こうした端末が増えた背景にあるのは、2019年10月の電気通信事業法改正だ。ガイドラインによって端末の割引が2万2000円までと規定されたためで、結果としてハイエンドモデルの売れ行きに急ブレーキがかかった。かつてのような「0円端末」がなくなったのも、そのためだ。端末割引分を原資に、通信料金自体は値下がりしているものの、高額な端末を割賦で購入すると、それが帳消しになってしまう。一括で購入するには初期費用が高すぎるということで、割安な端末が求められていた。
本体価格が2万円台の端末が増えたのは、この割引上限を基準にしたためだろう。端末自体の価格が2万円台であれば、2万2000円の上限いっぱいまで割引を適用すれば、1万円未満の価格を実現できる。最も安価なモデルは、0円に近づけることも可能だ。実際、キャリアショップや家電量販店の店頭では、割引適用後にほぼ無料で手に入る端末が訴求されている場面を目にする。
ミドルレンジモデルも割引を適用すれば割安にはなるが、一括1円などと比べるとインパクトは薄くなる。さらにキャリアの販売施策により、ミドルレンジモデルの価格が上がりつつあることもエントリーモデルが求められる要因の1つだろう。例えば、ドコモの販売する「AQUOS sense6」は、ドコモオンラインショップでの価格が5万7024円。同モデルのau版や楽天モバイル版は4万円程度で販売されているため、一概には言えないが、ドコモ版は残価設定方式の「いつでもカエドキプログラム」を前提にした価格になっていることがうかがえる。
いつでもカエドキプログラム開始以降のミドルレンジモデルはまだ数が少ない。そのため、今後も同様の価格設定が続くかは不透明だが、残価設定型方式の場合、2年後の買い取り価格をある程度高くしようとすると、本体価格が上がってしまいがちだ。ハイエンドモデルではその傾向が顕著に出ているが、ミドルレンジモデルの本体価格が上がれば、ますますエントリーモデルが拡大する余地は広がってくる。
もっとも、いくら価格が安くても、動作が遅くて使い物にならないようだとユーザーにそっぽを向かれてしまうが、エントリー端末の性能が底上げされてきたことも大きい。例えば、先に挙げたAQUOS wishは、プロセッサにSnapdragon 480を採用しており、ブラウザやSNSアプリ、決済アプリなどの基本的なアプリであれば、ある程度スムーズに動く。5Gに対応しているため、通信も高速だ。制度面だけでなく、端末の性能面でもエントリーモデルが普及する条件が整ってきたといえる。
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