5Gが創出する新ビジネス

ソニーグループが“個人向けローカル5G”に参入する狙い 通常の5Gサービスとは何が違う?5Gビジネスの神髄に迫る(1/2 ページ)

» 2022年01月31日 16時51分 公開
[佐野正弘ITmedia]

 子会社のソニーワイヤレスコミュニケーションズを設立し、2021年11月にローカル5Gへの参入を打ち出したソニーグループ。そのローカル5Gを企業向けではなく、集合住宅向けにブロードバンド回線を提供するFWA(Fixed Wireless Access:固定無線アクセス)に類するサービス「NURO Wireless 5G」を、2022年春に提供するとしたことで大きな注目を集めている。

 傘下に固定ブロードバンドの「NURO」や、MVNOとして展開するモバイル通信サービス「NUROモバイル」などを持つソニーネットワークコミュニケーションズを有しながら、なぜ別会社を立ち上げてローカル5Gを活用したサービスの提供に至ったのか。そしてコンシューマー向けにローカル5Gを活用する狙いはどこにあるのか。ソニーワイヤレスコミュニケーションズの代表取締役社長である渡辺潤氏に話を聞いた。

渡辺潤 ソニーワイヤレスコミュニケーションズ代表取締役社長の渡辺潤氏(提供:ソニーワイヤレスコミュニケーションズ)

ネットワーク自由度を重視、サービス主体のFWAに

 ソニーグループがローカル5Gの活用に踏み切った背景には何があるのか。渡辺氏はそもそもNURO Wireless 5Gが、ローカル5Gという通信を主体として企画されたサービスとしてではないと話している。

 NURO Wireless 5Gではソニーグループが強みを持つエンターテインメントを中心に据えたサービスを提供する狙いがあるそうで、その一部として通信、ひいてはローカル5Gを用いる形になったとのこと。あえてソニーワイヤレスコミュニケーションズを設立したのも、通信寄りのソニーネットワークコミュニケーションズとは違ったサービスを提供する狙いが大きいという。

NURO Wireless 5G 2021年11月29日に実施されたNURO Wireless 5Gの発表会では、人気バンド「いきものがかり」の水野良樹氏が登壇、エンタテインメント系サービスを重視した内容であることをうかがわせていた(提供:ソニーワイヤレスコミュニケーションズ)

 現時点でNURO Wireless 5Gのサービス内容はあまり明らかにされていないが、FWAとしてサービスの一部に無線通信を活用するのであれば、NUROモバイルと同様にMVNOとして回線を借りてサービス提供するという方法も考えられたはずだ。それにもかかわらず、自らローカル5Gのインフラを敷設するという手間がかかる手段を選んだのはなぜか。渡辺氏は「パブリックな5Gの限界は基地局の距離が遠いこと」がその理由だと答えている。

 NURO Wireless 5Gはエンタテインメントなどのコンテンツを重視したサービスになるとみられるが、リッチなコンテンツを遅延なく提供するには、よりユーザーに近い場所に基地局を置く必要があるという。実際、渡辺氏はローカル5Gの活用により、5Gの低遅延を実現する上で欠かせない技術の1つ「MEC」(マルチアクセス・エッジ・コンピューティング)が使えることが大きいと話しており、エンタテインメントを軸としたユーザー体験を考慮し、ローカル5Gの活用が適しているとの判断に至ったようだ。

 またNURO Wireless 5Gは当初、5G専用の機器で構成されたスタンドアロン(SA)運用が可能な4.8〜4.9GHz帯を用いて運用される。それゆえ、MECだけでなく、ネットワークを仮想的に分割して用途に応じたネットワークを提供できる「ネットワークスライシング」なども活用でき、他社回線を借りるよりもはるかにネットワークの自由度が高いこともメリットに働いてくるだろう。

 一般的にFWAのサービスを提供する上では通信速度の重要性が高いことから、4Gとの一体運用が必要でコストがかかるが、より帯域幅が広く、高速通信が可能なローカル5G向けの28GHz帯を活用した方がメリットが大きいように思える。同社が当初そちらを選ばなかったのはコストの問題だけでなく、5Gのネットワーク性能を存分に生かしたサービスを提供したいがためといえそうだ。

 そうしたこだわりは端末側からも見て取ることができる。NURO Wireless 5Gは対象となる集合住宅に、専用のホームルーターを設置することで利用できる仕組みだが、このルーターは外部の企業が開発した製品にロゴを付けたものというわけではなく、自社開発したものになるという。

NURO Wireless 5G NURO Wireless 5Gで提供されるホームルーターは自社開発のもので、通常のホームルーターにはない機能なども搭載されているという(提供:ソニーワイヤレスコミュニケーションズ)

 それゆえ、通常のホームルーターにはない機能なども備わっているとのこと。サービス開始前ということもあってその具体的な機能は明らかにされなかったが、ソニーグループが傘下にソニーを持ち、スマートフォンの「Xperia」を手掛けるなど無線デバイス開発の実績もあるからこそ、デバイス側に独自機能を搭載しての差異化ができたといえる。

無線の知識や基地局コストなどの課題はどう解消した?

 NURO Wireless 5Gのサービス提供に当たっては、基本的に対象となる集合住宅の1つ1つに基地局やアンテナを設置していく形になるとのこと。設置の許諾はデベロッパーと協力して進めるケースと、自社単独で進めるケースがあるとのことで、新築の場合は所有者がいないこともあって前者が主となり、既築の場合は所有者の在り方によって方法が変わってくるという。

 基地局やアンテナの設置は、各戸に電波が入るよう建物の形状を確認しながらシミュレーションをした上で進めていくとのこと。ただ建物によってはアンテナを取り付けられる場所が限定されるケースも考えられ、そうした場合は基地局を増やしたり、中継したりするなど何らかの工夫が求められるようだ。

NURO Wireless 5G NURO Wireless 5Gで用いられるアンテナ。2021年10月からは一部エリアで試験サービスも提供しており、そうした場所では既に基地局などの設置が進められているようだ(提供:ソニーワイヤレスコミュニケーションズ)

 ただパブリックな5Gとは違って、NURO Wireless 5Gでは建物に近い場所に基地局を設置して電波を射出することになる。そのため、パブリックな5Gのように距離や障害物に関連した問題などは起きにくく、気候条件や反射など、環境による変動要因もあまり考慮する必要がない分整備はしやすいと渡辺氏は話している。

 だが、ソニーグループはこれまで携帯電話の基地局を手掛けたことはなく、無線通信インフラの整備という部分でも課題があるようにも思える。しかし同社ではグループ内でスマートフォンを開発しているのに加え、LPWA(Low Power Wide Area)に類するIoT向けの無線通信規格「ELTRES」も手掛けていることから、グループ内にあるそれら無線通信の知見や人材を集約し、サービス開発やネットワーク整備に生かしているとのことだ。

 ローカル5Gの場合、低価格で小規模ネットワーク向けの基地局やコアネットワークなどの設備がまだ充実していないことも、利用を阻む大きな要因となっている。この点について渡辺氏は具体的な回答は控えるとしながらも、基地局の低コスト化は「相当やり込んでいる」と回答。ホームルーター同様、メーカーであることの知見を生かして低コスト化に取り組んでいるようだ。

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