中国国内のスマートフォン出荷台数順位は、米国政府の制裁を受けたHuaweiが急落したことで、最近では1位vivo、2位OPPO、その後をAppleやXiaomiが追いかけるという図式が続いていた。ところが2022年はこれが崩れ、4社が横並びで1位となる史上初の事態となった。しかも4強に入ったのはXiaomiではなく意外なメーカーだったのだ。
調査会社Canalysの発表によると、2022年通年の中国スマートフォン出荷量は大きく落ち込み、年間出荷台数は3億台を切った。2019年は3億7090万台を出荷しており、このまま行けば翌年は4億台を突破することは確実視されていた。しかしコロナの影響で2020年、2021年と減少が続き、2022年の出荷台数は2019年比でマイナス23%と大きな下落を見せている。
このように全体の出荷量は減ったものの、メーカーによっては出荷減を免れたメーカーもあった。2022年の中国のスマートフォン全出荷台数は前年比マイナス14%だったが、Appleはプラス4%と前年をほぼ維持した。iPhone 14シリーズは人気機種と不人気機種に分かれてしまったが、同シリーズの登場で価格の下がったiPhone 13シリーズはminiモデル以外が好調でAppleの業績を大きく支えた。
一方、vivoとOPPOはそれぞれ前年比マイナス27%と大幅な落ち込みを見せた。vivoはエントリーモデルからハイエンドまで多数のモデル展開を行っているものの、機種の乱発は在庫を増やしてしまい、またユーザーも新製品に目新しさを感じなくなってしまった。OPPOはフラグシップモデル「Find」シリーズが他社と比べると力不足であり、メーカーの「顔」が不在といえる状況だ。
vivoとOPPOの急ブレーキは想定外のことであり、結果として中国市場を激戦区に変えたのだ。5位のXiaomiも前年比マイナス24%で、上位に食い込むチャンスを失っている。
主力4社がこのような状況の中、大幅にシェアを伸ばしたのがHONORだ。HONORの出荷台数は前年比30%増と、一人勝ちになった。各社の2022年の出荷台数はvivoが5220万台、HONORが5220万台、Appleが5130万台、OPPOが5040万台で、四捨五入したシェアの数字は4社がそれぞれ18%となった。ちなみにXiaomiは3860万台で13%、6位以下のその他メーカー合計は4260万台で15%だ。
HONORがここまで伸びたのは、明確な製品ラインアップと世界最高性能を目指した製品開発に特化したからだろう。そもそもHONORはHuaweiから分離・独立したメーカーであり、旧Huaweiの優れた技術者も多数移籍した。HONORのフラグシップモデル「Magic」シリーズは、Huawei時代に自社開発した最新プロセッサ「Kirin」を搭載する「Mate」シリーズがベースのモデルだ。いわばHuaweiの最高の製品をHONORがそのまま引き継いでいるわけだ。そして最高のフラグシップモデルを武器に、下位モデルや折りたたみなど製品バリエーションをうまく広げている。
そのMagicシリーズのカメラは旧Huaweiや現Xiaomiがコラボするライカや、OPPO、OnePlusのハッセルブラッド、vivoのツァイスなどカメラメーカーとの協業は行っていない。それにもかかわらず、カメラ性能の指標の1つであるDXOmarkでは常にトップクラスの評価を受けている。2022年の「Magic4 Ultimate」、2023年の「Magic5 Pro」はいずれも発表と同時にDXOmarkスコアは1位。両モデルは2023年4月末時点でもそれぞれ総合で5位、2位につけている。iPhone 14/13シリーズよりもMagicシリーズ最上位モデルのカメラ性能が上なのだ。
実際にMagicシリーズのカメラ性能は中国でも評判は高く「HONOR=カメラ」というイメージが中国全体に広がっている。それはあたかも数年前のHuaweiの中国国内での存在感に近い。中国ではHONORブランドは旧Huawei時代から人気が高かった。Huaweiのスマートフォン新製品がなかなか投入されないことから、HuaweiからHONORに乗り換えるユーザーはかなり多いだろう。なお、HONORが搭載するAndroidベースの自社開発OS「MagicOS」はHuaweiの「EMUI」「HarmonyOS」とも親和性が高く、Huaweiからの乗り換えも容易だ。
2022年の中国国内の機種別の販売台数を見てみよう。Counterpointの調査によると、iPhone 13が単一機種では6.6%と抜きんでている。これにiPhone 13 Pro Max、iPhone 13 Proを加えると3機種だけで10.7%となり、中国で売れているスマートフォンの1割がiPhone 13シリーズだった。なお、iPhone 14シリーズは9月発売だったこともあり、年間ランキングには1機種も入っていない。
中国メーカーを見ると、HONORが3機種、vivoが2機種、OPPOが1機種入っている。中国メーカーはいずれも低価格モデルがエントリーしているが、「HONOR 60」は1億画素カメラ搭載のミドルハイレンジモデルだ。ミドルハイレンジ製品が上位に入るということは、HONORに対するイメージがいいことの表れだろう。ランクインした中国メーカーの他のモデルは1000元台のエントリー機であることからも、HONORは価格以外の面でも強さを発揮していると考えられる。
中国国内で「HONOR=Magic=最高のカメラ」というイメージを確固たるものにしたHONORの次の戦略はグローバルでの存在感アップだ。既に欧州などではミドルレンジモデルを中心に展開しているが、2023年からは積極的にフラグシップモデルの投入を図っていく。2023年2月にバルセロナで開催されたMWC Barcelona 2023ではグローバルと中国で同時にフラグシップモデル「Magic5」シリーズを発表。他のメーカーは先に中国で発表を行い、その後でグローバル向けのアナウンスを行うことが多いが、HONORは全世界同時に、しかもMWCという世界最大の通信関連イベントで新製品を発表したのだ。
ちなみに同MWCではXiaomiも「Xiaomi 13」シリーズの発表会を行ったが、中国では既に2022年12月に発表済みの製品だ。Xiaomiは同シリーズ最上位モデル「Xiaomi 13 Ultra」の発表がうわさされていたが、MWCでは発表はなくメディア関係者をややがっかりさせた。なお、Xiaomi 13 Ultraは2023年4月に発表された。
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