了した店舗もあるが、「数字的に大きくなるほどではない」というのが田原氏の判断。同社はメルペイと協業して加盟店を共通化しているが、そういった店舗での手数料は2.6%。クレジットカードよりは安価ではあるが、それでも有料化したPayPayよりは高く、4月末の無料期間終了で多少の影響は想定していたというが、「そこまで影響は出ていない」(田原氏)そうだ。

 こうした加盟店の動向は注目されるが、単純に手数料だけで決済手段の変更をする店舗は一部に限られるとみられ、継続する加盟店に対するサービスをいかに充実させるかが重要になってくる。

 ドコモでは、個別にメッセージ配信や顧客分析が可能になるスーパー販促プログラムやクーポン配布の機能を提供。有償サービスだが、「加盟店の集客や販促のニーズは高い」と田原氏。当初、16のチェーン店が参加し、「徐々に成果が出てきている」という。特に、しばらく来店していない休眠ユーザーにリーチできるクーポン配布や、顧客分析によって来店してほしい人に絞ってクーポンを配布するといった機能が好評だという。

 8月には、70社ほどの加盟店が参加する説明会を開催したところ、半数以上が導入に前向きだったという。今後はサービスをしっかり磨いていくことで、収益化できる事業として育てていきたい考えだ。

d払い拡大の背景に「メルペイ」あり

 d払いは、2021年第1四半期で取扱高が2660億円に達し、前年同期比で74%増。iDとd払いをあわせた決済可能箇所は194万カ所から352万カ所に増加し、こちらは81%の増加だった。

 急拡大の背景の1つとして、メルペイとの共同展開が挙げられ、田原氏も「成長のけん引役となった」と話す。この取り組みは、両社によって日常利用で使われる業種を中心に開拓を広げようというもので、スーパー、飲食店、クリーニング店といった「利用回数につながる店舗を中心に開拓してきた」(田原氏)という。他にも、自販機やオフィスグリコのような無人店舗でも導入が進んだそうだ。

 開拓したのは「中小個店中心で、(店がQRコードを掲示する)MPMがほとんど」(田原氏)とのことで、メルペイと協業したことで、これまでd払いが弱かった小規模店の開拓が進んだことは成果といえる。

d払い
d払い メルペイの加盟店で、d払いとの共通QRコードを展開している

 もともとd払いは、2020年上期までMPMがなく、加盟店開拓が「PayPayなどと比べても十分ではなかった」と田原氏。そのため、1つのQRコードで複数のコード決済に対応するクラウドペイを使っていたが、メルペイと統一コードを開発したことで、中小の加盟店開拓が加速。加盟店審査を即日行えるようになったことなど、「両社で挽回しようと加盟店開拓の戦略を練って、いろいろ改善した」という。

 田原氏によれば、中小個店での加盟店開拓は「それなりにコストがかかる」。実際、PayPayも多額の営業コストをかけて加盟店開拓に取り組んだ結果、トップに躍り出ており、必要なコストではある。ドコモとメルペイの協業では、「共同で開拓することでコストをセーブしながら開拓をする」という形になっており、単独での開拓よりも効率的であることがメリットだ。

 ドコモは全国に支社・支店があり、そうした既存のリソースを活用して、大手だけではなく中小個店を獲得できるように取り組んでいるという。地方自治体と連携したキャッシュレス施策に各社も注力しているが、d払いでも「各自治体の景気刺激策にも、しっかりとd払いは参画して、そこで加盟店の数を増やしていきたい」との狙いも話す。

 加盟店開拓では、ドコモショップを運営する代理店も活用。代理店が持つ地域のつながりなどを生かした加盟店開拓に協力をしてもらっているそうだ。代理店には手数料を支払うためコストは掛かるが、自力での開拓よりも効果的な開拓になりそうだ。

 こうした背景もあるため、加盟店開拓に関しては「ドコモ側の比重が大きい」(田原氏)という。メルペイ側も加盟店開拓チャネルはあり、定期的に加盟店開拓のミーティングを行い、重複しないようにしているそうだ。

 共同開拓したd払い加盟店の「サービスの提供主体」自体はメルペイになる。複数の決済サービスに対応したmPOSサービスのように、メルペイが運営する決済サービスでd払いも利用できる、という形になっている。

 なお、こうした両社の協業は、CPM(ユーザーがQRコードを表示して店舗が読み込む)方式では行っておらず、MPM(ユーザーが店頭のQRコードを読み込む)方式での協業だ。ただし、「加盟店数は圧倒的にMPMが多い」(田原氏)という。逆に、取扱高では、コンビニエンスストアやドラッグストアなどの大手チェーンが含まれるCPMが多いそうだ。

 メルペイとの連携は、メルカリも加えたさらに広範囲な提携だ。これによってメルカリがdポイントの加盟店となり、既にメルカリIDとdポイントクラブアカウントは800万近くが連携している。メルカリは2000万近いアクティブユーザーがいて、d払いの会員数は3900万、dポイントクラブ会員は8500万に達しており、ID連携によってお互いの会員データの活用も見込める。「例えばフィンテック系のサービスなど、新たなビジネスができるのではないか」と田原氏は期待する。

 メルカリからは「dアカウント連携によって取扱高と単価の向上が見られる」という評価を得ている。dポイントがたまった人が、メルカリの購入に使うという例が増え、単価や購買回数が増加しているという。

 ドコモは、通信分野でも「若者にリーチできていない」点が従来の課題だったが、若者の利用が多いメルカリにおいて、新たにdアカウントを作成してdポイントをためるようになった人を「かなりの数、確認している」(田原氏)。これまでリーチできていなかったユーザー層への広がりに貢献しているようだ。また、d払いとメルペイアプリの残高連携に関しては「検討しているところ」とのこと。

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