ドコモは、7月から社内カンパニー制を採用し、コンテンツや金融・決済、データビジネスなどの「非通信領域」を担うスマートライフ領域の組織を刷新した。事業の機動性を高め、収益に対する責任を明確化するのがこの仕組みの特徴。料金値下げなどで通信事業の収益が落ち込む中、ドコモは非通信の事業を成長のドライバーにしていく方針を掲げており、現在、約1兆円の売上高を25年度には2兆円に倍増させる計画だ。
そのスマートライフカンパニーを率いるのが、6月にドコモの副社長に就任した前田義晃氏だ。前田氏はリクルートからの転職組で、iモード時代からさまざまなサービスを手掛けてきた。スマートフォン時代にも「d」の冠を付けたコンテンツサービスや、会員基盤となるdポイント、さらには決済サービスのd払いなどを担当している。「コアなアセット(資産)をプラットフォーム化し、それが社会基盤になるところまで持っていけたらいい」と意気込みを語る前田氏だが、具体的にどんな手を打っていくのか。同氏にその戦略を聞いた。
2015年12月に導入したdポイントは、「もうすぐに7年目」を迎える。前田氏は「フィーチャーフォンのiモードがスマートフォンになる流れの中、何を軸に進めていったらいいかということで行きついたのがdポイントだった」と当時を振り返る。dポイント導入以降、ドコモは「回線契約だけでなく、それ以外の方にも顧客基盤を広げていく戦略を展開していきた」。dポイントを採用するパートナーのビジネスチャンスも拡大し、金融・決済やマーケティングソリューションといった分野を伸ばしている。
現在、その会員基盤は「6月末の数字で9040万ぐらい。回線契約者数はほぼ5000万なので、プラス4000万という形で積み上がってきた」。ポイントプログラムを運営している会社ごとに開示情報が異なるため、横並びで比較するのは難しいが、前田氏は「リアルな加盟店というところで見ると、恐らくわれわれが最大になっている」と自信をのぞかせる。7年かけ、ポイントプログラムにひも付いた顧客基盤は大きく成長した格好だ。
そこに集まる膨大なデータを生かし、ドコモが伸ばしているのがマーケティングソリューションだ。「データやAIを活用しながら、各パートナーにマーケティングソリューションを提供していく。現時点で言うと、ポイントや決済のトランザクションとマーケティングソリューションは両輪で回しているコアなアセットになっている」と語る。2021年度は、この事業の売り上げが900億円程度まで拡大。「22年度は、この数字を4桁億円に拡大したい」と意気込む。
dポイントを有効活用している加盟店の中には、最大で6割程度の顧客にポイントを付与しているところもあるという。これは、「60%程度(の顧客情報を)可視化できる」ことにつながる。「どういうボリュームで、どういう方がどのぐらいの頻度で来て、休眠しているのか、脱落しているのか、それとも新規なのかをセグメント化できる。頻繁に来ている方にコンテンツや情報をお出しして、より足しげく通ってもらえるようにしたり、通っていない方に来てもらえるようにしたりするのに、どうインセンティブを出したらいいのかをテストすることもできる」
そのためには、ユーザーにdポイントをためてもらう必要がある。各種調査結果を見ると、共通ポイントは複数のサービスを併用するのが一般的だ。前田氏も、「なんだかんだ言いつつも、ポイントは複数種類を使われているのが実態」だと語る。そこで、「dポイントの価値が高いと感じていただけるよう、ポイントステージの改定を行った」。6月に導入された、ランク制がそれだ。3カ月間の利用実績に応じてランクが決まり、それに基づき、最大で2.5倍のポイントがたまるようになった。
ランクの判定基準も見直し、回線契約の継続年数は考慮せず、純粋にためたポイント数だけで決まるようになった。「回線契約のお客さまも大事だが、サービスを使っていただける皆さまも同じように大事。いろいろなものをお使いいただき、それに応じたお得感を提供する方向にかじを切った」というのが、ポイントプログラム改定の狙いだ。もともと、ドコモはdポイント導入時に、回線契約ではなく、dポイント会員を顧客基盤に転換する方針を打ち出していた。
その意味で、6月に行われたポイントプログラムの改定は、ドコモの戦略をより明確な形で具体化したものといえる。dポイントの導入から6年半の歳月をかけ、顧客基盤の転換を行ってきたというわけだ。前田氏も「回線契約者向けのステージ設計から急激に変えるのは難しかったので、徐々に変え、ここで一気に変えた。他社もそういう流れになっているが、dポイントをメインで使いたい」と狙いを語る。
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