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日本で“クレカのタッチ決済で乗車”は定着するか メリットと課題を整理する(2/3 ページ)

» 2022年08月09日 12時35分 公開
[小山安博ITmedia]

クレジットカードながら高速処理できる秘密

 もう1つの課題として、タッチ決済のスピードを指摘する声もある。交通系ICカードの代表格であるSuicaは、タッチから0.2秒以内に処理が完結することが必要とされている。

 もともとクレジットカードはそこまでの処理速度は求められていなかったが、交通機関での利用も想定したEMVCoの国際規格としては、0.5秒以内というパフォーマンス要件がある。それでもSuicaと比べれば遅く、特にJR東日本の新宿駅のような大量の乗降客数が一度に集結する改札では滞留してしまう可能性がある。

 そうした課題に対して、stera transitはどのように対処しようとしているのか。stera transitでは、交通機関向けに4つの仕組みを用意しており、そのうちの3つの仕組みでは処理を0.25〜0.35秒で完結できるという。

stera transit stera transitの4つのスキーム。入出場のいずれかでタッチする固定運賃のKFT、入出場で2回タッチし、距離によって運賃が変わるMTT、固定運賃でタッチ1回のMTT 1TAP、MaaS向けのPre-Purchaseがあり、下の3つは0.25〜0.35秒の処理速度

 この高速化を実現するのが、QUADRACのQ-moveだ。そもそも交通系ICとクレジットカードのタッチ決済では、処理方式が異なっている。交通系ICはリッチクライアント方式であり、非接触IC内にチャージした残高を保管。改札機のリーダーにタッチすると情報が読み出され、運賃計算が行われて残高が更新される。

 改札機側では、そのICが使えるかどうかのネガリストとの照合、売上処理などが行われ、タッチされたSuicaの利用情報、カード発売情報、利用履歴などのデータをまとめた「一件明細」が作成される。この一件明細は駅に設置されたサーバを経由してセンターサーバに送信され、集計が行われる。

 こうした仕組みのため、ネットワーク障害に強いというのは大きなメリットだ。逆に、残高をクラウド上には保管しないため、オンラインサービスなどの他のネットワークサービスと連携できないのは弱点とされてきた。

 それに対してQ-moveの「タッチ決済-クラウド方式」では、クレジットカードを改札機のリーダーにタッチすると、カード番号(PAN)が改札機経由でサーバに送信される。

stera transit 従来のリッチクライアント方式とタッチ決済-クラウド方式の違い

 このサーバでは、そのPANに対応する利用履歴やこれまで収集されたネガリストなどが保管されており、運賃計算や割引計算などを実行して運賃を確定する。そのデータを売上としてカード会社に送信。売上処理が実行されると残高が利用できるようになる。クラウド上に残高が保管されているので、その残高を他のサービスで利用することも容易だ。

 問題は、この一連の流れを実行した上で改札がオープンして入出場できるようになるまでの時間だ。Q-moveではこの時間が約0.3秒。この0.3秒はICチップの性能に依存しているとしており、物理カードよりもスマートフォンの方が「一般的に速くなる」(QUADRAC高田昌幸社長)という。

stera transit 一般的な鉄道、バスのような2回タッチ方式での利用状況

 高田社長は、「交通系ICに比べると遅いが、実証実験では実用上問題ないぐらいのスピードと評価されている」と説明する。

 この0.3秒を実現するためにQ-moveでは、改札での入場時にカードの有効性確認とオフライン認証のみを実施する。オフライン認証は、一般的にクレジットカードで定められている真正性の確認で、「0.3秒という処理時間の大半の時間を費やしている」(同)のが、このオフライン認証だ。同時にカードの有効期限も確認する。

stera transit 約0.3秒というスピードはほぼオフライン認証の時間。並行処理することで短時間に収めている

 それと同時並行で、クラウドにPANを送信して乗降履歴とネガリストをもとにサイクルチェックとネガチェックを実施。タッチされたカードがそのまま利用できるかを判定して改札機に結果を返す。オフライン認証している間に結果が返ってくるため、全てをパスした場合に改札機は通過を許可する。

 こうした工夫によって、「ちょっと遅いけど立ち止まるほどではない」というスピードで、クレジットカードのタッチ決済による入場が可能になった。交通系ICのように何人もの人が連続して通過しようとすると処理が追い付かない可能性はあるが、改札機を交通系ICと分離するなどすれば、通常の駅であれば問題になるほどではなさそうに感じる。

 入場後、乗車している間に追加の処理が実行されている。まずカードの有効性チェックを実施。カードが無効の場合はネガリストへの登録を行う。この処理自体は「数秒の時間が必要」(同)なため、入場後に実行する。

 出場時は、入場時と同様にオフライン認証、サイクルチェック、ネガリストの判定が行われ、乗車履歴からの運賃計算も実行される。それが改札機に返され、ゲートが開いて改札機の画面上に運賃が表示される。

stera transit 乗車中にも処理を行い、出場時も同様にチェックを行う
stera transit 出場時にリーダーにタッチすると運賃が表示される。写真は南海電鉄のなんば駅(2021年4月撮影)

 実はこの時点ではクレジットカードの取引は完了しておらず、乗降した翌日の早朝、そのカードの1日の乗降履歴から運賃を合計。一まとめにした上でオーソリとクリアリングを実施する。例えばクレジットカードのサービスで利用通知機能を使っていれば、このタイミングで通知が届く。

stera transit Q-moveでは乗降後、即座に履歴を確認できる。1日の乗車履歴もまとめて確認可能

 このように、Q-moveでは通常の店舗の買い物ではまとめて行われるクレジットカードの処理を分離し、それぞれのタイミングで処理を行うことで高速化を実現している。

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