最近、スマートフォンを乗り換えて写真を撮ってみると、以前よりも「派手な雰囲気になった」と感じることも多い。なぜそのような傾向になっているのか、考察してみる。
スマートフォンにおいて、撮影する写真の画質を従来の手法で上げることは難しくなってきている。イメージセンサーをはじめ各種パーツが大型化すれば、本体容積を圧迫し、レンズに関してもそこそこの厚みのあるパーツになる。近年ではハードウェア性能を強化したものも出ているが、本体が分厚くなったり、重量増につながったりしている。
そんな中で生まれた多眼化の流れは、画角の自由度を上げ、高性能なプロセッサを使用しての合成処理というスマートフォンに新たな変化をもたらした。
その中で頭角を示したものは「AIカメラ」と呼ばれるものだ。画像処理に関してもCPUやGPUを使用していたものを、NPUという専用のアクセラレータに処理を任せてしまうというもの。これによって従来では難しかった2眼合成処理の後にHDR処理をかける、リアルタイムシーンエフェクト(フードモードで色が変化するなど)、夜景モードといった処理を高速かつ高精度に行うことが可能になった。
HiSilicon Kirin 970を搭載した「HUAWEI Mate 10」シリーズに始まり、AI性能が強化されたSnapdragon 845の登場を契機に「AIカメラ」と呼ばれるものが一気に普及した。
AIカメラのシーン検出は多くの画像を学習させて、その情報をフィードバックしているものだ。AI補正に関しても過去に写真家が撮影した風景写真やポートレート、フードフォトなどを元にしているため、いわゆる「現像後」のもので出力される。そのため、モノによってはより鮮やかに撮影され、「派手」と感じる結果になっている。
派手なチューニングの背景には「分かりやすさ」とも捉えられるSNS映えの存在がある。ここで言う「映え」は被写体のインパクトではなく、レトロ調の加工で感傷的な雰囲気にしてみたり、彩度を高めてより鮮やかに表現したりといったことだ。
Instagramをはじめ、撮影した写真にフィルターなどの簡単な編集をしてアップロードする例も多い。TwitterやLINEなどにもアプリ備え付けのフィルターが存在するなど、ユーザー側の味付け需要は大きくなりつつある。
ここでMMD研究所が公表している「スマートフォンカメラの利用に関する調査」のデータを確認してみよう。統計は2016年、2018年と古いデータにはなるが、消費者の利用動向は追えるはずだ。
2016年時点のデータでも全年齢平均で67.1%のユーザーが写真の共有、アップロードの経験があるという結果になっている。20代以下の若い世代では8〜9割に迫る結果となった。
写真の共有としてはLINEなどのメッセンジャーアプリが上位だが、若い世代ではTwitterやInstagramへの共有割合が増えるなど、興味深い結果が出ている。同様の趣旨となる利用実態調査でも、SNSへの共有頻度は若い世代ほど伸びており、写真を共有し他者に評価される環境が以前よりも一般化しているように感じる。
加えて、「写真を加工した経験があるか」についても49.6%という数字が出ている。年代別でも10代では平均78%、女性に絞れば94.2%の方が経験があると回答している。この加工には自撮り写真も含まれるが、加工方法についても「彩度、明暗、色の調整」が24.6%と全体の4分の1近い数字を示している。フィルター機能を使うユーザーも14.6%と3番目に入っている。
2018年のデータでは、写真加工経験の数値で「ある」と答えた方が33.4%に下がるなど変動している。若年層でも数字が減っていることを鑑みて、前述のようなAIカメラを搭載した機種の出現、フィルターを備えたアプリの一般化による「写真加工」への認識が変わってきているようにも感じる。加工方法は「彩度、明暗、色の調整」が依然として首位であった。
前述の調査結果も踏まえ、画像のSNS投稿や編集の需要が高まっていることが分かる。編集するということは、撮影した写真に対して気に入らない点や満足いかなかった点があることへの表れとも評価できる。
感傷的な雰囲気の演出、鮮やかで目に付く写真はSNSでの反応も多くなる印象だ。ユーザーがこのような写真を求めているのであれば、スマートフォンのカメラチューニングがこのように変化することは自然な流れだ。
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