通話もネットも使えない「AcryPhone」が生まれたワケ きっかけは“電池の切れたスマホ”(1/2 ページ)

» 2023年04月07日 11時00分 公開
[渡辺まりか,ITmedia]

 スマホのようでいてアクリルを切り出しただけの板「AcryPhone」。発表時のツイートは、合計1万632件リツイート(引用リツイート953を含む)され、3.6万件の「いいね」を集め、830.2万回表示されるなど、いわゆる「万バズ」を果たしました。

AcryPhone 「まるでスマートフォン」のAcryPhone

 「一体これは何なのか」「これなら盗まれても(財布的に)痛くない」「スマホ依存症の人の治療用デバイス」「ネタ?」など、いろいろな意見が集まりました。

 筆者も取り寄せて、さまざまな使い方を試し、先日、レビュー記事を公開しました。このつやめくブラックボディーを開発したのはどのような人だろうか。なぜまるでスマートフォンのようなアクリルの板を販売しようと思ったのか。エコードワークスの福澤貴之さんに話を聞きました。

【更新:2023年4月11日17時15分 一部、実際の発言内容とニュアンスの異なる箇所があったため、加筆修正いたしました。】

単なるメーカーではなくクリエイティブスタジオ

 エコードワークスは、自称“虚匠”の福澤さんが1人で運営しているクリエイティブスタジオです。これまで発表してきたものにはTシャツやステッカーなどのバリエーションがある「妄想マッピング」シリーズや「新書風手帳型スマホケース」といったものがあります。これらは全て「製品ではなく、作品」であり、福澤さんは「単なるメーカーではなくクリエイター」だと話します。

AcryPhone AcryPhoneを手にするエコードワークス“虚匠”福澤貴之さん

 着想を得てから試作品づくり、作品制作の発注から、発送までを全て1人で行います。会社ではないので、福澤さんの肩書は社長ではなく“虚匠”。気の向くままに、プロダクトを使って表現し続け、エコードワークス立ち上げから10年が経過したといいます。

 では、なぜこのタイミングでAcryPhoneのアイデアが生まれてきたのでしょうか。やはり、デジタルデトックスを意識したのでしょうか。

デジタルデトックスを促したかったわけではない

―― AcryPhoneの開発経緯をお聞きしたいと思います。やはり、コロナ禍になって、自宅にこもる人たちがデジタル……特に、SNS疲れを起こしているので、デジタルデトックスを促すものを作りたいと思われたのでしょうか。

福澤氏 いいえ、違いますね。

―― では、何がきっかけだったのでしょうか。

福澤氏 出先でスマートフォンの電池が切れてしまったことがあったのですが、この電池の切れたスマホがアクリルの板に見えました。「こんなのを持ち歩いていても何の役にも立たない」と思ったのですが、アクリルの板そっくりに見えるということは、逆にアクリルの板がスマホに見えるのかもしれないなと。じゃあアクリル板をスマホっぽい形に切り出してみたら、実際どうなのか? と思ったことがきっかけです。

 以前は外出することが多かったので、常にスマホのバッテリー残量を気にした生活をしていたのですが、テレワークが増えてほとんど家にこもるようになって、気にしなくなった。だってそうですよね、家にいるから、切れそうだったらその場で充電すればいいんですから。

 気にしていないところで外出すると、何が起きるか。突如やってくるバッテリー切れです。しかも、電池切れを気にしていないから、モバイルバッテリーも持ち歩いていない。スマホを起動するすべがなくなってしまうんです。

 古いバージョンのiPhoneであれば、スマホらしさをホームボタンで主張していましたが、最近ではiPhoneに限らず、物理ボタンが前面になくて、側面もラウンドしている形状のものが少なく、切り立っている。そうすると、画面オフの状態ではフラットな、ただの黒いアクリル板にしか見えませんよね。

AcryPhone アクリル板にしか見えない電源の切れたスマートフォン……ではなく、正真正銘のアクリル板を切り出したAcryPhone
AcryPhone こちらは電源の切れた正真正銘のスマートフォン。言われてみればアクリル板のようだ

―― アクリル板ですか。

福澤氏 というのも、高校生の頃からアクリル板加工を行っていたので、なじみがあったんですね、アクリル板に。

―― なるほど。

福澤氏 スマホの板化時代。その潮流を風刺するような、そういう気持ちもあって作ったのがAcryPhoneなんです。

共感してくれる人が手に取ってくれればいい

―― 風刺も込められていたんですね。どんな人たちにどんな使い方をしてほしい、という思いはあったのでしょうか。

福澤氏 作品なので、そういうのもないですね。現代アート的な文脈で、世の中を風刺する、皮肉を込める、そういう表現活動の一環として作りましたので。

 ただ、作品を出しているからには鑑賞者がいて、ファンがいる。「確かに、アクリル板にしか見えないよね!」と共感して面白がってくれる人がいたらいいなぁという思いで世に出しました。

―― 売れるか売れないかも分からない。

福澤氏 そうですね。“マーケット”や“ターゲット”を調査してそれを吸い上げて開発しているわけではなく、自己表現ですから。

 とはいえ、おっしゃるように「デジタルデトックスに良さそうだ」と考える人はいるだろうなと想定することはしていました。禁煙している人が手持ち無沙汰にならないよう、禁煙グッズを使うように、スマホ中毒の人がスマホの代わりに持つのにいいかもしれない、と。

―― 実際に、どのような使われ方をしているのでしょうか。

福澤氏 海外旅行でスマホが盗まれがちなので、代わりにこれを持っていけばダミー品として役に立つかもしれないので、旅行に行くときに持ち歩きたい、という声がありました。あとは商業用途で、広告の素材とかでスマホが写るようなビジュアルがあるときに、許可を取らなくても使えるんじゃないかと。実際に問い合わせが来たこともあります。

 学校でスマホ持ち込み禁止、授業中に出したらダメという中で、学校で先生に見つかったときに、代わりに差し出す“いけにえ”にもなっているようです。親のスマホをほしがる幼児に渡すのにも良さそうという声もありました。

 もう少し大きい子の例で、小学校の中学年くらいのお子さんだと、スマホを持ち歩くのがちょっと大人っぽくて、アクセサリーとしてカッコイイという憧れみたいなものがある。よくネットで見るのは、ダンボールをスマホのような形に切って、ペンでアプリのアイコンを書いて、カマボコみたいな装飾をして持ち歩くみたいな。

 ダンボールよりもスマホじゃないスマホっぽい、スマホなじゃないものとして需要がありそうでした。実際に購入した人から「うちの娘が、ダンボールで普段持ち歩いていて、これを見せたらすごい欲しがって、お年玉で買う」というメッセージもありました。

 あと、すごく今どきの使い方だなぁと思ったのが、推し活で、好きなキャラクターが描かれたスマホメースもたくさん集めるけれど、スマホは1個しか持っていない。ケースがいつも空っぽの状態になるので、本来のスマホケースとして活用するための素体としてAcryPhoneが使えると。推しグッズの数だけAcryPhoneが欲しいという声もありました。

―― なるほど。発表の際には、ものすごい反響がありましたが、これほど人気が出るとは思っていましたか。

福澤氏 確かに「こういうのを作ってみたんだけど」というツイートにいいねが3万6000件、引用も含め1万以上のリツイートがありましたし、発売日告知には330RT、1400近くのいいねがつきました。

 作るきっかけがあったから作っただけで、予想していたわけではありません。ぼくが面白いと思うから、面白がってほしい人はいるだろうなと思ってプロトタイプを作ったという発表をしたし、発表したからにはかならず発売の算段をつけている。面白いからと発表して、「ただのネタでした」ということはしない。100個くらいの小ロットでも作れるよう準備をしています。

 もっとも、売れないことも考えて、金型を作るなどのイニシャルコストはかけません。どっちに転んでもいいようにしていました。

―― 売れ行きを聞いてもいいですか。

福澤氏 カウントしているわけではありませんが、初期ロットは完売しました。発表から数日で約100個用意していたAcryPhoneの予約注文を締め切ることになりました。その後、1カ月で500くらいの注文をいただきました。取りあえず、作れる環境を用意しておいてよかったです。

―― まだまだ勢いは続きそうでしょうか。

福澤氏 初期ロット完売後の初月に500個の注文をいただきましたが、月産500というわけではないと思います。既にお手元に届いたお客さんのツイートがバズる、メディアに掲載される、というさまざまな要因で、今後が決まるのではないかなと考えています。

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