“ポスト中国”のあの国でXiaomiスマホが不振のワケ 販売戦略の見直しが急務山根康宏の中国携帯最新事情(1/2 ページ)

» 2023年02月22日 06時00分 公開
[山根康宏ITmedia]

 新型コロナウイルスに起因する景気後退もあり、2022年のスマートフォン市場は不調の結果に終わった。大手調査会社Canalysのデータによると、2022年の世界のスマートフォン出荷台数は2021年に比べて11%マイナスとなり12億台を下回った。特に例年スマートフォンの販売数が増加する第4四半期は深刻で、2021年と比べるとマイナス17%と四半期ベースでここ数年来最悪の減少となった。

「ポスト中国」のインド市場に各社が参入

 スマートフォン出荷台数の減少理由は景気の影響だけではなく、スマートフォン新製品に対しての消費者の関心が年々弱まっていると見る向きもある。実際に日常的な用途なら、現在販売されているミドルレンジクラスの製品でも十分使える性能を有している。また中国市場ではメーカー同士が過度な新製品の投入合戦を繰り広げており、新製品に大きな進化が見られなければ、むしろ価格が下がった旧モデルを求める消費者が増えても不思議ではない。

 とはいえ、中国メーカーは出荷台数の大半を中国市場に頼ってきた。OPPOやvivoがグローバルで5位以内に入っているのも中国での売り上げが大きなウェイトを占めているからだ。しかし前回の記事でも触れたように、中国市場のスマートフォン出荷台数の停滞は、各メーカーの業績を大きく落ち込ませてしまう。そこで各社が注力しているのが世界第2のスマートフォン市場となったインドだ。

Xiaomi 中国市場同様インドにも注力する中国メーカー(XiaomiのWebサイトより)

 インドにはほぼ全ての中国メーカーが参入を果たしている。そして気が付けばXiaomiがシェア1位となり、OPPOの格安モデルブランドだったrealmeも分社独立しメーカーとしての存在感を高めている。しかしこの2社には今、逆風が吹いており、出荷台数に急ブレーキがかかっている。

 Canalysによると、2022年のインドのスマートフォン市場は前年比で出荷台数が6%減少した。しかも第4四半期は前年比マイナス27%と急ブレーキがかかっている。中でもXiaomiはマイナス40%、realmeはマイナス65%と大幅減となった。Xiaomiは2017年第4四半期にSamsungからシェア1位を奪い、以来トップの座をキープしていたが、この第4四半期にはSamsungだけではなくvivoにも抜かれシェア3位と大きく後退してしまったのだ。各メーカーは第4四半期に売れ筋モデルを多数投入して販売増を狙うが、Xiaomiとrealmeの製品展開は消費者ニーズにマッチしなかったのである。

 インドは中国よりも低価格モデルへの関心が高く、Xiaomiがシェアを高めたのも低価格モデル「Redmi」シリーズを積極的に展開したからだ。とあるECサイトのスマートフォン販売台数のトップ10のうち、Redmiシリーズが大半を占めることもよくあるほど。realmeがブランドからメーカーとして分社化したのも低価格モデルの投入を強化するためだった。

 Xiaomiとrealme以外を見ると、Samsungはマイナス21%ながらもシェアの減少は2%にとどまり、シェア21%でトップ。2位のvivoは出荷台数を13%増加させ、5位OPPOも9%増だった。各社の四半期ごとのシェアのグラフを見ると、Xiaomiとrealmeの落ち込みが大きい。OPPOはAシリーズ、vivoもYシリーズ、そしてSamsungはGalaxy Aシリーズ、Mシリーズ、Fシリーズと低価格モデルも展開している。

 しかしインドの家電量販店のスマートフォン売り場ではSamsungの折りたたみモデルやvivoの高性能カメラフォンが大きく目立つ。実際の売れ筋は低価格モデルだろうが、「憧れの存在のハイエンドモデル」のあるメーカーに消費者の関心が移り始めているのだろう。インドも価格だけで売れる時代ではなくなりつつあるのだ。

Xiaomi 第4四半期のインドのスマホシェア。Xiaomiとrealmeの落ち込みが目立つ

インド市場で中国メーカーの格安スマホが売れない4つの理由

 低価格モデル中心のラインアップではインドでの販売数アップが見込めない理由は、他の数字を見ても明らかだ。

 IDCによると、インドでは500ドル以上のプレミアム価格帯のモデルへの関心が高まりを見せているという。BNPL(Buy Now Pay Later、後払い決済)や分割払い購入の普及で高価格帯のモデルが以前よりも買いやすくなった。2022年上半期はプレミアムスマートフォンの出荷台数が前年比83%も伸び、その結果、全スマートフォン出荷台数のうち6%を占めるまで成長している。手元資金がないため低価格モデルの購入に甘んじていたインド人たちが、次々とiPhoneやGalaxyの折りたたみスマートフォンを買い求めるようになったのだ。

Xiaomi Samsungのオンラインストア。Galaxy Z Flip4も手軽に分割で買える

 また、インドでも5Gサービスが開始されたことにより、消費者の関心は4Gから5Gスマートフォンへと移り始めている。自宅にインターネット回線がない家庭も多く、格安の4Gスマートフォンを買うなら少しお金を追加して5Gのエントリーモデルを買い、ストレスなく動画配信サービスを楽しもう、という動きも増えている。これが4Gの格安機が売れなくなりつつある2つ目の理由だ。

 さらには、スマートフォンの販売スタイルも各メーカーの出荷台数に大きな影響を与えたとCanalysは報告している。新型コロナウイルスがまん延していた2021年はFlipkartやアマゾン、そして各メーカーのECサイトなどオンライン販売が好調だったが、2022年になると地方都市を中心にリアル店舗での買い物客が戻り、オフライン市場での販売を強化したメーカーの販売が好調だったという。Xiaomiとrealmeはオンライン販売を強化していたXiaomiとrealmeに対し、OPPOとvivoはオフライン回帰をいち早く進めていたのだ。

 そして4つ目の理由が格安モデルの競争激化だ。調査会社が一般公開するグラフや表には出てこないが、アフリカなど新興国で低価格スマートフォンを展開する中国の隠れた巨人、Transsion(伝音科技)が低価格モデルでインドでも存在感を高めている。TranssionはItel、Tecno、Infinixの3社を持ち、インド市場に特化したモデルも積極的に展開している。例えばTecnoの「Spark Go 2022」はアウト1300万画素、イン800万画素とカメラ性能はエントリークラスだが、インカメラの横にフロントフラッシュを搭載。暗い場所でも明るいセルフィーが写せるためインドで人気のモデルになっている。価格は8999ルピー(約1万4000円)だが、他の低価格機と十分な差別化ができている。

Xiaomi 前面にもフラッシュがあるTecno「Spark Go 2022」

 さらには、インドにはMicromax、Lava、Karbonn、LYFなど地元メーカーも数多く存在している。大手メーカーより技術力がまだ低いこともあり、彼らの主力モデルは低価格な製品だ。インド政府がTikTokなど中国製のアプリを規制したり、Xiaomi、vivo、OPPOに対して追徴課税を課したりすることにより、手軽に買えるスマートフォンとして、中国メーカーではなく地元メーカーを選ぼうと考える消費者も少しずつ増えているようだ。

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