ワイヤレス充電の次世代規格「Qi2」、Androidユーザーが注目すべき理由

» 2023年01月25日 15時35分 公開
[山本竜也ITmedia]

 ワイヤレス充電規格のQiを策定している業界団体Wireless Power Consortium(WPC)は1月3日(米国時間)、次世代規格となる「Qi2(チーツー)」を発表しました。

 WPCのメンバーでもあるAppleからMagSafe技術の提供を受け、それをもとに磁力で位置合わせを行う「Magnetic Power Profile」を導入します。これにより、ワイヤレス充電で起こりがちな、充電位置がずれていてうまく充電できていなかったという問題を解決。充電効率の改善と高速化を実現するとのことです。

Qi2 WPCが次世代規格「Qi2」を発表しました

 AppleがiPhone 12シリーズから導入したMagSafe技術は、充電規格としてはQiをベースにしており、リング状に配置された磁石により位置合わせを行うというもの。単なる位置合わせにとどまらず、iPhoneの背面に貼りつくモバイルバッテリーやカードケースなど、さまざまなアクセサリーが登場しており、これをうらやましく思っているAndroidユーザーも少なくないのではないでしょうか。

 Qi2により、MagSafeと同じ磁力による貼り付き機能が標準になれば、Androidでも充電が便利になるだけでなく、さまざまなアクセサリーが登場するものと期待できます。WPCもプレスリリースで「現在の平面対平面デバイスでは充電できないような新しいアクセサリーにも市場を開放する」としているので、スマートフォンに限らず、例えばスマートウォッチやワイヤレスイヤフォンなど、多くのデバイス向けにQi2を展開していく方針のようです。

 特にスマートウォッチでは、Pixel Watchのようにワイヤレス充電ではあるものの、充電台は専用のものを使わなければいけないというものも少なくないので、これがQi2に統一されるのであれば、ユーザーとしては素直に歓迎したいところです。

Qi2 MagSafeではマグネットを利用したさまざまなアクセサリーが登場しました。Qi2にも同様のことが期待できます

 なお、Qi2の詳しい仕様はまだ公開されていませんが、「業界を1つの世界標準に統一する」としており、Qi2はQiと後方互換を持っていると考えられます。実際、CES 2023で展示されていたQi2のプロトタイプでは、iPhoneの充電を行えたようです。ただし、MagSafeの充電をフルに利用できるのはMagSafe認証を受けた機器のみなので、Qi2自体がMagSafe認証を受けるのか(相互認証となるのか)、大枠での互換は維持しつつMagSafeは独自路線を続けるのかは不明です。まずはQiやMagSafeと同じく最大15Wでの充電を規格として策定し、それが完了次第、より高出力な規格の策定に取り組むとのことです。

 ところで、最近ではワイヤレス充電といえばQi、あるいはMagSafeを思い浮かべる人がほとんどではないかと思いますが、数年前まではQiとAirFuelが競っていました。AirFuelは、PMA(Power Matters Alliance)とA4WP(Aliance for Wireless Power)という2つの団体が合併して2015年に誕生した業界団体です。

 日本では、当初からQiのみが普及していた印象ですが、世界に目を向けると最初からQi一色だったわけではなく、AirFuel(旧PMA)が主に北米で高いシェアを誇っていました。2014年には、全米のスターバックスにPMA規格のワイヤレス充電サービスを導入すると発表していたほどです。こうした状況のため、当時のスマートフォンにはQiとPMA、両方の規格に対応しているものもありました。

 しかしながら、この状況は2017年にAppleがiPhone 8/8 PlusとiPhone Xのワイヤレス充電規格にQiを採用したことで大きく変わります。スマートフォン分野ではほぼQiのみとなり、AirFuel(PMA)を見かけることはなくなってしまいました。

 ただ、AirFuelはなくなったわけではなく、スマートフォン以外の分野で存在感を見せ始めています。WPCがQi2を発表したのと同じ1月3日、AirFuelは「AirFuel RF」という新しい充電規格を発表しました。Qiはワイヤレス充電ではありますが、充電方式に電磁誘導を利用しており、充電できる距離はほんの数cm。このため、基本的には充電台に乗せる必要があります。これに対してAirFuel RFは、無線周波数を利用して数mの範囲で充電が可能。充電台に乗せる必要はなく、例えばリビング内ならどこにあっても充電ができるということが実現するわけです。

Qi2 AirFuelは長距離非接触充電規格のAirFuel RFを発表しています

 同様の充電技術は、Xiaomiが以前に「Mi Air Charge Technology」として発表しています。実現すれば、充電を気にする必要がなくなるほどのインパクトはありますが、その出力は5Wと低め。AirFuel RFの出力は利用する周波数によって異なるとのことですが、利用用途としてはIoTデバイスやセンサー、店舗で使う電子荷札などを想定しており、やはり低出力な規格となっています。

 今後、少なくともスマートフォンの分野でAirFuelが主流になることは難しいと思いますが、例えば自宅やオフィスなどの特定空間ではAirFuel RFで緩やかに充電を行いバッテリーの消費を抑え、出先などで短時間にバッテリーを充電する必要がある場合にはQi2の充電台に乗せるといった使い分けになる可能性もあります。

 Qi2の対応製品は、2023年末に登場するとのこと。AirFuel RFも2023年には認証プログラムを開始する予定とのことで、2023年はワイヤレス充電にいろいろと動きが出てきそうです。

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