NTTドコモは1月17日〜18日にかけて、技術展示イベント「docomo Open House '24」を開催している。通信で「味覚」を送るというユニークな展示があった。
スマートフォンでは音声や視覚的な意味を離れたところにいる相手に伝えられる。ドコモはそれを拡張し、人間の“五感”を通信で送る技術を開発している。それが、センシングと通信を組み合わせた人間拡張技術「FEEL TECH」だ。2022年より毎年展示しており、これまで四肢の動作、触覚を共有する技術を公開してきた。
今回の味覚共有技術は、明治大学の宮下芳明研究室とのコラボレーションで実現した。宮下研究室は、2023年に軽い電流を流すと味が強く感じるという「電気味覚」でイグノーベル賞を受賞した味覚研究の専門チームだ。
その宮下研究室が開発した味覚調合装置「TTTV3」が今回のキーデバイスだ。この装置は、味のサンプルを組み合わせて、料理やワインなどの味を再現した調味液を製造できる。
ドコモの展示では、この味覚調合装置に、センサーと人間拡張技術を組み合わせて、通信経由で味覚を伝えるシステムを試作した。
展示では味覚の通信が実現した、近未来のビデオ通話を体験できた。母親が作ったトマトスープを、ビデオ通話先の子どもに“味見”をしてもらうのだが、子どもには「まずい」といわれてしまう。それはなぜか、味覚装置で子どもが感じた味を再現してみよう、というシナリオだ。
味覚装置で再現する前に、25項目のアンケートに答える。「濃い味付けの料理が苦手だ」や「ブルーチーズが食べられる」といった質問項目で、性別と年代を踏まえて、個人に最適化した味覚を調整するという。
そうして表示された個人の味の特性に合わせて、味覚装置が「子どもの感じたトマトスープ」の味を調合する。30秒ほど待つと装置は、食塩やスクロース、クエン酸などを調合して、スプーンひとさじ分の透明な液体を吐き出した。
試飲すると確かに、味にえぐみがあり、不自然だと感じられた。子どもの舌は基本五味のうち「うまみ」を強く感じやすいため、酸味が薄く塩からいような味になるようだ。
ドコモならではの工夫は、味覚の通信を「情報の意図」を伝えるという発想で解釈したことだ。料理にセンサーを付ければ味の情報をデータ化することはできるが、通信は本来、「意味」を伝えることに意義がある。その観点では、味のデータそのものを送るのではなく、受け手の感覚に合わせて調整して再現した方が意図通りに伝えられる。FEEL TECHの「人間拡張基盤」でその変換処理を行っている。
味覚の通信はまだ研究室レベルの技術で、持ち運べる味覚再現装置の開発などの課題は残る。ただし、デモンストレーション展示からは、もしこれが実現すれば未来の通信はより楽しいものになりそうだという予感は得られた。
例えばメタバース上の仲間と同じ料理をともに食べたり、高齢者が若いときに食べた思い出の味を再現したり、世界の珍味を家にいながらに味わえたりと、さまざまな応用例が期待できそうだ。
docomo Open House '24の会場展示は1月17日〜18日に、東京国際フォーラムで開催中(参加申込みは締め切り済み)。オンライン展示は2月29日まで行う。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.