毎年恒例となったQualcommの「Snapdragon Tech Summit」が2021年も11月30日と12月1日(米国時間)の2日間にわたって開催された。Snapdragon新製品や同社の最新戦略が発表される同イベントだが、2021年も「Snapdragon 8 Gen 1」をはじめ、複数の製品や技術がアピールされている。一方で、通信やモバイルを中心としていた同社はそのありようを少しずつ変化させているようにも思える。そのあたりをチェックしていきたい。
モバイル端末向けに各種チップから通信モジュールまでを包含したSoC(System on a Chip)として「Snapdragon」の名称で製品が初めてリリースされたのが2007年のこと。それから14年が経過するが、その歴史はほぼスマートフォンとともにあった。現在につながるスマートフォンの“形”を初めて提案したのは2007年に発売されたiPhoneだが、「iPhoneではないスマートフォン」を支えてきたのが他ならぬSnapdragonだからだ。故にSnapdragonが進化すれば、それに応じてスマートフォンの機能も向上し、そこでのフィードバックは再びSnapdragonの機能強化の方向性を決めることになる。そうしたサイクルを繰り返す中で今日のモバイル文化が形作られ、利用シーンが広がっていった。
もちろん、常々新しいサービスが登場し、日々利用スタイルも変化しているが、人々がモバイル端末に求める機能はある程度固定化されつつあるように思う。故にQualcommのSnapdragon新製品に関するアピールも、単純にパフォーマンスの数字上の進化を示すだけでなく、「この用途でどのようなことが可能になったのか」を事例として示す例が増えてきた。
これを象徴するのが米Qualcomm Technologies MCIビジネス担当ゼネラルマネジャー兼SVPのAlex Katouzian氏が示したスライドだ。以前までならCPUやGPUといったSoCの機能ブロックごとに行っていた説明を、あえて「Experience」という形で用途ごとに区分けしてアピールすることで、よりユーザー視点でそのメリットを理解しやすくなる。これは、汎用(はんよう)性を求められるPCに対し、よりユーザーの身近にあるスマートフォンは、いかに各ユーザーのニーズを満たせるかが重要であることが分かる。
またSnapdragonという名称だけを聞くと、業界の人はまず「モバイル端末向けSoC」を想像するかもしれない。だが「Snapdragon」のブランドを冠した製品群は現在では多岐にわたっており、PC向けのSoCからウェアラブル、組み込みシステム(車載やネットワークカメラなど)、ホーム/スマートオーディオ、XR、Bluetoothオーディオ(ワイヤレスイヤフォンなど)と幅広い。つまりSnapdragonを搭載するデバイスは既にモバイルの領域を飛び出し、その上で動作するアプリケーションやサービスが重要となりつつある。
Qualcommでは「Metaverse(メタバース)」のキーワードで表現していたが、デジタルの世界ではアプリケーションがその中核であり、ハードウェアはそこにアクセスするための窓口的な存在にすぎないという考え方がある。窓口でのアクセスに必要な技術や製品を一通りそろえ、そこで活動するメーカーやベンダーを下支えすることが重要というわけだ。今後10年や20年先のSnapdragonを考えるうえで、同社がどこを目指しているのかがこのイメージから何となく見えてくる。
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