携帯電話番号やメールアドレスを使い、銀行や決済サービス間の送金を低額で行える「ことら送金サービス」が10月11日にスタートした。まずはメガバンク3行にりそな、地方銀行の20行が対応。合計では57行が対応予定となっており、各行が保有する個人向け口座2億1000万口座が相互に接続できるようになる。
ことらの川越洋社長は、ことら送金によって「これまで銀行振込が使われてこなかった場面で真価を発揮する」と指摘。送金需要の掘り起こしで銀行業界の活性化につなげ、日本のキャッシュレス化を進展させたい考えだ。
銀行業界が意気込む反面、接続を期待されているPayPayやNTTドコモ(d払い)など資金移動業者からの申し込みはいまだにない。資金移動業者が参画すれば、例えばPayPayからd払いなど、異なるアプリ間でも送金が可能になる。ただ、資金移動業者からは、「細かな説明を受けていない」との不満の声も聞こえており、銀行を優先して資金移動業者への対応が後回しになっているのが現状のようだ。
ことらは、既存のシステムを流用することでコストを下げて銀行間などの資金移動を可能にするサービス。ことらはAPIを提供し、それをアプリなどに組み込むことで、安価な手数料で異なるサービス間で送金が行えるようになる。
現在、銀行を経由する送金は全銀システムを使っている。安定している反面、重厚長大でコストが高いため、送金手数料がネックとなっていた。
諸外国では、「インスタントペイメント」と呼ばれるジャンルのサービスが普及しており、端緒となったのは英Faster Paymentで、2008年にイギリスでサービスを開始。その後、2014年の米Zellaを始め、スウェーデンSwish、シンガポールPayNowなどの同種サービスが提供されている。
日本では、銀行口座の開設・維持が容易で、全銀システムが24時間365日の即時入金を可能にしたモアタイムシステムを2018年から稼働させたことで、一部のニーズが吸収できてしまっており、サービスを超えた送金システムの構築が遅れた形だ。
その後、PayPayなどの資金移動業者による決済サービスが普及したが、送金システムの代わりに口座振込を使用することでチャージを行っており、その手数料が課題とされている。こうした課題の解決のために2020年にことらの構想と会社の立ち上げが発表され、2年間で本サービスへとこぎつけた。
ことら送金では、接続する銀行、決済サービス間での資金移動が可能で、ことら側の手数料を安価に抑えることによって送金コストを削減。現時点で開始している20行はユーザーに対してことらによる送金手数料を無料としており、利用者は異なる銀行でも無料で送金できるようになる。
自分の口座間だけでなく、電話番号やメールアドレスを銀行口座とひも付ければ、他人の口座にも送金できる。相手の口座番号を知らなくても、どの銀行を使っていても、どの決済サービスを使っていても、電話番号やメールアドレスが分かれば送金できるというのが強みだ。
銀行向けアプリプラットフォームの銀行PayやJ-Coin Pay、Bank Pay、Wallet+がまずは対応。これらを使う銀行が順次対応をしていく。川越社長によれば、年内にさらにいくつかのアプリが対応するという。
2023年4月からは、税公金の請求書に統一QRコードが導入されるが、ことらでもこれに対応し、税公金の振込も可能にする。このタイミングで導入を検討している銀行も多そうだ。
ことら送金は、10万円までの個人向けの送金に特化したサービスだが、税口金の支払いのみ、10万円の制限がなく、コンビニエンスストアの収納代行の制限である30万円を超えた振込も可能なのでニーズは高いというのが銀行側の認識だ。
銀行業界は、資金移動業者の決済サービスに押される形で、コード決済による店頭決済や個人間送金、最近ではEC決済などへも対応を拡大している。特に地銀はユーザーの利用低下が課題となっており、決済サービスに加えてことらによって需要が生み出されれば、銀行アプリという接点への誘導が可能になると期待する。
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