5Gが創出する新ビジネス

2021年の5G動向を振り返る エリアと端末は急拡大するも、恩恵は少なかった?5Gビジネスの神髄に迫る(1/2 ページ)

» 2021年12月29日 08時00分 公開
[佐野正弘ITmedia]

 コロナ禍で散々なスタートを切った日本の5G。2021年はエリア整備が急速に進み、対応スマートフォンも増えたことで5Gが利用しやすい環境は急速に整いつつある。一方で過渡期ならではの課題や問題も発生しており、個人・企業ともに利活用についてはまだ模索が続いている段階、というのが正直なところだ。2021年の5Gを振り返ってみたい。

エリア、端末ともに5G対応が急拡大

 2020年に商用サービスが始まったものの肝心の基地局整備がほとんど進まず、新型コロナウイルスの感染拡大でアピールの場となるはずだった東京五輪が延期されるなど、最悪のスタートを切ってしまった日本の5G。ではそれから1年が経過した2021年、5Gを取り巻く環境はどう変化したのだろうか。

 まずエリアについてだが、2021年はようやく5Gのエリアカバーが本格的に進んだといえる。2020年時点の5Gエリアは正直なところ、Wi-Fiスポット並みの“点”にすぎず、特定の場所に行かなければ5Gに接続できない状況だったが、2021年、特に後半頃からは大手3社が5Gのエリアを急拡大させ、ようやく“面”で5Gが使えるようになってきた印象だ。

 そこには3社が5Gのネットワーク整備にようやく本腰を入れ始めたことが大きいが、もう1つ影響しているのが4G周波数帯の転用である。KDDIとソフトバンクは700MHz帯や3.5GHz帯といった4G向けの周波数帯を5G向けに転用、5G向けの周波数帯より低い帯域の電波を活用することで、短期間のうちに広範囲のエリア整備を進めるに至ったわけだ。

5G KDDIのサービスエリアマップより(2021年12月26日時点)。ピンクが5G用周波数帯、オレンジが4G転用帯域での5Gエリアだが、4G帯域の転用で東京では都心部を主体に面でのカバーが進んでいることが分かる

 一方で5Gを利用する端末に関しても、2021年は対応が急速に進んだ年となった。2020年時点で5G対応スマートフォンは高額なハイエンドモデルが大半を占めていたが、2021年は前半からミドルクラスのスマートフォンも5G対応が急速に進み、5Gが利用できるユーザーの拡大に大きく貢献することとなった。

 さらに2021年2月には、ソフトバンクが販売したXiaomi製の「Redmi Note 9T」が、5G対応ながら2万円台という安さで大きな話題を呼んだ。それ以降、特に2021年後半からは国内外のメーカーが相次いでローエンドの5Gスマートフォンを投入するようになっており、現在では新しいスマートフォンに買い替えればほぼ5Gに対応できる環境が整ったといえる。

5G ソフトバンクが販売したXiaomiの「Redmi Note 9T」は、5Gに加えFeliCaに対応するなどのカスタマイズを施しながら、税別で2万円を切る価格で衝撃を与えた

限定的だった5Gの恩恵、「パケ止まり」に不満も

 ただ、実際にユーザーが5Gの恩恵を受けているのか? といえば必ずしもそうとはいえない。理由の1つは転用された4Gの周波数帯は帯域幅、要はデータが通る道幅が狭いので、5Gになったからといって通信速度が速くなるわけではないこと。それゆえ、NTTドコモは5Gに割り当てられた周波数帯だけを用いた「瞬速5G」にこだわってエリア整備を進めており、その分2社よりも5Gの展開スピードは遅い。

5G NTTドコモは高速大容量通信に適した5G向けの周波数帯のみを用いて5Gのエリア整備を進めており、その分エリア展開速度は他社より遅い

 そしてもう1つはコロナ禍の影響である。携帯各社は現状、都市部の生活導線、要は人が移動する場所を主体に5Gのエリアカバーを進めており、例えばKDDIは2021年、東京の山手線や大阪の大阪環状線など、主要鉄道路線や商業施設などに重点を置いて5Gの基地局設置を進めていた。

5G KDDIは鉄道路線や商業施設などに重点を置いて5Gのネットワーク整備を進める方針を示していた

 だが2021年はコロナ禍で、特に東京などの都市部では非常に長い期間にわたって緊急事態宣言が続き、外出自粛が求められた。人々が移動する場所を重視してエリア整備が進められているにもかかわらず、整備があまり進んでいない住宅地に人々がとどまる状況が続いたことも、5Gの恩恵が限定的だった要因といえる。

 一方、5G利用者の拡大に伴い急浮上したのが「パケ止まり」問題だ。これは5Gのエリア端付近で通信すると、5Gのアンテナが立っているにもかかわらず通信ができなくなるという事象。携帯各社は5Gの高速通信をユーザーに体験してもらうべく、5Gに優先的に接続するようネットワークをチューニングしていたのだが、電波が弱いエリアの端ではそれがかえってあだとなり、パケ止まりの多発へとつながったわけだ。

5G 5Gの利用拡大とともに問題視されるようになった「パケ止まり」。5Gのエリア端付近で通信ができなくなる事象で、5Gの整備途上だからこそ起きた問題といえる

 パケ止まりは現在の5Gが4Gの設備と一体で運用するノンスタンドアロン運用であり、なおかつエリア整備が完全ではないなど、発展途上であるがゆえに起きた問題でもある。現在携帯各社は5Gの優先度合いを下げるなどネットワークのチューニングを変えることで対処しているが、本質的な解決には5Gのエリア整備を現在の4G並みに広げること、そして5Gの設備のみでネットワークを構成した、4Gに依存しないスタンドアロン運用への移行が求められるだろう。

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