各社とも通信事業とは別に、金融やコンテンツ、サービスといった非通信領域も強化している。中でも金融事業は、顧客接点やスマホという決済サービスの母体を提供する通信事業と相性がいい。もともと銀行や証券、クレジットカードが好調で通信事業に参入した楽天グループはもちろん、KDDIもKDDIフィナンシャルホールディングス傘下にauじぶん銀行やauカブコム証券、au損保などを束ね、業績を伸ばしている。この金融事業と通信の連携が、にわかに強化されている。
9月には、KDDIが傘下の金融サービスと連動した「auマネ活プラン」を開始。これに対抗するよう、ソフトバンクも10月に、料金プランに連動してPayPay還元率が上がる「ペイトク」を導入している。これらの料金プランは、通信料と金融・決済サービスを、より直接的に結び付けている点が新しい。どちらも下期にスタートしたサービスだが、決算説明会では、出足の状況も明らかになった。
「使い放題MAXの3人に1人が加入しており、好調な滑り出し」と自信をのぞかせたのが、KDDIの高橋氏。あくまでデータ容量無制限の料金プランを必要とするヘビーユーザーに限定されてはいるが、新規加入の3分の1がauマネ活プランを選択しているという。auマネ活プランは「auの魅力化を進める」(同)一環として導入され、ARPUの拡大や解約率の低下に貢献する。
一方で、金融事業への影響も大きく、銀行口座やクレジットカードの加入を促進する効果もあるという。KDDIによると、店頭加入率はau PAYカードが1.2倍、au PAYゴールドカードが1.5倍、auじぶん銀行口座に至っては4.8倍もの実績が出たという。金融事業でのメリットが通信の価値になり、さらにそれが金融事業に還流するのはまさにシナジー効果。料金プランと金融サービスを特典という形で直接結び付け、それをしっかりショップの店頭で訴求できたことが、スタートダッシュに成功した要因といえる。
これに対し、ソフトバンクのペイトクも、「グループ会社を育てるために販促費をばらまいていると見えるかもしれないが実は違う。コンシューマー事業へのリターンを計算して実施している」(宮川氏)。宮川氏によると、Yahoo!ショッピングやPayPay、PayPayカードのどれか1つを利用しているユーザーは、解約率が通常の約3分の1に低下するという。「グループサービスとの連携は、グループ会社の成長だけでなく、当社の顧客基盤拡大につながる」(同)というのが、ソフトバンクの狙いだ。出足も好調で、宮川氏のコメントからは、想定を上回る勢いであることがうかがえる。
「これまではどちらかというと数を稼いでいたのはワイモバイルだったが、今はワイモバイルよりペイトク無制限の方が毎日のレポートで勢いがある。(中略)思っていた以上で、個人的にはワイモバイルの新料金プランの方が受け入れられやすいと感じていたが、ソフトバンクブランドの方が伸びがいい。自分の感覚とは違っていたと思っている」
KDDI、ソフトバンクで好スタートを切ったauマネ活プラン、ペイトクだが、ドコモは料金プランを改定したばかり。連携させる金融サービスのピースが不足していることもあり、現時点では様子見の姿勢を示す。一方で、井伊氏は「バンドルするものがなかったのでマネックスと(資本業務提携に)合意した」と述べており、2社に近い料金プランを検討している様子もうかがえた。サブブランドやオンライン専用ブランドに押され、存在感が薄まっていたメインブランドの料金プランだが、大容量/無制限といった特徴に、金融連携が加わることで魅力が増している。この勢いが続けば、競争の軸が変わる可能性もありそうだ。
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