ただ、こうした生成AIによる画像処理は、ディープフェイクと紙一重。生成AIが普段使っている機能に溶け込んでいき、身構えずに使えるようになると、意図せず、フェイク写真/動画をネットにばらまいてしまうことになりかねない。こうした事態への対策として、QualcommはSnapdragon 8 Gen 3で「C2PA」を採用。これは、画像の来歴や編集過程を残すための業界共通規格。一部のデジタルカメラやPhotoshopなどの編集アプリも、これに対応している。
例年同様、Snapdragon 8 Gen 3も発表と同時に多数のメーカーが採用を表明している。日本市場でおなじみのソニーやXiaomi、OPPO、モトローラに加え、Huaweiから独立し、欧州やアジアで存在感を高めているHonorや、Vivoなど、おなじみの面子のスマホが出そろうことになる。
2023年は特に動きが早く、XiaomiはSnapdragon Summitの基調講演で26日(現地時間)に発表されたフラグシップモデルの「Xiaomi 14」をチラ見せ。Honorも翌日のイベントにCEOのジョージ・ジャオ氏が登壇し、Snapdragon 8 Gen 3上で同社の大規模言語モデルを活用したAIアシスタントが動く様子を紹介している。このデモでは、ユーザーがスマホに話しかけ、アシスタントから提示された選択肢を選ぶだけで、動画の選択や編集が完了してしまう。
AIを活用した機能は、Snapdragon 8 Gen 3で突如として登場したわけではなく、これまでも各社が注力していた。実際、AppleはiPhone X以降、Aシリーズのチップに「Neural Engine」を搭載し、その性能を強化するとともにAIを生かした機能を増やしている。Googleも同じで、先に挙げたPixel 8/8 Proは、編集マジックなどの機能で生成AIをスマホ側に取り込んでいる。年末から2024年にかけてのスマホは、そんな機能がもっと当たり前になりそうだ。
とはいえ、ここで紹介してきた機能は、あくまでQualcommやそのプロセッサを採用する一部のメーカーが示した“デモ”にすぎない。製品としてスマホに実装するかどうかは、その端末を開発するメーカー次第だ。あえてAIを搭載しないメーカーもあれば、技術力や開発のためのリソースが足りず、搭載を見送らざるを得ないメーカーも出てくる可能性がある。
例えば、Xiaomiは、Snapdragon Summitのイベントで、2016年から7年に渡って長期的にAIの研究開発に取り組んできたことを紹介。AIに従事するスタッフは、3000人を超えているという。Honorも、Huaweiからスピンアウトした企業であるだけに、独自機能の開発に積極的だ。ただ、こうした動きにきっちり追随できるメーカーは、そこまで多くないだろう。新規参入のハードルもさらに高まる。AIを処理する能力が高まるとともに、メーカー同士の実力差がさらに顕在化しそうな印象も受けた。Snapdragon 8 Gen 3は、そのトリガーになるプロセッサといえる。
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